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徹底解説:派遣業の闇カルテル問題。日本の給料が上がらない理由
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2026年7月1日

今年6月、人材派遣大手5社に対して、公正取引委員会がカルテルの疑いで立入検査に入った。この問題から見えてくる日本型労働組合と労働市場の問題は何か?雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏に聞いた。 <ゲストプロフィール> 海老原嗣生|雇用ジャーナリスト 大手メーカーからリクルートエイブリックに入社し、新...
派遣『闇カルテル』問題の深層:なぜ賃上げは違法行為となったのか?
今年6月、人材派遣大手5社に対して、公正取引委員会がカルテルの疑いで立入検査に入った。
この問題から見えてくる日本型労働組合と労働市場の問題は何か?
本来、賃上げは労働市場活性化につながるポジティブな側面を持つはずだが、なぜ今回は違法とされたのだろうか。
事案の背後には、日本の労働市場の構造的問題と、国際的な労働制度に対する深い誤解が横たわっている。
この問題から、日本型雇用と労働組合のあり方、労働市場全体の未来について雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏に聞いた。

Q. なぜ大手派遣会社は「闇カルテル」を結ぶ必要があったのか?その背景にある労働市場の深刻な問題とは?
近年、派遣業界を取り巻く労働環境は厳しさを増している。
闇カルテルの背景には、非正規労働力の中核である前期高齢者層と主婦パート層の供給減少がある。
これらの労働力が人口減少やキャリア意識の変化で減少し、慢性的な人手不足に陥った。

この状況下で個別の派遣会社が価格競争に陥れば、事業継続が困難になる。
市場逼迫が、企業が足並みを揃えて価格を引き上げる、すなわち違法なカルテルに走る動機となったと考えられる。
通常の競争では賃上げが追いつかない、切迫した状況が背景にあったと言える。
Q. 違法なカルテルではなく、合法的に派遣労働者の賃金を引き上げる方法はあったのか?
合法的な賃上げ手段は存在した。
欧州の労働市場モデル、特に「産業横断型労働組合」はその好例である。
仮に日本の派遣業界にこのような横断的な労働組合があれば、「この水準以下の派遣フィーでは労働者を供給しない」といった団体交渉を行えたはずだ。
労働者の団体交渉権は独占禁止法の例外として認められており、カルテルとは異なり合法である。
欧州では中世のギルドが起源で、親方(経営者)たちが自らの利益のため団結し、仕事の対価を高く設定していた。

この考え方を労働者側が主導すれば、法的リスクなしに賃上げは可能であった。
Q. 欧州型「横断型労働組合」がもたらす賃上げのメカニズムはどのようなものか?日本の労働市場の底上げにどう貢献しうるか?
欧州型横断組合の最大の利点は、「市場基準給」の形成と、それによる賃上げスパイラルの発生にある。
特定の業界や職種で横断型組合が賃金水準を一律に決定すれば、競争相手の賃金も同時に上がるため、企業は顧客を失う懸念なくサービス価格に賃上げ分を転嫁できる。
派遣労働者の賃金が上がれば、直接雇用の非正規労働者も良い条件を求めて派遣へ移行する。
企業は直接雇用の賃金も引き上げざるを得なくなり、非正規労働者全体の賃金が底上げされる。
これは硬直した日本の賃金体系を動かす強力な「蟻の一穴」となる可能性を秘める。
Q. なぜ経営者は、労使双方にメリットのある合法的な仕組みではなく、リスクのある「闇カルテル」に走ってしまったのか?
合法的な「横断型労働組合」設立の選択肢があったにもかかわらず、派遣会社が「闇カルテル」を選んだ背景には複数の要因がある。
労働組合設立や運用に関する法的・実務的な煩雑さへの敬遠が大きい。
手間と時間を避け、短期的な効果を求めた可能性が高い。
また、多くの経営者は企業外に存在する欧州型労働組合の概念に不慣れで、労働組合を「対立組織」と見なす傾向がある。
労働者に交渉力を持たれる不安感や、既存の「企業別組合」の枠を超えた発想ができなかったことも、合法的な解決策を選ばなかった理由の一つだ。
Q. 欧米の労働市場は、なぜ異なるシステムに進化したのか?その歴史から日本の雇用問題解決へのヒントは得られるのか?
欧米の労働市場は歴史的経験に基づき大きく異なる進化を遂げた。
欧州、特にドイツは、賃金交渉の「産業横断型労働組合」と、社内問題に取り組む「従業員代表制」から成る「労使2チャンネルシステム」を構築した。

これは戦争と社会変革の中で労使協調を重視した結果だ。
一方米国では、大恐慌後の企業リストラが労働者の不信感を決定づけ、労使対立の中で「ジョブ型雇用」が確立した。
経営と労働が完全に分離したこのシステムは、1980年代に産業競争力を低下させた。
日本はこれらの制度を歴史的試行錯誤なしに「輸入」した経緯があり、根底の理解が不足している。
そのため、本質的改革が進まず末端問題に終始する脆弱性を抱えている。
Q. 今回の「闇カルテル」事件を契機に、日本の労働市場は今後どのような変革をすべきなのか?
今回の「闇カルテル」問題を企業の違法行為として終わらせず、日本の労働市場の構造的課題解決の機会と捉えるべきだ。
有効な方策の一つは、派遣業界が率先して欧州型の「産業横断型労働組合」を設立することである。
たとえ経営者が主導する「ご用組合」であっても、まずは合法的に業界全体を束ね、賃金決定における健全な交渉力を構築することが肝要だ。
これにより、非正規労働者全体の賃上げ、社会全体の労働市場活性化への道筋が開けるだろう。
個別最適に留まらず、業界全体、国益を意識した社会システムへの転換には、歴史から学び現代に応用できるエリート層の育成と社会全体での意識変革が求められる。