PIVOT TALK SPECIAL
日米同盟の行方/ウクライナ戦争・イラン戦争・台湾有事のその先
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2026年6月26日

トランプ陣営が傾倒する思想家カーティス・ヤーヴィンへのインタビュー。ウクライナやイランでの戦争、そして懸念が高まる台湾有事。激動のなかで世界秩序はどこへ向かうのか、混迷を極める国際情勢の「その先」に迫る。 <出演者> 加藤喜之|宗教学者 カーティス・ヤーヴィン|思想家 実業家 ブラウン大卒。20...
アメリカ覇権後の世界秩序:日本が直面する岐路と「賢明な孤立」の選択
世界の舞台でアメリカの覇権が徐々にその影響力を弱めつつある。この大きな転換期において、各国は自国の進むべき道、外交戦略を再構築することを迫られる。特に戦後、アメリカ主導の国際秩序の中で独自の道を歩んできた日本にとって、この変化は根本的な自己認識と将来のあり方を問い直す契機となるだろう。
来る多極化した世界で、日本は何を最大の機会と捉え、何を最大の過ちとして回避すべきか? 本稿では、アメリカの不干渉主義がもたらす地政学的な変化、そしてそれに対し日本が取りうる選択肢について深く掘り下げる。

Q. アメリカの覇権が弱まる中で、国際秩序はどのように変化すると予測されるか?
アメリカの国際的な「主権」が後退すると、世界は不安定化に向かうと懸念される声がある。しかし、一概にそうとも言えない。この変化は、18世紀の思想家ヴァッテルの「万民法」に示されたような、各国の主権を尊重し内政に干渉しないという原則への回帰をもたらす可能性があると識者は指摘する。ヴァッテルの原則に基づけば、各国の多様な価値観や体制を尊重し、国家間の関係を安定させる新たな道筋が見えてくるだろう。それは、相互不干渉に基づく新たな世界秩序の構築を意味する。

