PIVOT CAREER
(675)
1.0万回視聴
2026年4月30日

転職を考えると必ず考える月収。今、転職しても月収が上がるわけではない。 何のために転職するのか?AI導入は、どうすべきなのか? インディードリクルートパートナーズの高田氏と一緒に紐解く。 <ゲスト> 高田悠矢|インディードリクルートパートナーズ 特任研究員/Re Data Science 2010...
「日本でAIは普及しない」—この刺激的な問いかけは、現代日本の労働市場が抱える深刻な課題を浮き彫りにする。グローバルなAI技術の波が押し寄せる中、なぜ日本はこの変化に対応しきれないのか。
本稿は、その根源にある日本の雇用慣行と個人のキャリア観に深く切り込む。複数の調査データが示すショッキングな現実から、わずかながらの希望まで、専門家の見解を基に考察するものである。

AI導入は現在、個々の業務効率化のフェーズを超え、より大規模な組織変革とセットで考えるべき段階にある。具体的には、AIによる業務の代替に伴う部署の統廃合や人員配置の転換といった労働移動が不可欠となる。
しかし、諸外国と比較し、日本はこの「労働移動」に構造的な課題を抱えている。この問題こそが、日本におけるAI導入のボトルネックになり、ひいては「日本でAIは普及しない」という結論に至る可能性を秘めているのだ。
国際比較調査の結果は、日本の労働市場が極めて不健全な状態にあることを示している。

転職による月収増の低さ: 転職によって月収が10%以上増えた人の割合は調査国中で日本が最も低く、逆に10%以上減少した人が約3割も存在した。転職が必ずしも収入アップに繋がらない現実がある。
キャリアアップの難しさ: 転職によって役職が上がった人の割合も10%未満と、インドの6割超と比較しても極めて低い。日本では転職がキャリアアップの有効な手段として機能していない実態がある。
根底にある日本的雇用慣行: これらの不健全な状況は、長らく日本の成長を支えてきた「日本的雇用慣行」が時代の変化に対応しきれていないことに起因すると考えられる。
ただし、時系列データでは、転職時の賃金上昇率は右肩上がりで改善傾向にあり、特にITエンジニアなど新しい職種でその傾向は顕著だ。しかし、依然として海外との差は大きく、専門性が市場価値に反映されにくい課題は残っている。
日本の労働者のキャリア観と仕事への態度は、国際的に見て深刻な問題を抱えている。

将来のキャリアへの強い不安: 「もし突然会社を辞めた場合、希望する仕事に就けるか」という質問に対し、「当てはまらない」と答えた人が日本は調査国中で最多であった。
キャリアプランの欠如: 「将来のキャリアについて具体的なプランや見通しを持っているか」という問いに対して「持っている」と回答した日本の割合は最下位である。これは、職ではなく会社に就職するという「就社」文化が、キャリアへの主体性を奪っている可能性を示唆する。
仕事への低いエンゲージメントと満足度: 自身のポテンシャルを「60%以上発揮できている」と感じる人の割合が最低水準であった他、仕事への「のめり込み度」や勤務先への満足度(給与、昇進機会、人間関係、得られる経験など)も軒並み低く評価された。
これらのデータは、不満や能力を十分に発揮できない状況であっても、労働移動が難しいため会社に留まらざるを得ないという、いわば「負の循環」に陥っている日本の労働市場を映し出している。
アメリカでは、AIがすでに雇用に具体的な影響を及ぼし始めている。
若年層雇用の減少: ChatGPTの登場後、ソフトウェアエンジニアやカスタマーサービス担当者の分野で、特に若年層(22〜25歳)の雇用者数が顕著に減少している。AIが若年層が担っていた定型的な業務を代替し始めている「炭鉱のカナリア」現象と言える。
新規採用の停止: 生成AI導入に積極的な企業ほど若年層の雇用者数が大きく減少しているというハーバード大学の論文がある。これは大規模なリストラではなく、AIで代替可能な業務に対し新規採用を停止する形で人員調整が行われている実態を示す。
AI推進と労働移動の連携: アメリカの事例は、AIの導入推進と人事・採用が密接に連携しており、スムーズな労働移動がAI推進の前提となっている「ニコイチ」の構造があることを明確に示している。
日本においては、現在のところアメリカのような直接的な雇用減少のデータは確認されていない。これは、日本の終身雇用慣行や新卒一括採用、さらには人手不足といった要因により、AIによる代替がアメリカと全く同じ形ですぐには起こりにくい可能性が高い。しかし、技術的な面では同じAIを利用可能であるため、構造的には日本でも同様の事態が発生し得ることは否定できない。
日本は「生成AIなどに代表されるテクノロジーの進化は望ましいか?」という質問に対し、調査国中で「望ましい」と回答した人の割合が最下位という結果であった。

雇用不安が根本原因: 日本人がAIの進化を望まない主な理由は「雇用不安」に集約される。「自分のスキルが不要になる」「雇用が失われる」といった具体的な職への懸念が突出しており、プライバシーや文化・伝統への影響を懸念する欧米諸国とは対照的な結果である。
労働移動の困難さが絶望を生む: AIが雇用を減らす可能性について、欧米諸国は日本よりも悲観的に捉えているにも関わらず、AI導入には前向きである。これは「職を失っても、次へ移動すればよい」という健全な労働市場があるためである。一方、日本人がAI進化を望まないのは、根底に「AIに仕事を奪われても、次の仕事にスムーズに移れない」という労働市場の硬直性への絶望がある。
致命的な学びへの意欲の低さ: さらに「AIなどの新しいテクノロジーについて学びたいか」という質問に対しても、日本は「学びたい」と答える人の割合が調査国中で最下位であった。AIの進化を望まないだけでなく、学ぶ意欲さえないという事実は、日本が変化に対応できず、世界から取り残される深刻なリスクを示唆する。
対照的に中国は国を挙げてAI産業を推進し、労働市場の流動性も高く、国民はAI普及を当たり前のものとして非常に肯定的に受け入れている。この強力な政策と国民意識の一体化が、変化への抵抗の少なさにつながっていると分析できる。
一見絶望的に見えるデータの中にも、日本には希望の光がある。AIの進化に対して「どちらとも言えない」と態度を保留した「サイレントマジョリティ」の存在だ。
この中間層は他国より圧倒的に多く、もし彼らをAI推進側に誘導できれば、日本の状況は一気に好転する潜在力がある。サイレントマジョリティを動かす鍵は、AI導入のボトルネックとなっている「労働市場の不健全性」を根本から改善することだ。
健全な労働移動が促進され、転職によって不利にならない仕組みが整えば、人々の雇用不安は解消され、AIへの受容性も高まるだろう。
個人レベルでは、AIに代替されにくいスキルを身につける必要がある。従来のポータブルスキル(語学やプログラミング、ツール活用など)はAIによって代替されやすい領域にあるため、今後は一段抽象度の高い「メタスキル」が重要となる。
メタスキルとは、物事を抽象化・構造化して理解し、その本質を捉えて異なる場面に応用する能力である。自身の経験とこのメタスキルを組み合わせることで、AIには代替されにくい独自の価値を創出できるだろう。このような変革によって初めて「日本でAIは普及しない」という悲観的な未来を覆せるのだ。