PIVOT CAREER
ハイキャリアの落とし穴
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2026年7月1日

狭義のマネジメントがAIに代替され、上司仕事の質が劇的に変わる時代が到来した。能力獲得コストが下がる中、本当に意義ある仕事とは何か。テクノロジーの進化を他人事にしないためのキャリア論を、コンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和氏に聞いた。 <ゲスト> 渡辺秀和|コンコードエグゼクティブグループ ...
AIがもたらす転職市場の構造変化と、ハイキャリア層が描くべきキャリア戦略
今、キャリアを考える全てのビジネスパーソンにとって、かつてない転換期が訪れている。
従来の景気循環による市場変動とは異なり、AIの急速な進化が引き起こす「構造的な質的変化」は、私たちの仕事のあり方、そして求められる人材像を根底から変えつつあるのだ。
既存スキルの約40%が陳腐化すると言われる中、この変化の波をどのように捉え、いかに自身のキャリアを戦略的に築いていくべきか?
特に豊富な知識と経験を持つハイキャリア層こそ、大きな不安と隣り合わせにいるのが実情である。
本稿では、この激動の時代にキャリアを成功へと導くための思考法と具体的な戦略について、Q&A形式で解説する。

Q. なぜ今、転職市場は構造的な転換期にあるのか?
従来の転職市場は、景気循環によって好況と不況を繰り返していた。しかし現在、私たちはいままで経験したことのない「構造的な転換期」に突入している。その最大の要因は、AIの圧倒的な進化である。これは単なる一時的な市況の良し悪しとは根本的に異なり、求められる仕事の中身、ひいては人材の質が劇的に変化している状況にある。
データはこれを裏付けている。ハイキャリア層の求人倍率が2.73倍と極めて高い売り手市場を維持する一方、2026年卒の新卒採用見通しは5年ぶりに減少に転じ、半数以下の企業が増加を見込んでいるに過ぎない。

このことは、企業がポテンシャル採用から、AI時代に即応できる専門スキルを持つ「即戦力」を重視する方向に、明確に舵を切っていることを示している。もはや「若さ」だけでは市場価値を保つことは難しく、全ての年代において「質的な変革」への適応が不可欠となっている。
Q. AIの時代に求められる「仕事の質」はどのように変化するのか?
AIの進化は、仕事の領域を大きく二つに分けている。一つは資料作成や情報収集といった定型的な「部下仕事」であり、もう一つは戦略立案や意思決定を伴う「上司仕事」である。
AIが前者の「部下仕事」を代替するにつれ、これらの業務の重要性は低下する。多くの部下を抱え、タスクを割り振る必要も薄れていくであろう。
一方で、問いを立てる力、クライアントとの関係性を踏まえた状況判断、ビジョンを示してチームを鼓舞する力といった「上司仕事」の価値は高まっている。
注目すべきは、「上司仕事」の質自体も変化している点である。部下の行動を細かく管理するような狭義のマネジメントは、AIが詳細なデータを収集・分析し、的確なアドバイスを提供できるようになることで、その必要性が減少する。むしろ人間には、責任ある意思決定や、困難な状況下での諦めない姿勢を示すといった「人間臭いリーダーシップ」がより一層求められるのだ。
Q. スキルの陳腐化が進む中で、どのようなキャリア戦略が必要となるのか?
世界経済フォーラムの指摘では、2030年までに既存スキルの約40%が陳腐化する可能性が示唆されている。これは、特定の資格や学歴、従来の経験といった「積み上げてきたスキル」にのみ依存するキャリアが、非常に脆い基盤の上に成り立っていることを意味する。
スキル獲得のコストが劇的に下がった現代において、差を生むのは「AIをいかに使いこなせるか」であり、それ以上に「何を成し遂げたいのか」という個人の情熱、すなわち北極星を持つことだ。AIは目的を達成するための強力なツールであり、情熱があれば、従来はスキル不足で不可能だったことも実現できる時代に突入している。キャリアの軸足は、外部的な評価軸から内なる情熱へとシフトさせる必要があるのだ。
Q. AI時代に不安を抱えるハイキャリア層は、その不安とどう向き合うべきか?
AIの登場は多くの人に不安をもたらしているが、特にキャリアを積んだハイキャリア層ほど、その不安を強く感じている。彼らは市場が売り手優位で恵まれた状況にあるにもかかわらず、仕事の構造変化の大きさや、自身の会社の事業・組織がAIによって根底から覆されるリスクを敏感に察知しているため、その将来に対する危機感がより深いと言える。
しかし、同じ時代に「この変化は面白い」「めちゃくちゃ楽しそうだ」と目を輝かせ、自らAIを駆使して新しいものを創造している「ビルダー」と称される人々も存在する。
彼らはエンジニアやプログラミング経験者ばかりではない。この違いは、AIを「脅威」と捉えるか、「新しい遊び道具」として能動的に試してみるか、というマインドセットの差が大きい。多忙なハイキャリア層こそ、思い切って「AI休暇」を取り、集中してAIを学び、触って体感すること。大学受験の時期を逃せば結果が変わるように、まさに「今」行動することが、この転換期を乗りこなす鍵となるだろう。
Q. AI時代においてキャリア選択の真の判断軸は何か?