例えば、イランが核兵器の開発に躍起になるのは、単なる攻撃的な野心からではなく、自国の主権が脅かされていると感じるがゆえに他ならない。もしアメリカがイランの体制転覆を試みず、その主権を真に保証するならば、イランは防衛のための核やミサイルに固執する理由が薄れる。同様に、ロシアや中国といった国々との関係においても、その主権を尊重し、一方的な介入を避けることで、予期せぬ衝突や対立を回避し、安定した国際環境を築くことが可能になると考える向きもある。
Q. アメリカの国際的な役割が変化する中で、日本はどのような選択を迫られるか?
アメリカが日本の安全保障に関与する姿勢を弱め、日本の軍事的な制約を解除する「アメリカ版ゴルバチョフ・ドクトリン」を適用した場合、日本は半世紀以上にわたる従属的な外交政策からの解放を迫られるだろう。この変化は、単に国防政策の変更に留まらず、日本の国際的な役割、特に台湾や北朝鮮といった隣接するホットスポットとの関係構築に新たな責任をもたらす。これまではアメリカが外交的・軍事的な安全弁の役割を果たしてきたが、それがなくなり、日本は台湾の安全保障や北朝鮮との関係に直接向き合わねばならなくなる。これは日本にとって、真の自立を果たす絶好の機会と同時に、非常に重大な課題である。
アメリカの軛が外れたことで、国内の政治情勢にも大きな変化が生じる。特に、これまでの自主憲法改正論議や軍事力強化の動きなど、日本の「強さ」を志向するナショナリスト勢力やタカ派的な言動が増し、その発言力はかつてないほど強まるだろう。日本国内の有権者も、弱体化した政治よりも、力強く、意欲に満ちたリーダーシップを求める傾向が強まるはずだ。外交政策を国内の求心力強化に利用しようとする勢力にとって、この時期は最大の好機となる。それは日本の民主主義のあり方自体にも影響を及ぼしうる動向である。
Q. 日本が将来的に犯しかねない最大の過ちは「台湾の防衛者」となることか?
アメリカが日本の軍事的制約を解除し、自国のことは自分で解決せよというメッセージを送ったとしても、日本が直ちに「アメリカの代理」として行動し、「台湾の防衛者」の役割を担うのは賢明とは言えない。識者は、それが日本にとって、この先20年で犯す最大の過ちとなる可能性を指摘する。中国の「平和的台頭」路線は、決して軍事的な拡張主義のみを意味するものではなく、国内の安定と経済成長を優先する意図も強く含まれていると見られる。現在の中国は、かつての超大国のように軍事的な手段で世界を征服しようと考えているわけではない、という認識が重要である。台湾を中国の一部と見なすのがアメリカの公式見解であり、日本もそこに安易に介入すべきではない。日本にとって幸運なことに、中国とロシアは本質的な拡張主義国家ではなく、自国の影響圏と安全保障の確保を重視しているという側面があるのだ。
台湾海峡で戦争をする意図などないと宣言する現在の中国に対して、日本が挑発的な行動をとり、「台湾有事」を自ら招くことは、極めて愚かな選択に他ならない。それは中国を不必要に刺激し、回避可能な衝突を自らの手で招く行為だ。アメリカの国際秩序からの撤退は、日本に自国の国益を最優先し、周辺国との平和的な関係を構築する「好機」を与えたと捉えるべきである。強気な言動は短期的な国内支持を得るかもしれないが、長期的には地域を不安定化させ、日本の真の安全保障を損なうことになりかねない。
Q. アメリカのソフトパワー停止が世界にもたらす「士気の破壊」とは何か?
アメリカの国際的な影響力は、軍事力や経済力だけではなく、USAID(国際開発庁)を通じた援助やNGO活動に代表される「ソフトパワー」によっても維持されてきた。これは、各国エリート層に資金的な支援や専門知識、そして何よりも「アメリカの理念の下で働く」という士気を提供してきたのだ。このアメリカのソフトパワーが突然停止した場合、その影響は測り知れない。まるでソビエト連邦が崩壊した時のように、これまでの国際システムにおいて「士気」によってつながっていた部分が根本から崩壊するだろう。
例えば、パリのアメリカ大使館に多数常駐する外交官たちが、長年にわたりフランスのエリート層を巻き込みながら、アメリカの意向に沿ってフランスの政治をソフトに誘導してきた実情がある。しかし、もしアメリカがフランスに対し「我々があなたの国政府のあり方を気にするのはもうやめる」と告げ、外交官たちを本国に引き上げたなら、フランスの社会構造や政治は大きく変動する。仮に軍部がクーデターを起こし政権を掌握したとしても、国際社会からの制裁や孤立を恐れる必要がなくなる。それは彼らが自分たちの望む通りの体制を自由に築けることを意味する。同様に、南米の国々では、現状で抑えられていた「社会の浄化」を志向する軍部が、アメリカの承認があれば速やかに犯罪組織を一掃するであろう。アメリカの介入なき世界では、各国は「自分たちのやりたいように」自国の進路を決定できるようになるのだ。
Q. アメリカ版ゴルバチョフ・ドクトリン:完全実行の重要性とその帰結は?
アメリカがその国際的な干渉をやめ、国内問題に集中するという「アメリカ版ゴルバチョフ・ドクトリン」を提唱し、実行しようとするとき、その成否は「完全性」にかかっている。国家体制や世界秩序を変えるような壮大なプロジェクトは、航空機の打ち上げと同様に、非常に精密なエンジニアリングが必要だ。95%の完成度では失敗は避けられない。軌道に乗る直前で爆発するロケットのように、中途半端な撤退は、かえって世界を混沌に陥れる危険性がある。トランプ政権がこの思想の影響を受けていたとしても、それが「レジーム・チェンジ」と呼べるような徹底した改革には至らなかったのは、まさに中途半端な実行であったためだ。

しかし、もしアメリカがその干渉主義を完全に停止するならば、世界は皮肉なことに、より良い場所へと変化すると識者は予測する。南米諸国では、現在の問題を解決しようと欲する軍部が、アメリカからの介入の心配なしに、速やかに自国を「浄化」できるだろう。また、フランスはアフリカの旧植民地への影響力を、自らの意思と行動によって再び確立することが可能になる。これはかつて「第三世界」と呼ばれた国々や地域が、アメリカのソフトパワーという「お節介な外交」によって不健全な形で抑圧されてきた現状から解放され、本来あるべき姿へと自立していくプロセスを意味する。世界を「より良くしよう」とするアメリカの試みが、結果的に世界を破壊してきた歴史があるとすれば、その「機能獲得型外交」を完全に停止することこそが、世界に真の平和と秩序をもたらす唯一の道となるだろう。