PIVOT TALK SPECIAL
日本経済の黄金時代は来るか。カギはAI・エネルギー・農業
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2026年6月29日

日本経済の成長は本物なのか?黄金時代到来のためにはどんな改革が必要なのか?モルガン・スタンレーMUFG証券シニア・アドバイザーのローバート・フェルドマン氏に聞いた。東京海上HDの社外取締役も務める。 <ゲスト> ロバート・A・フェルドマン|モルガン・スタンレーMUFG証券 シニア・アドバイザー マ...
AIが経済と社会を変革し日本の成長戦略の鍵となる
「逆境はやがて甘き実を結ぶ」――このシェイクスピアの言葉をAIが提案したタイトルとして、モルガン・スタンレーMUFG証券のシニア・アドバイザー、ロバート・フェルドマン氏が語った。氏は世界経済の現状から、AI革命が経済リサーチ、そして日本経済の成長に与える影響、さらには具体的なエネルギー・農業政策まで、幅広いテーマで洞察を提示している。経済環境の大きな転換期において、AIと技術革新が私たちの社会や産業をどのように変え、日本が持続的な成長を実現するための鍵を握るのかを深掘りする。

Q. AIは経済リサーチをどのように変革したのか?
AIの登場は経済リサーチに激変をもたらした。これまで数週間を要した情報収集や複雑なデータ分析が、今やわずか10分程度で完遂可能である。例えば、NTTの民営化前後の収益率比較といった、会計基準の異なるデータの統合・分析も、AIは国会図書館の資料まで特定し計算を行う。この圧倒的な処理能力は、経済学者の分析時間を飛躍的に短縮し、より深い洞察を導き出す手助けをする。しかし、この進化は職を奪うものではない。むしろ、若手アナリストらは定型作業から解放され、より本質的な分析や問題解決に集中できるようになった。AIは彼らの生産性と価値を高めるツールとして機能しているのだ。
Q. 現在の世界経済の状況と最大の懸念は何であるか?
世界経済は地政学リスクの後退局面にあると考えられる。米イラン双方が本格的な戦争を望んでおらず、情勢は沈静化しつつある兆候が見える。世界経済の正常化を示す明確な指標の一つは、ホルムズ海峡を通航する船舶数が以前の水準まで回復するかどうかだ。また、一時的な原油価格の高騰が抑制されたのは、米国の戦略備蓄放出と中国の在庫取り崩しが背景にあった。しかし、各国の在庫が危険水準に近づいたことで、戦争終結への圧力が働いたとの見方もある。これらの動きを踏まえれば、今最大の懸念は、地政学よりもインフレへのシフトにあると言えよう。
特に、AI関連のデータセンターへの大規模な設備投資が旺盛な需要を生み出し、これが物価上昇圧力を高めている。原油高の後遺症も依然として残存し、米国のガソリン価格の高止まりは国民経済に大きな負担となる。これらの要因から、実体経済の動向よりも、インフレがどこまで進み、いつ収束するかが世界経済を読み解く上で最も重要な焦点となっている。

Q. AI革命は世界の経済成長をどのように促進するのか?
米国経済は常に技術革新を経済成長に転化する能力に長けている。今回のAI革命も、過去のIT革命と同様、あるいはそれを上回る規模で、需要と供給の両サイドに影響を与え、経済全体の生産性向上を強力に推進する可能性を秘めている。AIの普及は、アマゾンの登場が書籍販売市場を変革したように、既存の産業構造に大きな変化をもたらすだろう。これは単なる効率化にとどまらず、新たなサービスや商品の創出を促し、未曾有の市場を形成する力がある。しかし、この革命はまだ始まったばかりであり、その全貌や真のインパクトが数値として明確になるには時間を要する。それでも、技術進歩がもたらす需要喚起と供給能力の増大は、持続的な経済成長の大きな原動力となるはずだ。

