PIVOT TALK BUSINESS
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2026年5月21日

過去最高となる5兆円の純利益を叩き出したソフトバンクG。OpenAIにフルベットして大丈夫なのか?ソフトバンクの実力をどう見極めればいいのか?財務戦略アドバイザーの田中慎一氏に分析してもらった。 <ゲスト> 田中慎一|財務戦略アドバイザー・インテグリティ代表 慶應義塾大学経済学部卒業後、太田昭和セ...
ソフトバンクグループは2023年度決算で最終利益5兆円を計上し、日本企業として史上最高益を達成した。しかし、これは一般企業が実業で稼ぎ出す売上と利益の構図とは大きく異なる。実際の売上は約7.8兆円であり、利益が売上に対して極めて高い割合を示している。

この巨額な利益の大部分は、主にソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資するOpenAI株の評価益によるものである。OpenAIは未上場企業であり、実際に株を売却して現金を得たわけではない。そのため、これはあくまで「含み益」であり、市場の変動によって価値は増減する。つまり、財務諸表上は計上されているが、手元にある現金ではないという特殊性があるのだ。
OpenAIへの投資は確かにソフトバンクグループの決算に大きな影響を与えているため、一見すると「OpenAI一本足打法」と映るかもしれない。
投資利益の内訳を見ると、OpenAIの評価益がVision Fundの利益のほとんどを占めている。例えば、Vision Fund 2号のポートフォリオでは、公正価値(フェアバリュー)で見てOpenAIが全体の約4分の3を占めている。このように、投資「金額」の面ではOpenAIへの集中度が高いと言える。

しかし、ビジョンファンドの投資「銘柄数」に注目すると、FinTech、コンシューマー、エンタープライズ、AI/半導体など多様な分野に分散投資していることがわかる。特定の技術分野や企業にのみ依存しているわけではなく、幅広いセクターでリスク分散を図ろうとしている点は見過ごせない。ただし、現状ではOpenAIの価値が突出しているため、バランスが偏っているのは否めない事実である。

また、未上場企業の評価額は、上場企業のように市場で常に値付けされるわけではない。投資家と企業の間で、「調達したい資金」と「放出可能な株式比率」から逆算して決められる合意価格であり、実際の売却時に同じ価値を持つ保証はないことも理解する必要がある。
ソフトバンクグループは史上最高益を達成したにもかかわらず、その株価収益率(PER)は約6〜7倍と非常に低い。これは、日本の平均的な企業のPER20倍と比較しても、市場からの評価が低いことを示している。この背景には、ソフトバンクグループの複雑な事業構造が関係している。
ソフトバンクグループは、純粋な事業会社でもなければ、純粋な投資会社でもない。通信事業(ソフトバンク)、AIコンピューティング事業(アーム)のような実業を持ちながら、膨大な投資を行うビジョンファンドも傘下に抱えている。この多様な事業が混在する「コングロマリット」的なビジネスモデルは、既存の会計基準やアナリストの分析枠組みでは捉えにくく、企業価値が割安に評価されやすい「コングロマリット・ディスカウント」を受けやすいのだ。あたかも「ラーメン全部乗せ」のような状態であり、投資家にとって評価が難しいのである。
このため、ソフトバンクグループ自身は、変動の激しい損益計算書(PL)上の利益よりも、以下に示す3つの指標を重視している。特に注目すべきは「純資産価値(NAV)」であり、グループ全体の保有株式の時価総額から負債を差し引いた実質的な資産価値が、3月末時点で約40兆円に達している。この数字が、グループ全体の「実力」を表す指標として機能するのだ。

ソフトバンクグループは、エクイティ(株式)による資金調達ではなく、デット(負債)である借入や社債発行を積極的に活用している点で、日本企業の中でも異質な存在である。この多額の負債を見て「危ない」と感じる声も少なくない。しかし、彼らは極めて厳格な財務規律を持っている。
彼らが重視する指標の二つ目が、「ローン・トゥ・バリュー(LTV)」である。これは、保有する投資ポートフォリオの時価総額に対する有利子負債の割合を示し、これを25%未満に維持することを原則としている。この規律を守るため、必要であれば資産売却を行い、有利子負債を削減する方針を貫く。現在、LTVは約17%であり、目標水準を大幅に下回っている。
このLTV規律の徹底ぶりは、仮にOpenAIの価値が完全にゼロになったとしても、LTVは23%に収まり、引き続き25%未満を維持できるという試算からも見て取れる。この頑健な財務体制が、巨額の負債を抱えながらもリスクをコントロールするソフトバンク流ファイナンス戦略の要と言えるだろう。
三つ目の指標は「手元流動性」で、社債償還銀額の2年分、約3.5兆円を常に手元に置いており、短期的な資金繰りの懸念もないことをアピールしている。
ソフトバンクグループの債券格付けは、国内と海外で大きく評価が分かれているという特異な状況にある。日本の格付け機関(JCRなど)からは「シングルA」と評価される一方で、S&Pやムーディーズといった海外の大手格付け機関からは「ダブルB」という評価を受けている。これは5段階もの違いがあり、海外からは「投機的格付け」(いわゆるジャンク債級)と見なされていることを意味する。
このような評価の乖離は、各格付け機関の評価哲学や基準が異なることに起因するが、ソフトバンクグループにとって国内での「シングルA」維持は極めて重要である。その理由は、日本の機関投資家(資産運用会社など)の多くが、社内規定により「シングルA」以上の社債しか購入できないと定めているためだ。

もし「トリプルB」に格下げされると、日本の債券市場での大規模な資金調達が事実上不可能となり、企業として致命的な影響を受ける。したがって、ソフトバンクグループがLTVなどの規律を守り「シングルA」を死守することは、国内での安定的な資金調達を確保するための、まさに生命線となっているのだ。日本企業の多くが安全志向で財務基盤を固めようとする背景には、こうした国内市場特有の事情も存在する。
ソフトバンクグループを牽引する孫正義氏の経営哲学は、「リターンが欲しければリスクを取るしかない」という資本主義の根本原理を徹底的に体現している。多くの日本企業が「リスクゼロ」を追求しようとし、結果としてリターンも限定的になるのに対し、孫氏はデット活用や戦略的な大型投資を通じて、積極的にハイリスク・ハイリターンを狙う姿勢を貫く。
彼の圧倒的な「当事者意識」も特徴である。会社の金庫から投資をする際も、まるで自分の懐から出すかのような緊張感を持ち、その強い信念がOpenAIのような巨大なベットを可能にしている。また、既存の財務指標にとらわれず、将来のビジョンや事業の本質的価値を深く見極める「ビジョンドリブン型」の投資スタイルは、会計基準の枠に収まらない独特の価値観を持つ。
OpenAIへの巨額投資は、単なる投機ではなく、AIという歴史的な産業革命の中核に位置するプレイヤーの座を確保するための戦略的な一手と言える。投資できる「クラブ」に参加できたこと自体が偉大な成果であり、AI市場が一部の勝者だけでなく、複数の強者が共存する巨大なエコシステムになる可能性を考えると、十分なリターンが見込めるものだと分析している。
このダイナミックなリスクテイクの哲学は、変革が求められる日本企業にとって多くの学びを提供すると考えられる。ただし、その属人的で「懐に入り込む」投資スタイルは、孫氏だからこそ可能であるという側面も強く、安易な模倣は困難であろう。