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【最新解説】米国経済:原油高の裏で雇用は好調
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2026年6月22日

丸紅経済研究所社長の今村卓氏が、アメリカ政治・経済の最新情勢を解説。中東情勢や原油高の影で、市場の想定を超える雇用の強さが経済を牽引。AI投資がデータセンターやハードウェア需要を生み、バブル懸念を越え、景気を押し上げている現状を分析。「利上げ」すら浮上する背景に迫る。 <ゲスト> 今村卓|丸紅経済...
米国経済・外交の転換点:深まるK字型格差と変化する国際的役割
米国経済は、トランプ政権下で劇的な変化を経験している。イランとの合意による原油市場の変動、利上げ論争への急転換、AIブームが牽引する成長、そして社会に広がるK字型格差など、多層的な動きが見られる。
本稿では、最新情勢と今後の見通しについて解説する。

Q. なぜ米国はイランに大幅な譲歩を行ったのか?
トランプ政権がイランとの合意で大幅な譲歩を行った背景には、米国内の経済状況と世論の強い圧力があった。原油価格の上昇はガソリン価格に直結し、5月のインフレ率は4.2%に達したことが市民の生活を圧迫し、これが政権への強い不満につながったのだ。
また、イラン戦争に対する国民の支持率は、当初の期待を裏切り3割台にまで低下していた。トランプ氏の支持基盤内からも異論が噴出し、経済政策への支持率は2割台まで落ち込んだため、政権は和平合意以外に選択肢がない状況に追い込まれたのである。
Q. 米イラン合意後もインフレの「後遺症」が続くと考えられるのはなぜか?
停戦合意が成立したとはいえ、インフレ圧力がすぐに解消されるわけではない。ホルムズ海峡の安全な航行を確保するためには、残された機雷の除去、疲弊した船員の確保、高騰した保険料の調整など、物理的および経済的な課題が山積しているため、楽観的な見方でも3ヶ月以上かかると予想されている。
年内は原油とガスの供給量が従来の水準まで回復せず、高止まりする可能性が高い。

さらに、ホルムズ海峡を経由しない代替ルートや他国からの調達は、依然としてコストが高く、これが世界的なインフレ圧力を維持する要因となる。米連邦準備制度理事会(FRB)の見通しでも、インフレ目標である2%への回帰は2027年以降にずれ込む可能性が指摘されており、中東情勢の緊迫がもたらした「後遺症」はしばらく続くことになるだろう。
Q. 原油価格が大幅に高騰する「最悪のシナリオ」はどのように回避されたのか?
今回の米イラン合意の最大の成果は、原油価格が1バレル150ドルまで高騰する可能性を秘めた「最悪のシナリオ」を回避できた点だ。イランとの紛争が激化すれば、世界的な原油供給が滞り、その価格が歴史的な高水準に達する懸念があったのである。
先進国はこれまで、中東情勢の緊迫に対応するため戦略備蓄を放出し、原油価格を120ドル以下に抑え込んできた。しかし、その備蓄は危機的な水準まで減少し、枯渇寸前であった。もし合意が成立しなければ、備蓄の底つきにより価格がさらに急騰する「備蓄枯渇による価格スパイク」というリスクが高まっていた。この危機を脱したことが、市場の恐怖感を払拭したのだ。
Q. 米国の金融政策の議論は、なぜ利下げから利上げへと急転換したのか?
米国金融政策の議論が「利下げか据え置き」から「利上げか据え置き」へと大きく転換した主な要因は、市場予想をはるかに上回る5月の雇用統計と、依然として高いインフレ率にある。雇用統計では、新規雇用者数が市場予想の2倍近くに達し、過去2ヶ月分も大幅に上方修正されたため、景気の底堅さが改めて認識されたのである。
雇用数の増加はヘルスケアやレジャー・ホスピタリティ分野が中心であり、雇用の「質」という点では議論の余地がある。しかし、経済指標は全体として堅調さを保ち、消費者物価指数(CPI)が4.2%と高い水準を維持していたことで、FRBが利下げに踏み切るための条件が整っていないとの見方が一気に広がったのだ。
Q. 米国経済を押し上げる主要な要因は何か?AIブームが経済に与える影響は?
中東情勢の緊張とは別に、現在の米国経済を力強く押し上げている主要因は「AIブーム」である。大手テクノロジー企業が巨額の資金を投じ、データセンターへの投資を加速させていることが、半導体、メモリ、電力供給といった関連産業に広範な需要を生み出し、景気を下支えしている。

AIが雇用を代替し失業者が増加するという見方もあるが、現時点では、AIの導入が生産性を向上させ、それが新たなビジネスチャンスと需要創出につながっているとFRBも認識している。この生産性向上は当初、インフレを抑制し利下げを可能にする要因と捉えられたが、実際には需要全体を刺激し、インフレ圧力を維持しているのが現実である。中央銀行関係者の間では、生産性向上は中立金利を引き上げるという見方が支配的となり、利下げではなく利上げ論争へと発展する要因となっている。
Q. 米国社会に広がる「K字型格差」は中間選挙にどう影響すると考えられるか?
米国社会に広がる「K字型格差」は、経済の堅調さと市民の景況感の乖離を生んでいる。AIブームの恩恵を受けるのは富裕層やテック関連の専門職が中心であり、一方、インフレによるガソリン代高騰などが庶民の生活を直撃し、所得格差は拡大の一途をたどる。
マクロ経済指標は成長を示していても、国民の多くは「真っ暗」とさえ感じており、特にAIによる雇用代替は若者の就職難を深刻化させ、これがK字型格差を加速させている。
この現状がトランプ政権の経済政策への支持率を低下させ、中間選挙に影を落としている。トランプ氏の強固な支持層は健在だが、無党派層や過去に民主党から離反した票は再び離れつつある。ただし、民主党側も強い支持を集められておらず、共和党が選挙区を有利に操作(ゲリマンダー)している州もあるため、選挙結果はまだ不透明だ。
Q. トランプ政権の外交政策は今後どのような展開を見せるのか?

トランプ政権の外交は、この一年間で目立った成果を出せず、むしろ「レームダック化」の兆候を見せている。イラン核協議においては、専門知識を持たない米国交渉団が経験豊富なイラン側に翻弄され、結果的にトランプ氏自身が離脱したオバマ時代の核合意(JCPOA)と大差ない内容で合意に達する可能性が高いと指摘される。これは外交上の後退と見なされるだろう。
欧州との関係では、関税問題での対立はあったものの、その効果の薄さが露呈したことで、新たな摩擦の焦点は少なくなっている。しかし、これは協調への回帰ではなく、米国が国際秩序を主導する役割に倦怠感を覚え、自国の利益を最優先する内向きな孤立主義を強めていることの表れである。対中関係でも同様に強硬姿勢は腰砕けに終わり、経済的な相互依存を認めざるを得ない現実主義的な姿勢へと転換しつつある。米国はもはや「世界の警察官」としての役割を放棄し、自国の周辺の安定のみに関心を抱く方向へとシフトしていく可能性が高い。これは日本や欧州にとって厳しい国際環境が続くことを意味するだろう。