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【速報解説:イラン戦争はいつ終わるのか?イランの交渉戦略を読む】
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2026年5月2日

泥沼化しつつあるイラン戦争。いつまで戦争は続くのか?イランの交渉戦略は?原油市場の行方も含めて、明治大学特任教授の杉田弘樹氏に速報解説してもらった。 <ゲスト> 杉田弘毅|明治大学特任教授 一橋大学卒業後、 共同通信社に入社。テヘラン支局長、ニューヨーク特派員を歴任。ワシントン支局長、論説委員長を...
泥沼化するイラン情勢と原油高騰の行方
中東を揺るがすイラン情勢は、出口の見えない泥沼化の様相を呈している。米国とイランの双方の主張は平行線をたどり、国際社会の懸念は深まるばかりだ。特に、世界経済の生命線である原油市場は、今回の事態に大きく翻弄されている。なぜイランと米国の対立は深まる一方なのか。そして、ホルムズ海峡の情勢不安と原油価格の高騰は、我々の日常生活にどのような影響を及ぼすのか。最新情報を基に、その複雑な現状と今後の展開を深く掘り下げる。

Q. イラン情勢はなぜ「泥沼化」すると言われるのか?
米国とイランの主張の隔たりは非常に大きく、和解への道筋は見えない状況にある。米国防総省およびトランプ政権は、軍事行動の承認期限である60日ルールに対し、停戦期間はカウントしないという独自の法解釈で強硬な姿勢を維持する。これにより、軍事行動の継続を正当化し、紛争が長期化する懸念を高めている。
一方イラン側も、最高指導者が核開発、ホルムズ海峡の支配、ミサイル開発を「権利」だと強く主張し、一切譲歩の姿勢を示していない。水と油の関係にある両者の見解は全くかみ合わず、交渉による解決は極めて困難だ。現状は一見停戦状態にあるものの、本質的な問題解決は全く進んでおらず、泥沼のような膠着状態が続くとの見方が強い。
Q. イランはなぜ対立を「エスカレート」させる戦略をとるのか?
イランは対立を意図的に激化させる「エスカレーション戦略」を、自国の目的を達成するための重要な手段と位置付けている。例えば、ウラン濃縮を核合意で認められた3.67%から60%にまで引き上げた行動は、兵器級核開発の一歩手前でありながら、直接的な核兵器製造とは異なる。イラン政府関係者も、これを相手との「バーゲニングチップ(交渉材料)」だと明言する。
これは、「普通に交渉しても、米国のような強大な相手はテーブルに着かない。危機をエスカレートさせ、『危険だ、やばい』という状況に追い込まなければ、自分たちの要求を聞いてくれない」というイランの伝統的な交渉哲学に基づいている。目的は相手を本気の交渉の場へ引き出すことにあり、状況が停滞すれば再びエスカレートしてくる可能性が高いと言えるだろう。

Q. ホルムズ海峡の「実効支配」がイランにとってどれほどの意味を持つのか?
イランは今回の紛争を通じて、戦争前には想像もできなかったホルムズ海峡の「実効支配」という強力なカードを手に入れたと認識している。最高指導者や軍幹部の殺害による損失はあったものの、対イスラエル・対米戦略という本質的な戦力は失っていないと彼らは主張する。
イランは現在、核兵器を持つことよりもホルムズ海峡をコントロールすることの方が、世界経済に対してはるかに大きな影響力を行使できると考えているようだ。これは金融政策における強大な権限を持つことと同義であり、いつでも世界の原油供給を止め、価格を急騰させることができる。この実効支配はイランを国際交渉において圧倒的に優位な立場(アッパーハンド)に立たせる結果をもたらしたと言えよう。
Q. イランは米国による経済制裁に耐え続けられるか?
イランは現在の経済制裁に対し、十分に耐えられるという自信を持っている。過去のトランプ政権発足当初、イラン核合意からの離脱と厳しい制裁再開により、石油輸出量は日量30万バレルまで落ち込んだ。この極めて厳しい時期を耐え抜き、監視の目を掻い潜りながら徐々に石油輸出を再開させてきた経験が、「耐久経済」というノウハウとなって蓄積されている。
しかし、全く弱点がないわけではない。大きなアキレス腱は、行き場を失った石油の備蓄場所が限界に達しつつあることだ。イランの主要な石油貯蔵地はほぼ満杯であり、沖合に停泊するタンカーも満杯状態だ。石油は油田から常に噴出するため、タンクが満杯になれば採掘を一時停止する必要がある。ところが、油田の稼働を一度止めると、設備に深刻な損傷を与え、再稼働に半年以上もの時間を要することが分かっている。これはイラン経済にとって計り知れない打撃となりうるだろう。
Q. 米国トランプ政権はイラン問題にどのような「出口」を探るのか?
トランプ大統領にとって最優先事項は、中間選挙を前に国民の支持を得ることにある。有権者が最も関心を持つのは、遠い外交問題よりも生活に直結するガソリン価格の動向だ。そのため、トランプ大統領は「ガソリン価格の引き下げ」を何よりも重視する。キューバ問題のような他の外交課題は、中間選挙の結果には直結しないため、その解決は選挙後へ持ち越される可能性が高い。

