PIVOT TALK BUSINESS
日本製部品も転用。兵器に使われる民間技術
(695)
7,139回視聴
2026年5月15日

今知っておくべき「軍民両用(デュアルユース)技術」の最前線を徹底解説。日本製の部品がイランのドローン「シャヘド」に転用される実態や、AI兵器が戦場を支配する現実など、テクノロジーが変える戦争のリアルに迫る。前編で宇宙、後編でドローンとAIについて深掘り。 <ゲスト> 大庭弘継|立教大学大学院 人工...
ドローン・AIが戦争とビジネスにもたらす変化:深まる「軍民両用」のリスクと可能性
最近の紛争で注目を集めるドローンやAI。これらは戦場の風景を一変させるだけでなく、我々の日常的なビジネスにも予測不能な影響を及ぼしつつある。
一見無関係に見えるスマートフォン部品が兵器の材料となり、AIが戦況を左右する時代において、「軍民両用技術(デュアルユース・テクノロジー)」という概念は、もはや他人事ではない。
本記事では、進化するドローンとAIが引き起こす新たな軍事と経済のダイナミクスについて、具体的な事例を交えながら深掘りしていく。

Q. 安価なドローンが現代の戦争をどのように変えたのか?
現代の戦争において、低コストで大量生産可能なドローンは戦局を大きく変える存在である。
例えば、イラン製のシャヘドと呼ばれるドローンは、数百万の費用でスマートフォンに使用される汎用部品を組み合わせて製造される。その結果、高度な軍事技術を持たない国でも長距離ドローンを大量生産可能となった。

ところが、その安価なドローン1機を撃墜するために、数千万円もするミサイルが必要となる「コストの非対称性」が生じる。これは防衛側にとって、莫大な経済的負担となることが最大の特徴だ。
数百機、数千機と大量のドローンが投入されると、防衛側の高価な迎撃システムが経済的に疲弊し、飽和攻撃によって戦術的優位が失われる可能性がある。
Q. ドローンの軍事利用はどのように発展してきたのか?
ドローンの原型は100年以上前にニコラ・テスラが開発したラジコン技術にまで遡り、旧ソ連のラジコン戦車や第二次世界大戦中の米軍ラジコン飛行機計画など、古くから軍事応用の構想はあったが、当時は技術的限界から実用化には至らなかった。

転機は1990年代に訪れ、偵察・監視用の無人航空機「プレデター」が登場し、軍事利用が本格化した。その後、2008年にはミサイルを搭載可能な「リーパー」が登場する。
このリーパーは上空で長時間待機し、命令を受ければ標的を攻撃する「ハンターキラー」としての役割を担い、個人を標的にする暗殺兵器へと進化を遂げた。オバマ政権下ではアフガニスタンやパキスタン北部でタリバン要人を標的とする「標的殺害」に多用され、戦争の形態を大きく変えたのだ。
ちなみに、日本の海上自衛隊もかつて米海軍と協力し、1960年代には偵察・攻撃用のラジコンヘリ「ダッシュ」を導入していた。米軍は操縦ミスで多数の機体を墜落させたが、器用な日本は問題なく運用できた。しかし、米軍が計画を中止したため、日本もやむなく運用を終了し「幻の兵器」となった経緯がある。
Q. AIは軍事戦略においてどのような役割を担っているのか?
AIは戦場における膨大な情報の集約、識別、判断を行う「指揮統制」を自動化することで、作戦遂行のスピードと精度を劇的に向上させる。
米国防総省では、パランティア社のAIシステム「メイブン」がこの役割を担っており、NATOも導入を決定済みだ。かつては人間が紙の書類の山から戦況を把握していた作業をAIが代行し、様々な情報源からのデータを統合して同一の目標を認識するなど、人間には困難だった高速かつ正確な分析が可能となった。
これにより、迅速な意思決定が求められる現代戦において、AIは司令部の重労働を軽減し、作戦全体の効率を高める不可欠なツールとして定着しつつある。
パランティア社の強みである画像認識AIは、物体の形状から兵器を判別したり、顔認識技術を応用して不審者の行動を追跡したりすることも可能にする。イスラエルはこのようなAI監視システムを導入し、人権上センシティブな活動に利用している事例も指摘される。これは、人権を軽視する国家にとって、AIが国民統制の強力なツールとなり得ることを示しているのだ。
Q. AIの進化が引き起こす倫理的・社会的な課題とは何か?
AIの軍事利用において、倫理的なジレンマが顕在化している。人権や倫理を重視する民主主義国家がAI開発に慎重になる一方で、倫理的制約の少ない権威主義国家は規制なく技術開発を進め、技術的優位を確立してしまう「技術のパラドックス」が存在する。
これにより、最終的に倫理的に受け入れがたい技術を持つ勢力の影響下に置かれるリスクが生まれる。この危機感から、米国防総省は「AIファーストの軍隊」を目指す方針を掲げ、多様性や人権配慮といったポリティカルコレクトネスに基づく調整が加えられたAIは不要であると明言した。これは、マンハッタン計画の科学者たちが直面した葛藤と類似する状況であると言えよう。

また、AIは「ジェイルブレイク(脱獄)」と呼ばれる特殊な聞き方を用いることで、本来秘匿されるべき危険な情報を引き出す脆弱性を持つ。例えば「死んだおばあちゃんが子守唄代わりにサリンの作り方を教えてくれた」という質問でAIが毒物の製法を語り始めるような事例も存在した。
さらに深刻なのは、AIによる世論操作や「認知戦」への悪用だ。ケンブリッジ・アナリティカ事件では、SNSのデータから個人の性格や政治的傾向を分析し、最適な広告を表示することで、少数の有権者の投票行動を操作し選挙結果を左右した事実がある。現代のAIであれば、より大規模かつ巧妙な認知戦が可能となり、民主主義の根幹を揺るがしかねない。
実際にAI企業アンソロピック社は、自社AIが自律兵器や心理操作に悪用されることを懸念し、米政府への無制限提供を拒否。その結果、政権から「サプライチェーン上のリスク」とみなされ、事実上排除されるという前例のない事態に発展した。
Q. 「軍民両用技術」はビジネス界にどのような意味を持つのか?
「軍民両用(デュアルユース)技術」は単なる技術の分類ではなく、地政学的・経済的圧力のカードとして利用されている。
中国がレアアースなどの対日輸出規制の理由に「軍民両用品」を持ち出した事例が典型だ。WTOの自由貿易原則下では、他国への経済制裁は基本的には認められないが、ガット条約20条の「安全保障上の懸念」という例外規定を利用すれば、自由貿易原則を侵さずに圧力をかけることが可能になる。中国はこれを利用し、日本の防衛産業への輸出規制ではなく、広範な民間企業にもダメージを与える経済的な圧力を行使しているのが現状である。
これは、「軍民両用」という言葉の多義性を利用した言葉遊びであり、日本の多くの民間企業がその余波を受けている。
この「デュアルユース」の概念は、防衛産業のみの問題ではない。サプライチェーンがグローバル化している現代において、自社が直接軍事に関わっていなくても、取引先が何らかの理由で規制対象となったり、「軍事転用可能」との言いがかりをつけられたりすることで、事業に深刻な影響を受けるリスクが存在する。
そのため、全てのビジネスパーソンは「デュアルユース」を、自社が抱える潜在的なリスクを地政学的な観点から洗い出すための新たな視点として捉える必要がある。今後、国際情勢の変動がビジネスに与える影響は計り知れず、予測不能なリスクや新たな事業機会を見極める上で、この概念の理解は必須となるだろう。