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【速報解説】“悪者はイスラエル” 負けを認めぬトランプの転換
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2026年6月19日

14項目の覚書は全面的にイランの主張を認めた内容。イランは「勝利」をうたう一方、トランプ大統領は「悪いのはネタニヤフ」とイスラエルを悪者にする形で合意を正当化。核合意も「オバマ」から「トランプ」に“包装紙“が変わるだけの懸念も。中東情勢に詳しい高橋和夫さんに聞く。 <ゲスト> 高橋和夫|放送大学名...
中東激変:米イラン合意は誰が勝利したのか?そして核問題の行方は?
アメリカとイランの戦闘終結に向けた歴史的合意が締結された。この「覚書」は、アメリカのトランプ大統領とイランのペゼシキアン大統領の間で署名されたもので、中東情勢のパワーバランスを大きく塗り替える可能性がある。
14項目にわたる合意内容は、表面的な報道以上に複雑な背景を持ち、米国内からの激しい批判にさらされている。
果たしてこの合意はイランの勝利だったのか?先送りされた核問題はどうなるのか?
本記事では、中東情勢に詳しい専門家へのインタビューから、この歴史的転換点の深層をQ&A形式で掘り下げる。

Q. 米イラン間の覚書はなぜ「イランの勝利」と言えるか?
今回締結された14項目の覚書は、中東情勢を専門とする高橋和夫氏も「イランの勝利」と評価している。内容を見ると、ホルムズ海峡の解放という一点を除き、イランの要求がほぼ一方的に認められている点が特筆される。米国内では、与党共和党の議員から「数十年で最悪な外交上の失策だ」と厳しい批判の声が上がっていることも、イランの優位性を示唆する。米メディアも批判的な論調で報じており、全体としてイランにとって有利な合意だったとの認識が広まっている状況である。

ホルムズ海峡の通航に関する表現は「解放」とされているものの、イランが海峡の主権と管理権を主張し続ける姿勢は変わらない。イラン側の強硬な姿勢が柔軟な表現で覆い隠されたに過ぎず、その本質は維持された形である。このように、表面上の穏やかな表現の裏で、イランの戦略的意図が大きく反映された内容であったと言えるだろう。
Q. 米イラン合意は米イスラエル関係にどのような影響をもたらすか?
今回の合意は、米イスラエル関係に非常に厳しい局面をもたらすと専門家は指摘している。覚書は中東全域での停戦とレバノンの領土保全を明記しているため、イスラエルは攻撃停止と、占領している地域からの撤退を求められる。イスラエル政府にとってこれらの要求を受け入れるのは極めて困難であり、自発的な履行は考えにくい。
したがって、トランプ政権がどこまでイスラエルと対立し、圧力をかけられるかが焦点となる。かつて伝統的にイスラエルを強力に支持してきた米国内の世論は、ガザ戦争と今回のイランとの戦争を経て大きく変化し、イスラエルへの批判が高まり、パレスチナ支持に傾いている。専門家はイスラエルへの支持は「崩壊状態」にあると表現する。トランプ大統領の政策転換は、米議会の反発は避けられないものの、この変化した世論を反映したものであると考えられる。
Q. トランプ大統領がG7中のベルサイユで署名したことにはどのような意図があったか?
トランプ大統領がフランスのG7に出席中に署名した背景には、複数の意図が指摘されている。まず、合意が成立し、今後の交渉が進めば、国連の安全保障理事会がそれを保証する必要がある。そのためにはイギリスとフランスの協力が不可欠であり、G7という場で署名することで両国の協力を取り付けようとした可能性が高い。

もう一つの理由は、2015年のオバマ政権による核合意がスイスで署名された経緯を踏まえていると考えられる。トランプ政権がスイスでの署名を避けたのは、合意が「オバマ合意の焼き直し」と批判されることを避けるためである。しかし、署名地として選ばれたベルサイユ宮殿は、外交史的にはあまり「縁起の良い」場所ではない。プロイセン・フランス戦争後のドイツ帝国樹立宣言や、第一次世界大戦後のドイツへの過酷なヴェルサイユ条約の署名地であった歴史があり、外交専門家からはトランプ政権の外交史に関する認識の薄さを指摘する声も上がっている。
Q. 米イラン交渉の陰で、仲介役を果たした国々はどのような役割を担ったか?
今回の交渉では、カタールとパキスタンが水面下で重要な役割を果たした。まずカタールは、地理的にイランと近接し、最大のガス田を共有するなど経済的に密接な関係にある。このため、イランとカタールは喧嘩をするわけにはいかず、カタールは長年イランの対話チャネルとして機能してきた。さらに、カタールはその豊かな資金力を活かし、交渉における資金面でのサポート役も務めたと考えられている。
一方、パキスタンが交渉会場として選ばれたのは安全保障上の配慮が大きかった。イラン側は、イスラエル軍の空軍の射程内であれば代表団が暗殺される恐れがあると懸念していたため、なるべくイスラエルから遠い場所が望まれた。パキスタン空軍は強力であり、核兵器保有国でもあるため、イラン代表団にとって安全な場所と判断された。イランが今回の一連の合意を「イスラマバード合意」と称するのは、単なる場所の提供だけでなく、イスラエルによる攻撃時以降、一貫してイランの立場を支持してきたパキスタンへの深い感謝の表れである。
Q. 今回の合意によって湾岸諸国の安全保障戦略はどのように変化するのか?
今回の戦争と合意は、湾岸諸国の安全保障観に大きな地殻変動をもたらした。これまで「アメリカ軍の基地があれば安全だ」と考えていた湾岸諸国は、むしろ「アメリカ軍基地があるからこそイランに攻撃された」という側面があったことに気づいた。米国とイスラエルが必ずしも自国を完璧に守ってくれるわけではないという現実を突きつけられ、特にアラブ首長国連邦(UAE)は激しい攻撃を受け、最終的にイランの現体制が崩れないことを認識し、イランとの対立路線から方針転換を余儀なくされた。

このような状況を受け、湾岸諸国は「いつまでもあると思うな親と金とアメリカ軍基地」という新たな教訓を得た。彼らは、アメリカ一辺倒の安全保障体制から脱却し、イランとの関係改善を模索し始めている。また、トルコやパキスタンといった新たなパートナーとの関係強化も視野に入れ、安全保障戦略の多角化を進めている段階である。各国は、アメリカ軍がいつまで、どの規模で駐留してくれるのかを見極めつつ、自律的な安全保障体制の構築を急務と考えている。
Q. 今回先送りされたイランの核問題は最終的にどのように決着する見込みか?
今回の覚書で先送りされた核問題は、結局2015年のオバマ政権時代に結ばれた合意に近い形で決着する可能性が高い。イランはウラン濃縮の権利を放棄しないと明言しており、最終的には低レベルの濃縮を認めつつ、厳しい査察を受け入れるという形になるだろう。トランプ大統領自身も、イランがウラン濃縮を完全に諦めるとは期待していないという発言を始めており、期待値を下げることで現実的な落としどころを探っているように見える。
興味深いことに、これまでイスラエルはイランを「非合理的で過激な危険な国家」と喧伝し、核開発に反対してきたが、トランプ大統領は最近、「イラン人はクールでまともだ」と発言している。この発言は、イランが合理的な相手であれば、イスラエルの圧倒的な核戦力を前にして核抑止が機能するという前提を構築し、核合意に向けた道筋を正当化しようとする意図があると専門家は分析する。トランプは、戦争の責任を自らではなく、言うことを聞かないイスラエルのネタニヤフ首相に押し付け、自身のメディア戦略を巧妙に進めているように見える。