PIVOT TALK SCIENCE
天文学最前線:第2の地球を探せ
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2026年7月20日

宇宙に生命体はいるのか。超大型望遠鏡TMTが挑む「第2の地球」探しなど宇宙研究の最前線を天文学者が解説。ハワイの聖地マウナケアで建設に反対する地元住民と対話を重ねる舞台裏や、元文系・数学28点から天文学者へ至った異色のキャリアを公開。2026年夏のペルセウス座流星群の最新観測情報も。 <ゲスト> ...
「第二の地球」探査最前線:天文学者が挑む深宇宙の謎と人類の未来
天文学の世界は今、前例のない熱狂に包まれている。「第二の地球」を探すという人類の古来からの夢が、最先端の技術と知恵の結晶により、いよいよ現実のものとなりつつある。地上の観測と宇宙空間での観測、二つの視点から宇宙の謎を解き明かそうとする科学者たちの奮闘は、時にロマンティックな期待とは異なる、地道で困難な現実と隣り合わせである。
しかし、その歩みは私たちの日常生活に計り知れない恩恵をもたらし、未来のビジネスを創造する原動力となっている。ハワイ在住の天文学者である嘉数悠子氏は、壮大なプロジェクト「TMT(Thirty Meter Telescope)」を通じて、深宇宙への挑戦、文化との共存、そして科学が社会に果たす役割について語った。
Q. 「第二の地球」探査は天文学の最前線か?その意義は何か?
現在、天文学において最もホットなテーマは「第二の地球」の探索である。科学者たちは、地球外生命体の存在や人類の起源といった根源的な問いへの答えを探求している。その究極の目的は、私たちのような生命体がこの広大な宇宙に孤独に存在しているのかどうかを解明することだ。
しかし、実際に他の惑星への移住を目指すという現実的な話には至っていない。なぜなら、地球に最も近い星系であるアルファ・ケンタウリですら、光の速さでも約4.3光年離れており、現在の最速ロケットを使っても到達には100年ほどかかると予測されるからである。そのため、現時点での探査は移住目的ではなく、生命の存在を示す物質や起源を特定し、人類が持つ知的探究心を満たすことを主要な意義としている。

Q. 天文学者の日常とは?そのロマンチックなイメージと実際の仕事にはどのようなギャップがあるのか?
天文学者の仕事は、世間一般に抱かれているロマンチックなイメージとは大きく異なる。夜空を直接眺めて観測を行うことはほとんどなく、実際には高山病のリスクを避けるため、観測所の室内で酸素を吸いながらコンピュータの画面とにらめっこする毎日である。
例えば、ハワイのマウナケア山頂にあるすばる望遠鏡のような大型施設では、室内のコンピューターから遠隔で望遠鏡を操作し、集められたデータを分析する。また、天体観測の機会は限られており、半年以上前に提案書を提出し、厳しい競争を勝ち抜かなければ観測を行う権利すら得られない。
そのため、せっかく得られた観測日も悪天候により失敗に終わることがある。観測に失敗すれば、次回のチャンスは早くて一年後ということも少なくない。観測室に「てるてる坊主」が吊るされることもあると語られており、最新の科学をもってしても、最後は天候を神頼みする泥臭い現実が存在する。

Q. 最先端望遠鏡TMTの技術的特徴と宇宙研究に期待される成果は何か?
次世代の超大型望遠鏡TMT(Thirty Meter Telescope)は、その名の通り口径30メートルという規格外の主鏡を持ち、現在のすばる望遠鏡と比べて集光力14倍、感度200倍、解像力4倍という圧倒的な性能を誇る。特筆すべきは、軌道上のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と比較しても約5倍の解像性能を実現する設計だ。
TMTは、コロナグラフと呼ばれる、主星の強い光を意図的に隠し、その周りを周回する惑星のかすかな光を捉える技術を利用し、ハビタブルゾーンに存在する小さな岩石型惑星の直接撮像を試みる。さらに、惑星大気の光を波長別に分析する分光解析を行うことで、酸素分子や二酸化炭素といった生命活動の兆候となる物質の検出も可能になる見込みだ。
研究効率を最大化するため、広大な視野で面白そうな天体を「サーベイ観測」するすばる望遠鏡と、特定した天体をズームインして高精細に追跡調査するTMTとの連携が計画されている。これにより、これまで発見できなかった新しい天体の発見や、宇宙のダークマター、ダークエネルギーの性質、宇宙で最初に誕生した星の検出といった多様な科学的目標に挑むことが期待される。

