ビジネス虎の巻
“幻の手羽先”解禁 タブー破った多角的経営【山本久美】
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2026年5月24日

カリスマ経営からの脱却は多くの日本企業が抱える課題。「世界の山ちゃん」はいかにして過去最高の売上を叩き出したのか。利益率の低い手羽先ではなく、メニューを拡充する真の狙いとは何か。チームスポーツに通じるマネジメントの極意について、エスワイフード代表の山本久美氏が解説。 <ゲスト> 山本久美|エスワイ...
「世界の山ちゃん」を脱創業者の戦略で過去最高売上に導いた秘訣
飲食業界で確固たる地位を築いた「世界の山ちゃん」。創業者が作り上げた強力なブランドイメージがある中、2代目の山本久美氏はどのようにして先代の経営戦略を乗り越え、過去最高の売上を達成できたのか。その大胆な経営改革と組織マネジメントの秘密を、Q&A形式で深掘りする。

Q. 創業者の「禁止事項」をいかに乗り越え成長につなげたか?
過去最高の売上達成の秘訣は、創業者の理念を絶対視せず「今も本当にダメなのか?」と問い直した点にある。かつて禁じられていたキッチンカーの導入は、社員の「やりたい」という声が発端であった。当初、創業者であれば「維持費がかかる」と却下したであろうが、山本氏はこれを許可した。半年間の不振を経て出店場所を開拓し続けた結果、今ではキッチンカーは大成功を収めている。創業者ボトムアップの提案を「いいんじゃない」と後押しし、時代に合わせた変化を恐れない姿勢が新たな収益源を創出したのだ。
Q. 門外不出だった手羽先の外部販売やコラボはどのように実現したか?
「幻の手羽先」を店外に持ち出すことは長らく門外不出であった。しかし山本氏は幹部に対し、「創業会長が生きていたなら、今の変化を楽しんだはずだ」と説得した。これは創業者の本質的な精神を汲み取り、現状維持ではなく進化を選んだ結果である。冷凍食品としての販売やコメダ珈琲店、コンビニとのコラボレーションは、売上以上に強力な宣伝効果を発揮した。これらの戦略により、山ちゃんを知らない層への認知を広げ、休眠顧客の来店動機を創出し、本業である店舗への相乗効果を生んでいる。
Q. 手羽先以外も「70点以上」を貫く品質基準にはどのような意図があるか?

「世界の山ちゃん」は手羽先が看板商品であり、手羽先の評価を100点とすれば、他のメニューも「70点以上」の品質を厳守している。これは、一つでも「まずい」と思われたら客の再来店が途絶えるという危機意識からくるものである。手羽先の原価が高騰する中、豊富な居酒屋メニューの品質維持が収益構造を安定させる。さらに、ファミリー層の来店を促すため、「胡椒なし」の手羽先提供や多様なニーズに対応するメニューを拡充。また、落ち着いた空間で「世界の山ちゃん」の手羽先を楽しめるワンランク上の業態「山」を展開。高級すぎない価格帯で、既存顧客の多様なシーンや新規顧客を獲得している。年間メニュー改定と四半期ごとの季節メニューにより、顧客を飽きさせない工夫も怠らない。
Q. 全国優勝監督の経験を活かした組織マネジメント術とはどのようなものか?

山本氏はミニバスケットボールの監督として全国優勝に5年間で3度導いた経験を持つ。彼女はこの経験から、「お店もチーム」と捉えている。店長がスタッフに愛情をかけ、個々の役割がすべて同等に価値あるものだと伝えることを重視している。バスケットチームにおいてエースが率先して雑用を行うように、会社でも目立つポジションの社員が影の功労者をねぎらうことを推奨する。他店への応援など、地道な貢献をした社員を朝礼や社内報で具体的に称賛する。この「見える愛情」が部下のエンゲージメントを高め、「このリーダーのために頑張りたい」という自発的な貢献意欲を引き出す。
Q. 社員が積極的に挑戦し失敗を恐れない文化をどう醸成しているか?
社員の挑戦を促すため、山本氏は「失敗しても良い」という文化を醸成している。新しい挑戦に対し「間違った」と思えば、恥じることなくすぐに方向転換したり、撤回したりする勇気を持つよう促している。部下からの提案を許可し、挑戦させた結果生じる責任はリーダーである自身が負う。失敗した場合も、部下を責めずに「なぜ失敗したか」を共に考え、次の改善に繋げる。このような心理的安全性が、社員が安心して新たなアイデアを提案し、果敢にチャレンジする土壌となっているのである。
Q. 働く母親として仕事と子育てを両立する上で最も大切にすることは何か?

CEOとして多忙を極める一方で、働く母親でもある山本氏は、仕事と子育ての両立には完璧主義を捨てる勇気が不可欠だと語る。「これだけは譲れない」という核となるこだわり(山本氏の場合は手作りの食事)を一つ決め、それ以外は周囲に頼ったり、思い切って手を抜いたりする割り切りが自分を追い詰めない秘訣だ。食事へのこだわりは、夜中の作り置きや早朝の準備で実践し、一方掃除などは妥協点とした。親が一生懸命に働く姿は、子供にとって最高の教育であり、多忙でも何か一つでも「自分のために愛情をかけてくれている」と感じるものがあれば、子供には親の愛情が十分に伝わるだろうと語っている。