
超インフレ時代の資産戦略
「プアジャパン」時代が来る:超インフレ時代の資産戦略
日本の経済が大きな転換期を迎えている。長年続いたデフレとゼロ金利の常識が崩壊し、「現金が強い時代」は終わりを告げた。
今、日本人は物価上昇と円安の現実に直面し、「プアジャパン」の足音が聞こえてくる。しかし、これは単なる悲観論ではない。作家・橘玲氏は新刊『プアジャパン』で、この激動の時代を乗り越えるための具体的な資本戦略を提示する。本記事では、この新たな経済環境の理解と、それに適応するための知恵をQ&A形式で解説する。

Q. 「プアジャパン」とはどのような状況を指すのか?
橘玲氏は、「プアジャパン」という言葉で、30年続いたデフレとゼロ金利という日本の経済システムがインフレと円安によって根底から覆されようとしている状況を説明する。デフレ下では現金の価値が実質的に上昇し、日本人は経済成長せずとも、どこか「豊かな生活」を感じていたかもしれない。特にサラリーマンは年功序列で年収が増えていくため、大きな不満を抱くことが少なかった。しかし、2022年頃からの物価高騰に対し賃金上昇が追いつかず、多くの人が「自分たちは貧しくなっている」という現実に気づき始めている。
この変化は、日本の社会や政治に大きな混乱をもたらしている。従来の価値観や人生設計が通用しなくなり、例えば銀行預金に「金利がつく」という感覚を体験したことのない若年層にとっては、現在のインフレと金利のある世界は全く新しい経済現象として捉えられている。過去30年の「デフレに最適化された日本社会」が、その基盤を失いつつあるのだ。
Q. 日本経済の真の課題は「格差の拡大」ではなく「皆で貧しくなること」か?
これまで日本では、グローバル資本主義を原因とする「経済格差の拡大」が頻繁に語られてきた。しかし、データは異なる実態を示している。

厚生労働省の所得再分配調査報告書によると、年金収入を除く世帯所得で250万円以下の世帯が全体の半分以上を占める。
これは年金以外の収入がない高齢者世帯の増加が大きく影響しており、名目世帯所得全体が減少傾向にある。現役世代の賃金上昇だけでは、この全体的な所得減少を補えない実態が浮き彫りとなっている。
さらに、欧米諸国が上位1%の所得シェアを急速に拡大させているのに対し、日本は1995年以降、給与所得の分布に大きな変化がなく、富裕層を含め所得全体が停滞、あるいは減少している。つまり、日本では「格差が拡大」しているのではなく、「平等な社会のまま、皆で貧しくなっている」のが実態なのである。
この現実は、イノベーションを通じて富が生み出され、それが社会全体のパイを大きくするという「豊かな社会」の構造と逆行する。格差の拡大を許容できない社会は、同時に富も生み出しにくい。結果として、日本では小さなパイを奪い合うゼロサムゲームが激化し、社会保障の原資すら枯渇しつつあるのだ。
Q. 「日本型スタグフレーション」とはどのような経済状況を予測するのか?
橘玲氏は、将来の日本経済を考える上で「日本型スタグフレーション」を最悪のシナリオの一つとして想定することを推奨する。一般的なスタグフレーションが物価高と高失業率を伴うのに対し、日本型スタグフレーションは異なる様相を呈する可能性がある。
人口減少と高齢化により労働力不足が慢性化している日本では、物価が上昇しても欧米のように大規模な失業率悪化にはつながりにくいと予測する。つまり「仕事はある」ものの、実質賃金が物価上昇に追いつかないため「一生懸命働いても豊かになれない」という状況が生まれるという。
この前提に立つと、楽観主義的な人生設計は大きなリスクを伴う。未来を悲観しすぎず、かといって盲目的に楽観することもなく、この「最悪の事態(マクシミン戦略)」を想定した上で、自身のライフプランや資産形成を構築することが賢明な戦略となるだろう。
Q. 日本人が抱える「円リスク」とは何か、そしてどのように対策すべきか?

長年のデフレ期において、「円預金は安全」という神話が日本人の間に浸透していた。しかし、多くの日本人は、給与、不動産、預金といった資産をほぼ円建てで持つことによる「円リスク」を過度に抱えている状態である。円安が進行する現代において、これは資産価値の大幅な毀損につながるリスクがある。
ファイナンス理論の観点から見ると、収入が円である以上、金融資産はドル建てなどの外貨建てで持つことがリスクヘッジの最も合理的な方法である。過去には「円高になると損をする」という理由で敬遠された外貨建て資産だが、今やインバウンド消費の盛り上がりや日本人の生活レベルとの対比から、「円自体が持つリスク」が広く認識され始めている。NISAの普及は、多くの日本人が世界株インデックスなどへの投資を通じて、円に偏重したポートフォリオを見直し始めている兆候として評価できる。
これまでの「マイホームを購入し、あとは預貯金と年金で安泰」という古い人生設計は通用しない。新たな経済現実に適応するためには、ポートフォリオの多角化、特に外貨建て資産への分散投資が不可欠な時代を迎えているのだ。
Q. インフレ時代に個人が資産を守り増やすための具体的な戦略は何か?
資産形成の原理原則は極めてシンプルである。橘玲氏の提唱する「お金持ちの方程式」は、「資産 = (収入 − 支出) × 運用利回り」である。資産を増やすための選択肢は、
収入を増やす
支出を減らす
運用利回りを上げる
の3点に集約される。例えば、年収が高くとも過剰な支出があれば資産は貯まらず、反対に収入がそこそこでも支出を管理し、年間数百万をコンスタントに複利運用に回せば、10年、20年というスパンで大きな資産差が生まれる。
インフレ時代の具体的な投資戦略としては、新NISAの活用が「一択」であると著者は強調する。運用益が非課税になるという制度上のメリットは非常に大きく、これを最大限に活用しない手はない。NISAを通じて、世界株インデックスなどへの投資を進め、グローバル経済の成長を取り込むことが、資産防衛の鍵を握る。インフレは「物価上昇」「金利上昇」「円安」という、予測可能な形で進む経済事象であるため、これらのリスクを理解し、準備することが可能だ。
FXや先物・オプションといった高リスクの金融商品に初心者が手を出すことは推奨されないが、これらの仕組みを基本的な知識として理解することは、予期せぬ経済危機から資産を守る上で役立つことがあるという。
Q. メディアは日本経済の真実をどのように報じているか?

日本社会の高齢化は、メディアの報道姿勢にも影響を与えている。日本のメディアの読者や視聴者の多くが高齢者層を占めているため、彼らを不快にさせる情報は意図的に報じられにくいという強いバイアスが存在する。
例えば、高齢者への社会保障が他の困窮層(例えばシングルマザー)に比べて極端に手厚い「老人真ん中社会」というデータは公的に存在するが、これを積極的に報道するメディアは少ない。大衆メディアはビジネスであり、読者・視聴者がいなくなれば経営が成り立たない。このため、批判や「炎上」を避ける傾向にあるのだ。情報を受け取る側は、こうしたメディアのバイアスを認識し、常に情報を選別して解釈する必要がある。
