
中国ブランド車は本当に伸びているのか?中国輸出の謎を解く
7,278回視聴
2026年6月28日
世界で存在感を増す中国ブランド車。その勢いは本物なのか?今後も勢いは続くのか?日系車はどう対抗すべきなのか?フォーインの安藤久史アナリストに聞いた。 安藤久史|フォーイン アナリスト ソウル大学大学院修了後、共同通信NNAの経済記者として勤務。韓国、中国、豪州、シンガポールなどに駐在。2014年に...
『自動車ビジネスがわかれば日本経済がわかるって本当ですか?』 抽選で5名様にプレゼント!
激変する世界自動車市場:中国ブランド車の台頭と日本の課題
世界的なEVシフトと地政学的な変動により、世界の自動車市場は急速な変化に直面している。特に中国ブランド車の台頭は目覚ましく、長らく市場をリードしてきた日系メーカーは新たな局面を迎えている。本記事では、アナリストの安藤久史氏の分析を基に、データと現状から読み解く中国車の脅威と、日本が取るべき戦略を解説する。

Q. 中国ブランド車は本当に伸びているのか? その背景にある市場の変化は何か?
中国ブランド車は疑いようもなく世界市場で驚異的な伸長を見せている。2020年には世界全体でわずか0.9%であった市場シェアが、2025年には5.8%まで拡大する見込みだ。この成長を牽引するのが新興国市場である。
世界自動車市場の半分以上を占める新興国では、中国ブランドのシェアは2020年の2.6%から2025年には11.4%と、実に1割を超える水準に達すると予測されている。この急速な市場拡大は、安価で先進的な中国製EVが新興国のニーズに合致していることが大きな要因であり、従来から新興国市場で強みを発揮してきた日系メーカーの市場を急速に侵食している現状がある。市場の勢力図は、すでに大きく塗り替えられつつあると言えるだろう。

Q. 中国ブランド車の勢いは日系メーカーにどのような影響を与えているか?
中国車の猛烈な勢いは、データからも日系メーカーの苦戦を如実に示している。例えば、中国国内市場では日系メーカーが2020年から9.1ポイント減少し、11.3%のシェアとなった。さらにロシアCISでは10.5ポイント減の3.2%、アセアンでは13.9ポイント減の56.4%と、多くの主要市場で二桁近い大幅なシェアダウンに直面している。
このデータは、中国車が単にシェアを伸ばしているだけでなく、日系メーカーの既存市場から顧客を奪い取っている明確な構図があることを示唆する。地理的に見ると、中国ブランドが大幅にシェアを伸ばしたロシアCISやアフリカ、大洋州などで日系ブランドのシェアが大きく低下しており、この相関関係は今後も強まる可能性が高い。日系メーカーは、これまで築き上げてきた基盤が崩されつつある危機に直面しているのだ。
Q. なぜ中東情勢の変化が中国EV市場の追い風になっているのか?
かつて「謎の100万台」と呼ばれた中国の自動車過剰在庫は、皮肉にも中東情勢の変化によって「武器」へと変わった。中国政府の輸出奨励策による「押し込み輸出」の結果、年間約100万台もの売れ残り車両が海外の港やディーラーに滞留していた。しかし、イラン情勢によるホルムズ海峡封鎖は、この状況を一変させた。

この地政学リスクにより、日本を含む多くの自動車メーカーは中東市場への供給が滞り、ディーラーの在庫不足が深刻化した。その中で、大量の在庫を抱えていた中国メーカーは、価格を下げてでも即座に車を供給できる強みを発揮し、販売を大幅に伸ばしたのだ。さらに、原油価格の急騰は、EVの経済的メリットを劇的に高めた。BEVの走行にかかる年間コストはガソリン車と比較して35%も安くなったと言われ、消費者のEVへの関心と需要を一気に高めた。これにより、EVに強みを持つ中国ブランドに「特需」が生まれ、これまで「負の遺産」とされた在庫が一転して追い風となったのである。
Q. なぜ途上国で急速なEVシフトが進むのか? その中で中国はどのような役割を担うのか?
途上国ではガソリン不足が深刻化し、国家レベルでのEVシフトが加速している。ホルムズ海峡封鎖のような地政学リスクは、先進国以上に途上国のガソリン供給を直撃した。スリランカやミャンマーなどではガソリンの給油制限が常態化し、もはや「ガソリンが当たり前にある世界」ではないのだ。
このエネルギー安全保障への危機感から、各国は化石燃料依存からの脱却を目指し、急進的なEVシフトを推進している。その典型がエチオピアであり、中国政府の支援も得て、2024年にはガソリン・ディーゼル乗用車の輸入を新車・中古車問わず全面的に禁止した。これにより、消費者は安価な中国製EVの購入を余儀なくされ、中国車が市場を独占する状況が生まれた。
中国政府はEVを自動車産業の主導権を握る国家戦略と位置付け、途上国へのインフラ支援(発電所建設など)を含め、積極的にEVシフトを後押ししている。これはかつて日米欧が築いた自動車産業の既得権益に、新しいルールで対抗する戦略であり、今後、エチオピアと同様の動きが他の途上国に広がる可能性は非常に高いだろう。
Q. 中国メーカーはどのように高関税を回避し、コスト競争力を維持しているのか?
中国メーカーは、EUが高率な関税を課すなどして中国製輸入車を制限しようとする動きに対し、巧妙な戦略で対抗している。その一つが「現地生産」の本格化である。欧州に工場を建設したり、既存の工場を買収・提携したりすることで、「EU製」の中国ブランド車として販売し、高関税を回避しているのだ。

現地生産となるとコスト高になりがちだが、中国メーカーは中国本国の安価なサプライヤーから部品を輸入して組み立てることで、現地でも高いコスト競争力を維持している。時には関税がかかったとしても、原材料の安さやサプライチェーン全体の効率性でその分を吸収する。例えば、サプライヤーの中国依存を排除しようとする動きに対し、一度日系企業を経由させることで部品調達ルートを確保するなど、法規の抜け道を巧みに利用し、徹底的にコストを追求している点が中国メーカーの強みと言える。
Q. 中国ブランド車の品質・デザイン・サービスは本当に向上しているのか? 日本の国内市場は?
かつての「安かろう悪かろう」というイメージはもはや過去のものである。中国ブランド車は、欧州の著名デザイナーを積極的に採用することで、外観デザインを日欧メーカーと遜色ないレベルまで向上させた。さらに内装では、大型スクリーンや先進的なデジタル技術をふんだんに取り入れ、若年層がスマートフォンを扱うような「デジタルデバイスの延長線上にある車」として、高い先進性を売り文句にしている。

また、弱点とされてきたアフターサービスについても、日系や欧州メーカーから専門家を引き抜き、急速に品質を強化している。これにより、高機能でデザイン性に優れた車を、日系ブランドより3~4割も安い価格で提供できる圧倒的な価格競争力を獲得しているのだ。
一方、日本国内市場の状況は異なる。ガソリン高騰が続いても、消費者のEVへの移行意欲は限定的であり、国際的なEVシフトの潮流から取り残された「ガラパゴス化」が進んでいる。これが結果的に日本メーカーの国際競争力を弱め、世界のトレンドと乖離した製品開発に繋がりかねないリスクを抱えている。