Q. 日本経済の現状と今後の成長を実現するための鍵は何か?
現在の日本経済は「悪くない」状況にある。生産は前年比で増加し、在庫は減少しており、経済活動の健全性を示している。特にポジティブな点は、若年層や低賃金層の賃金が顕著に上昇していることだ。これは実質賃金の向上を通じ、個人消費の回復と経済全体の好循環に寄与すると期待される。また、深刻な労働力不足を背景に、企業は設備投資に意欲的であり、レストランにおけるQRコード注文システム導入に見られるような、省力化・効率化投資が経済を牽引している。これらの要因が相まって、長年のデフレ懸念は払拭され、穏やかなインフレ基調への転換が見込まれる。
今後の成長の鍵は、AIの最大限の導入と、それを受け入れるための抜本的な「組織改革」だ。織田信長が鉄砲という新技術を導入しただけでなく、三段撃ちの常備軍という組織体系を確立してその威力を最大限に引き出したように、AIもただ導入するだけでなく、組織全体をその活用に適応させなければならない。日本は労働力不足という「逆境」にあるため、海外諸国とは異なりAI導入を前向きに捉える傾向があるが、これに加えて、硬直化した組織文化の変革が不可欠である。加えて、若者を中心に「終身雇用」という古い価値観が薄れ、自身のスキルアップとキャリアのために積極的に行動するメンタリティが広がっている。この変化はリスキリングを促し、日本社会のダイナミズムを高める。しかし、その一方で、大企業や行政といった大規模組織がこの変化に迅速に適応できるか、またコーポレートガバナンス改革が十分に進むかが懸念材料として残る。技術と人の意識が変わる中、組織の変革速度が日本の将来を左右するだろう。
Q. 日本のCO2排出削減目標達成のためには、どのようなエネルギー政策が必要となるか?
日本のCO2削減目標達成には「茅(かや)モデル」の視点が不可欠である。GDP成長を維持しつつCO2を減らすためには、エネルギー効率の改善(GDPあたりエネルギー消費量の削減)だけでは不十分だ。なぜなら、日本のエネルギー効率は既に高く、さらなる改善余地は限定的だからだ。したがって、エネルギーの炭素集約度(エネルギーあたりCO2排出量)を劇的に下げる、すなわちCO2を出さないエネルギー源への転換が喫緊の課題となる。

経済産業省は、2040年までにエネルギーの炭素集約度を現在の半分以下にするという野心的な目標を掲げているが、過去30年間でこの指標がほとんど改善していないことを考慮すると、これは極めて大胆な挑戦である。原子力発電所の再稼働だけでは限界があり、むしろペロブスカイト太陽電池、浮体式洋上風力発電、地熱発電といった再生可能エネルギー技術の革新と大規模な導入が鍵を握る。例えば、日本の排他的経済水域には、国内の総発電量の8倍に相当する洋上風力資源が存在するとされる。これらの技術開発と普及を強力に後押しし、クリーンエネルギーを化石燃料よりも安価にすることが、脱炭素社会実現の最も重要な要素となる。この目標達成には、個別企業の努力だけに依存するのではなく、政府が強力なリーダーシップを発揮し、長期的なロードマップとインセンティブ設計を行うことが求められる。中国が国家主導でEVや太陽光を推進した例は、国家がリスクを取り技術投資を促進することの重要性を示しているが、同時に収益性を伴わない過剰生産を回避する知恵も必要だ。日本は安価で高効率なクリーンエネルギー技術の開発に注力し、化石燃料依存から脱却すべきだ。
Q. 日本の農業改革を阻む課題と、その解決策となるテクノロジーとは?
日本の農業は、農家の高齢化と農地の細分化という深刻な課題を抱え、結果として生産性が低迷している。日本の農家の平均年齢は非常に高く、全農場の6割が1ヘクタール未満の小規模経営だ。この小規模分散型構造が非効率を招き、食料安全保障上のリスクにもつながっている。しかし、裏を返せば、これは改善の余地が大きいことを意味する。実際、コメの生産コストは、1ヘクタール未満の農場が23,000円/俵なのに対し、3ヘクタールに規模を拡大するだけで15,000円以下にまで劇的に削減できることがデータで示されている。農地を集約し、大規模化を推進することで、日本の農業は競争力のある成長産業へと変貌を遂げられるだろう。

日本の農業技術自体は、ニュージーランドの酪農家が学びに訪れるほどの高品質な酪農技術や、海外の閉鎖工場で日本技術を活かした高糖度イチゴ生産を成功させるベンチャー企業など、世界に誇る水準にある。にもかかわらず、そのポテンシャルを十分に発揮できていないのは「もったいない」状況だ。その主な原因は、小規模な兼業農家を票田としてきた政治的構造と、既存の規制や慣行にある。しかし、農家の高齢化や食料価格の高騰が改革への圧力を高め、現状を変えようとする動きも見られる。
改革を推進するためには、政治的な壁を乗り越え、税制優遇などを通じて農地の集約を奨励すべきだ。加えて、ドローンや人型ロボットといった先進テクノロジーの積極的な導入が不可欠である。これらスマート農業技術は、労働力不足を補い、生産コストを大幅に削減し、ひいては日本の食料自給率と安全保障の向上に貢献するだろう。政府が主導し、規制緩和とともに、農業分野の技術開発への投資を加速させることが、日本の農業に黄金時代をもたらす鍵となる。