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【米国経済の正体】GDP・雇用・物価の3つを見よ!
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2026年5月21日

好調に見える米国経済の裏で、実は労働参加率は1970年代以来の低水準。インフレ再燃で国民の生活が苦しくなる「アフォーダビリティ」問題が深刻化。これらの経済実態が、いかに政治を動かす大きな波となっているか、ワシントン駐在合計6年間、丸紅経済研究所の阿部賢介研究員に解説してもらった。 <ゲスト> 阿部...
数字だけでは見えない米国経済の真実:歪む雇用統計、深まる格差、再燃するインフレ
現在の米国経済は、好調というイメージと国民が訴える苦しさが混在する「二つの顔」を持つ。株価の上昇や一部の経済指標だけを見れば回復基調にあるように思える一方で、「アフォーダビリティ(手頃な価格)」という言葉に象徴されるように、住宅や生活費の高騰に国民は喘いでいる。この複雑な実態を理解するためには、表面的な数字の裏に潜むメカニズムや、社会情勢に根差した民意の変化を深く読み解く必要がある。ワシントンに長年駐在し、米国の政治経済の動向を間近で見てきた専門家が、報道のヘッドラインだけではわからない米国経済の深層を解き明かす。

Q. 米国の雇用統計は、企業調査と家計調査でなぜ異なる結果を示すのか?
米国労働省が毎月発表する雇用統計は、その内容を詳細に見ていくと、事業所調査と家計調査という全く異なる二つのデータから構成されている。事業所調査は企業からの報告を基に「仕事の数」を数えるもので、非農業部門雇用者数などがこれに該当する。一方、家計調査は個人へのアンケートを基に「働く人の数」を数え、失業率を算出する際に用いられる。
この二つの調査では、とりわけ2026年に入ってから、著しい乖離が見られる。事業所調査では過去4ヶ月で30万人以上の雇用増加が示された一方で、家計調査では130万人以上の雇用減少が報告されているのだ。この大きな差が生じる一因は、兼業・副業者の増加にあると考えられる。一人の個人が複数の仕事を持つ場合、事業所調査では複数の「仕事」としてカウントされるが、家計調査では一人の「働く人」としてしかカウントされないためである。結果として、事業所調査の数字は実際の雇用状況を過大評価している可能性を指摘する声もある。

Q. 労働参加率が歴史的低水準にあるのは、なぜか?
雇用統計を見る上で、失業率と並び重要なのが労働参加率だ。労働参加率とは、16歳以上の生産年齢人口のうち、軍人や施設収容者を除く人々の中で、実際に働いている、または働く意思を持つ人々の割合を示す指標である。この労働参加率が現在、61.8%という水準にあり、これは1970年代以来の低水準を記録している。つまり、潜在的に働ける人口の約4割が労働市場に参加していない実態を意味する。
この低水準の背景には、高齢化や高学歴化(学生期間が延びることによる労働市場からの退出)といった構造的要因だけでなく、深刻な社会問題が横たわっている。例えば、地方都市に蔓延するオピオイド危機や、精神疾患などにより、労働意欲を喪失し社会から隔絶された人々が多く存在することが指摘されている。J.D.ヴァンスの著書『ヒルビリー・エレジー』に描かれたような、社会から取り残され、退廃的な生活を送る白人労働者層の存在は、数字だけでは見えない労働参加率の低迷の裏にある、米社会の深層的な問題を象徴している。これらの人々はワシントンの政策から疎外されたと感じ、トランプ現象の温床にもなったとされる。
Q. AI投資は米国GDPを牽引しているが、その真の姿とは何か?
米国経済の重要な指標である国内総生産(GDP)は、2026年1-3月期において年率換算で2%の成長を記録した。この数字は、米国の潜在成長率(約2%程度)と同水準であり、一見すると堅調な経済成長に見える。しかし、その内訳を詳しく分析すると、歪んだ実態が明らかになる。
GDPの約7割を占めるはずの個人消費の寄与が1.08%に留まる一方、民間設備投資が1.39%と異例の高い水準を記録した。さらにその民間設備投資の中身を掘り下げると、AI関連投資が1.61%という圧倒的な寄与を示しており、AI以外の設備投資はむしろマイナスであったことを示唆している。つまり、現在の米国経済はAI関連投資という「一本足打法」によって成長している構造が浮き彫りとなる。旺盛なAI投資は、データセンター建設やAI関連機器の需要を急増させるが、それに伴う半導体やデジタル機器の多くを海外からの輸入に依存しているのが実情だ。GDPの算出上、輸入はマイナス寄与となるため、AI投資の恩恵が大きければ大きいほど、同時に輸入拡大がGDP成長率を抑制するという、一見すると矛盾した現象が起きているのである。これは、米国が最先端の半導体製造能力を国内で十分に持たないという構造的な脆弱性を露呈しているともいえる。

