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日本の自動車メーカーは生き残れるか?パナソニック化の危機
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2026年5月18日

トランプ関税、中国勢台頭などにより岐路を迎える自動車業界。トヨタ、ホンダ、日産などの日本メーカーは生き残れるのか?最新決算を踏まえながら、ジャーナリストの井上久男氏と川端由美氏に展望してもらった。 <ゲスト> 井上久男|経済ジャーナリスト NECを経て1992年朝日新聞社に中途入社。2024年独立...
日本自動車産業はパナソニック化する? ホンダのEV戦略失敗が示す、問われる経営変革の本質
かつて世界市場を席巻した日本の家電メーカーは、デジタル化の波と海外勢の台頭により「失われた30年」を経験した。今、同様の激震が自動車業界を襲っている。経済ジャーナリストの井上久男氏と自動車アナリストの川端由美氏の対談から、日本を代表する自動車メーカーが直面する危機の本質と、その生き残りの道を探る。

「今のままでは、トヨタとスズキ以外の日本車メーカーは生き残れないだろう」——冒頭で投げかけられた専門家のこの辛辣な結論は、何を意味するのか。企業が潰れるわけではないが、かつてのような競争力を維持し、消費者の間で存在感を保ち続けるのは困難になるというのだ。
Q. 日本を代表する自動車メーカーの現状と、本当に生き残れる企業とは何か?
井上氏は、「現在の形で競争力と社会に対する影響力を保持できる日本の自動車メーカーは、トヨタとスズキぐらいなのではないか」と厳しく指摘する。これは企業が倒産するという意味ではない。ホンダや日産などの他社は、現時点の姿のままで、消費者の認知や市場における存在感を維持することが難しくなるとの見方である。
自動車アナリストの川端氏もこれに同意し、「2017年に“自動車会社が消える日”という本を執筆したときから、そうした疑問はすでに存在していた」と付け加える。つまり、日本自動車産業の将来に対する危機感は、以前から専門家の間で共有されていたのである。
Q. 絶対王者と称されるトヨタでさえ、安泰ではないと言われるのはなぜか?
トヨタは自動車業界内では依然として圧倒的な収益力を誇り、今回の決算でも他の日本メーカーに比べて健闘している。しかし、そのトヨタでさえ安泰ではないと専門家は指摘する。直近の決算では営業利益率の悪化が見られ、減益の見通しが続けば、経営陣は強い危機感を抱いているに違いない。

競争の軸が大きく変化している点が、トヨタが抱える大きな課題の一つである。従来の競合相手はフォルクスワーゲンやベンツといった他国の自動車メーカーであった。しかし、現在の競争相手はファーウェイのような中国のIT企業や、NIO(上海蔚来汽車)、理想汽車(Li Auto)、小鵬汽車(XPeng)といった新興EVメーカーである。
自動車がEV化、SDV(ソフトウェア定義型自動車)化し、AIとの融合が進む中で、自動車産業の構造自体が大きく転換している。この新たな競争の土俵では、トヨタのような既存の自動車メーカーも、かつての成功体験に固執すればあっという間に陳腐化する危険性をはらんでいるのだ。
Q. 日本を代表する自動車産業が、かつての家電メーカーのように「パナソニック化」する恐れがあるとはどういう意味か?
現在の自動車産業は、20数年前に日本の電機業界が経験した構造転換と酷似している。井上氏は、かつて日本の電機メーカーがコンシューマー向け製品に固執して衰退し、社会インフラ分野へシフトした企業が生き残れた歴史に言及する。テレビ事業にこだわり続けたパナソニック(当時は松下電器)が、最終的に事業を大幅に縮小・売却せざるを得なかった事例は、その典型的な教訓である。
パナソニックが陥った轍(てつ)は、「作れば売れる」という“ものづくり神話”からの脱却ができなかったことにあった。自動車業界も「電動化」や「知能化」という大波が押し寄せる中で、過去の成功体験にしがみつけば、同じように“パナソニック化”する可能性があるという。
もう一つの問題は、日本の自動車メーカーの組織に蔓延する「組織の新陳代謝の遅れ」である。電機メーカーが大規模なリストラを通じて組織の「血」を入れ替えたのに対し、日産を除く多くの自動車メーカーはこうした経験が少ない。このため、社内には依然として古い考えを持つ社員が残り、時代に取り残された価値観が改革の足枷となっている可能性がある。Z世代やアルファ世代といったデジタルネイティブな若者の価値観や消費行動への理解も不十分だと指摘される。
Q. ホンダのEV戦略が市場で苦境に立たされているが、この戦略は根本的に間違いだったのか?
ホンダの三部社長が2021年に打ち出したEV全振り戦略は、現時点では「つまずいた」と見られている。しかし専門家の意見は異なり、当時の経営判断自体は決して間違いではなかったと評価する。
ホンダは全販売台数の約4割を米国で稼ぐ、米国依存度の高いメーカーである。オバマ政権、そしてバイデン政権がCO2削減目標を強く掲げ、新車販売におけるEV比率を大幅に引き上げる計画だったことを考慮すれば、EVへのシフトは米国市場で生き残るための「必然」とも言える選択であった。ホンダは高い財務体力があったため、自前での投資も可能であり、迅速なEVへの軸足移行を図ったのは合理的な経営判断だった。
ではなぜ失敗したのか。それは、規制の動向を過信しすぎたあまり、現実の市場におけるEV普及ペースや、ハイブリッド車に対する消費者の根強い需要を見誤ったためである。そして、状況変化への軌道修正が遅れた点が大きい。例えばトヨタはEVへの投資を継続しつつも、ハイブリッドの増産へと素早く舵を切るなど柔軟に対応した。これに対し、ホンダはEV戦略におけるアクセルを踏み続けるあまり、「足元で稼ぐ」視点が欠けてしまったと分析される。
Q. ホンダが発表した新経営戦略は、失速したEV戦略を立て直し、企業を成長軌道に乗せることに貢献するのか?
ホンダの新経営戦略は、ハイブリッド車への回帰や二輪事業の強みを四輪に活かす施策、インド市場の開拓などを盛り込み、3年後の過去最高益を目指すというものである。これに対し専門家は、「内容としては合理性がある」と評価する。