Q. マウナケアが「北半球最高の天体観測地」と呼ばれる理由とは何か?
地上からの天体観測は、海底の小石を眺めるようなものと例えられる。地球の大気が揺らいだり汚染されたりしていると、星はクリアに見えないのだ。ハワイのマウナケア山頂が天体観測に世界的に適しているのは、この地球大気の影響が極めて少ないためである。
マウナケアには常に北東から南西にかけて安定した貿易風が吹き、大気の流れが極めて安定している。これにより、観測を阻害する大気ゆらぎが少ない。さらに、湿度が非常に低く水蒸気による光の吸収もほとんどないため、宇宙からの光が地表に到達するまでその質が損なわれにくいという特異な環境を持つ。
この好条件は、例えば日本の観測所から撮影したオリオン大星雲の画像が、星がにじんで見えるのに対し、すばる望遠鏡が捉えた画像では個々の赤ちゃん星までもがシャープにくっきりと映し出されるという圧倒的な差となって表れる。日本の天文学者が自国ではなく、マウナケアに世界最高の望遠鏡を建設しようと考えたのも、この類まれな観測条件があるからこそである。
Q. TMT建設に見る、巨大国際プロジェクトが直面する課題と新たな動きとは?
TMTプロジェクトは、高額なコストを伴うため、日本、アメリカ、カナダ、インドといった複数国による国際共同プロジェクトとして推進されている。しかし、過去にはアメリカの政権交代に伴う予算の締め付けや、地元ハワイの先住民からの強い反対に遭い、建設が一時中断するという課題に直面した。
特にハワイのマウナケアは、先住民にとって文化的・精神的に重要な聖地である。そのため、2019年には大規模な抗議運動が起き、社会の分断が深刻化した。これを受け、TMTプロジェクトのリーダーは現地に赴任し、過去の住民への配慮不足を認め謝罪した。彼らは、科学的搾取ではなく「共創」を掲げ、地域の教育や職業訓練プログラムを地元住民と共に開発するなど、対話と信頼関係の構築に努めた。
その結果、2022年にハワイ州政府が新設したマウナケア新管理組織(MKSOA)では、委員11名のうち8名が先住民で占められ、過去にデモ活動で逮捕されたリーダーまでもが意思決定の場に参加する画期的な体制が生まれた。これは、天文学のみならず自然環境保護や先住民文化を包括的に評価し、山全体をホリスティックに管理運営していくという新たなモデルを提示している。

また、山頂の環境負荷を軽減するため、古い望遠鏡の解体・撤去も進められており、「最高の山には最高の望遠鏡だけを置く」という方針のもと、自然と科学の共存が模索されている。このような巨大科学プロジェクトは、宇宙技術が国家戦略や安全保障にも直結するため、ヨーロッパが南半球で大型望遠鏡を建設するなど国際競争は激化するが、この競争こそが技術革新を促す原動力になっているのである。
Q. 天文学の基礎研究は、いかに未来のビジネスと私たちの生活を変えるのか?
一見すると利益に直結しないと思われがちな天文学の基礎研究は、実は私たちの日常生活や未来のビジネスに多大な影響を与えている。例えば、デジタルカメラに搭載されている高感度なCCDセンサー、携帯電話のWi-Fi技術、CTスキャンといった医療技術、さらには目のレーシック手術の精密な光量制御技術などは、すべて天文学の研究が培った技術にルーツを持つ。
これらの技術は、研究当時はその応用が予期されていなかったにもかかわらず、他の分野へとスピンアウトし、商業的価値と生活の利便性を飛躍的に向上させた。純粋な好奇心から追求される極限技術が、予期せぬ形で社会全体に還元される好例である。

さらに、天文学は膨大な観測データを取り扱うため、最先端のAIや独自のアルゴリズム開発を推進している。このデータ処理技術は、将来的には医療画像解析やスマートシティ設計など、多岐にわたるデータエンジニアリング業界へと展開される可能性を秘めている。したがって、基礎科学への投資は、未来のイノベーションと持続可能な社会発展を保証するための、不可欠な戦略的投資であると認識されている。