Q. 再燃するインフレと「アフォーダビリティ」問題が示す米国経済の課題は何か?
米国の物価指標には、メディアで頻繁に報じられる「消費者物価指数(CPI)」と、連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策の目標とする「個人消費支出(PCE)デフレーター」の二つがある。CPIは消費者の財布から実際に支払われる価格に焦点を当てる一方、PCEは政府補助金を含むより広範な消費動向を反映し、物価の代替効果を考慮するため、CPIより穏やかな傾向を示すことが多い。FRBが2%の物価目標としているのは後者のPCEだが、CPIが速報性から注目されやすい傾向がある。
一度は落ち着きを見せたインフレだが、足元では再び上昇傾向にある。特に顕著なのがエネルギー価格の動向で、中東情勢の緊迫化が発端となり、CPI全体の押し上げ要因となっている。さらに、エネルギー価格の上昇が他の品目にも波及し始め、コアCPI(エネルギーと食品を除く)も上昇傾向を示す。問題は、賃金上昇率が物価上昇率に追いついていない点にある。直近では物価上昇率3.8%に対し、賃金上昇率は3.6%と、実質賃金がマイナスに転落。これは、実質的に国民の購買力が低下していることを意味し、家計をさらに圧迫する。
こうした状況の中で浮上したのが「アフォーダビリティ」問題である。この言葉は、インフレ率が2%台の比較的落ち着いていた時期から国民の間で広く使われ始めた。これは、統計上の物価安定と、住宅費や医療費といった生活に不可欠なクリティカルな出費の高騰に対する国民の強い不満との間に、大きなギャップがあることを示唆している。多くの国民にとって、インフレの数字そのものよりも、住宅や医療など、最低限の生活を営む上で避けられない費用の高騰が、深刻な生活苦として認識されているのである。

Q. 経済指標と国民感情の乖離が、米国の政治にどのような影響を与えているか?
米国の経済や政治においては、客観的な数字や事実以上に「ナラティブ(物語)」が強い影響力を持つ。例えば、アフォーダビリティの問題のように、多くの国民が経済的な苦境を訴える際、「自分の責任ではなく、政策の責任である」という物語が共有されると、それが世論を動かす大きなうねりとなり、最終的には政治を動かし、政権交代にまで影響を及ぼす可能性がある。
雇用統計やインフレ率といった経済指標は、それぞれの国民層や地域によって受け止められ方が異なり、一様な「良い経済」「悪い経済」という評価が当てはまらない場合も多い。前述した労働参加率の低迷の背景にある社会問題が示すように、ワシントンのエリート層が提示する経済像と、地方の労働者層が体感する現実との間には大きな隔たりが存在する。このようなギャップが、国民の不満や政治への不信感を醸成し、「現状維持」を望まない層の増加へと繋がっていく。この力学は、例えばトランプ現象が既存の政治エスタブリッシュメントへの攻撃を通じて支持を得たことにも表れている。数字上の好況の陰で生活苦を感じる層の物語は、来たる選挙戦において極めて重要な争点となるだろう。

Q. 世界最大の産油国である米国が、なぜ原油価格高騰の影響を受けるのか?
トランプ前大統領はかつて、米国が世界最大の産油国であるため、ホルムズ海峡の閉鎖などの地政学的リスクによる中東産原油への依存度が低く、国内のガソリン価格には影響がないと主張したことがある。しかし、これは誤解を招く認識だ。確かに米国は近年、シェールオイルの増産によって世界最大の原油生産国となったが、国内のガソリン価格は依然として国際的な原油市場に大きく左右される。
その理由は、原油がWTI原油やブレント原油などの国際商品先物市場で取引されるグローバル商品であるためだ。たとえ国内で豊富に原油が生産されても、その価格は国際市況に連動する。米国の石油生産企業は、国内市場で安値で販売するよりも、高値で売れる海外市場に輸出することを経済合理性から選択する。したがって、中東情勢の緊迫化などによって国際的な原油価格が上昇すれば、たとえ国内で石油を十分に生産していても、米国人はガソリンスタンドでその高騰を支払わざるを得ない状況になる。自給率が高いことと、国際市況から隔離されることは別問題であり、グローバル化された現代経済においては、その影響は避けられないのが実情だ。