しかし同時に、「絵としては良いが、果たして実行できるのか」という疑問も呈されている。ホンダの四輪事業は、実は過去20年間、四半期ベースで赤字となるなど構造的な問題を抱え続けてきた歴史がある。EVシフトには、儲からない四輪事業のあり方を根本的に変革したいという強い意志があったと見られる。
加えて、ホンダは過去にGMとの自動運転提携の中止など、「言うことは良いが実行が伴わない」ケースが散見される。ブレーキを踏むべき時に適切に踏み込めず損失を拡大した前例を考えると、合理的な計画が本当に実を結ぶかどうかの実行力が最大の焦点となる。
一方で、新戦略があつものに懲りてなますを吹くように、これまでのEV開発で培った知見まで捨て去るようなことになれば、それもまた大きな機会損失となり得る。EVやSDV(ソフトウェア定義型自動車)の分野で先行していた部分を有効活用し、バランスの取れた戦略遂行が求められているのだ。
Q. 日本企業全体に求められる組織変革とは何か?次期リーダーに託される期待と課題は?
自動車業界が変革を遂げるには、かつての電機メーカーや日産のカルロス・ゴーン改革時のように、血を流す覚悟での構造改革、いわば「令和の公職追放」が必要であると専門家は指摘する。従来の雇用を守ることを優先する日本的経営は、企業の新陳代謝を妨げ、時には社員の成長機会まで奪う「人材の墓場」になりかねない。
ホンダは経営判断の適時性やガバナンス体制の見直しを進めており、社外取締役の過半数化など積極的な改革に乗り出している。また、次世代のリーダー候補として、48歳のSDV分野のエースである四竈真人氏がコーポレート戦略本部長に抜擢されたことは、ホンダの変革への強い意志を示すものとして注目を集めている。

技術畑一筋だった四竈氏が経営の要衝を担うことについては未知数な点も残るものの、DXやAIとの融合が加速する現代において、車の知能化に関する深い専門知識を持つ人材が経営戦略を牽引することは極めて重要である。世間の常識に囚われず、未来を見据えた大胆な意思決定こそが、危機を乗り越える鍵となる。
もちろん、若すぎるリーダーの抜擢が、年功序列の残る日本企業特有の摩擦を生む可能性もある。しかし、グローバルな視点で見れば、40代の経営者は珍しくない。重要なのは年齢ではなく、既存の慣習にとらわれず会社を根本から変革し、社員の能力を最大限に引き出すことができるかである。人材を抱え込むのではなく、流動性を高め、個人が能力を活かせる場を見つけることができる社会こそが、企業と個人の双方にとって健全な未来をもたらす。