キャリア選択において「転職すべきか否か」という問いに固執するよりも、AI、バイオ、宇宙開発といった先端テクノロジーが社会全体に与えるインパクトを「他人事」にしない視点を持つことが極めて重要だ。
「市場が伸びるか」「強みが活きるか」といったチェックリストは、失敗を避ける上では有効だが、人生の満足度や幸福を保証するものではない。AI企業が伸びるからといって、興味がない分野に飛び込めば、一時的に給料が上がっても、いずれ情熱を持った他の競争相手に追い抜かれることは明白だ。最終的に、「自分が何に情熱を燃やせるか」という内発的な動機こそが、真の判断軸であり、キャリアを豊かにする土台となる。
情熱の対象が明確でない若手ビジネスパーソンには、AIスタートアップ、ベンチャーキャピタル(VC)、あるいは最先端技術を扱うコンサルティングファームなど「最先端の現場」に飛び込むことを勧める。24時間365日その領域に浸り、質の高い学びと「当たり前の基準」を高める場の熱量は、個人の成長を飛躍的に加速させる。これが、自己の情熱を見つけ、時代を切り拓く最良の手段の一つと言えよう。
Q. 転職活動においてハイキャリア層が陥りやすい落とし穴と、正しいエージェント選びのポイントは?
優秀なハイキャリア層ほど、多くの情報に触れることで、自身の本質的な欲求や目的を見失いやすい。特定の「業界」(例:戦略コンサル)に囚われてキャリアを考える「業界カットの罠」はその典型である。起業したいなら、コンサル以外にもVCやAIスタートアップといった選択肢がある。自分の真の目的を業界の枠を超えて捉え直すことが重要だ。

次に重要なのは、転職エージェントの選定である。エージェント選びは、専門医を選ぶのと同じくらい慎重になるべきだ。所属する会社が有名であっても、担当者個人のスキルや知見、専門性は大きく異なる。
不適切なエージェントの助言がキャリアを狂わせることは少なくない。転職活動で「エージェントのせいで失敗した」という声もあるが、エージェントを選んだのは自分自身であることを忘れてはならない。自身のキャリアに責任を持ち、複数のエージェントを比較検討し、相性が合わない場合は担当者の変更を申し出るなど、主体的な姿勢が不可欠だ。
また、エージェントには「〇〇業界に行きたい」と決めつけるのではなく、「本当はこんなことを成し遂げたい」と本音ベースで語りかけるべきである。オープンな姿勢が、あなたの真の希望に合致する、業界横断的な意外な選択肢を引き出すことに繋がるだろう。