出口戦略としては、この夏がひとつの山場になる可能性がある。イランが再度、ドローンによる嫌がらせなどのエスカレーションを行い、戦争危機が高まる中、トランプ大統領が「これ以上は良い」と判断し、交渉のテーブルに着くシナリオだ。原油価格を一定水準に抑え、「自分がこの事態を収拾した」と大々的に勝利宣言を行い、それを有権者への実績としてアピールするだろう。例えそれが実質的な解決に至らなくても、巧妙なPRで国民を納得させ、中間選挙での勝利を目指すと考えられる。
Q. UAEのOPEC離脱は原油価格にどのような影響を与えるのか?
UAE(アラブ首長国連邦)のOPEC(石油輸出国機構)からの離脱は、世界的に極めて大きな影響を与えるだろう。これはOPECという価格調整カルテル体制の崩壊を意味するからだ。これまでOPECが黙認されてきたのは、石油の安定供給が先進国にとって不可欠であったためだが、今回のホルムズ海峡封鎖でその「安定供給」機能が失われた。これにより、OPECの存在意義そのものが問われる状況となっている。
UAEは、サウジアラビア中心のOPEC体制において、自国の石油輸出が停滞しているにも関わらず、生産調整に従わされることに強い不満を抱いていた。UAEの離脱により、国際社会が長年目を瞑ってきたこの「野合カルテル」は機能不全に陥る。結果として、価格調整役を失った原油価格は一層不安定になり、これまで以上に乱高下を繰り返し、価格の高止まりが年内続く可能性が高い。かつてのような1バレル60ドル台への回復は当面期待できないだろう。
Q. 原油高騰と円安が日本経済に与える影響と、懸念される「最悪のシナリオ」とは何か?
日本経済は、原油価格高騰と円安という「ダブルパンチ」に見舞われている。日本の消費者が直接その影響を実感するのは時間差があるが、夏頃には日常生活を直撃する事態となるだろう。3月の原油価格高騰が約2ヶ月後に電気料金に反映され、冷房需要が高まる夏の時期と重なり、家計に重い負担がのしかかる。さらに、ナフサ由来の医療用手袋やその他製品の不足が、経済全体に大きな影を落とす恐れがある。

現在の円安基調は、この原油高騰と密接に関わっている。高騰する原油を輸入するためにはドル建てでの支払いが必要だ。その結果、日本企業や財務省は手持ちの円を売ってドルを買わざるを得ず、この「円売りドル買い」がさらに円安を加速させるという悪循環に陥っている。政府による為替介入も一時的な効果しかなく、根本的な構造問題の前では限定的と言わざるを得ない。
現在の「緊張下の停戦」という楽観的な観測は非常に危険だ。国際政治では希望的観測が裏切られることも少なくない。もしトランプ大統領の気まぐれひとつで、再度イランへの軍事行動が再開されれば、原油価格はさらなる高騰、金利上昇、物価高と収拾のつかない事態に陥るだろう。その時、原油のほとんどを輸入に頼る日本が被る損害は最大級だ。日本はこの最悪のシナリオも念頭に置き、入念な備えをしておく必要があると言える。