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100年に一度の変化。次世代タバコでJTは勝てるのか?【筒井岳彦社長】
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2026年5月12日

5年で株価を3倍に伸ばすなど、海外市場での成長が続くJT。なぜ衰退市場でも成長できるのか?海外M&Aの成功要因は何か?電子タバコ市場でどう攻めるのか?2026年1月に社長に就任した筒井岳彦社長に聞いた。 <ゲスト> 筒井岳彦|JT 社長 早稲田大学理工学部卒業後、1997年にJT入社。M&Aや海外...
JT新社長が描く加熱式たばこの未来像:進化と変革の戦略
たばこ産業は今、未曾有の変革期を迎えている。特に加熱式たばこに代表されるリスク低減製品(RRP)市場は急速に拡大し、既存の紙巻きたばこの牙城を脅かす存在だ。この劇的な変化の渦中で、JTグループの新社長は、どのようなビジョンを描き、いかに挑戦し続けるのか。その深層戦略とリーダーシップの哲学を探る。

Q. 加熱式たばこにおける主要な差別化要因は何か?
加熱式たばこの差別化は「持ち心地やデザイン」そして「美味しさ」の二点が中核となる。特に美味しさは、紙巻きたばこを愛用する顧客も加熱式たばこを使用する顧客も等しく重視する、普遍的な価値だ。開発にあたっては10万個を超えるサンプルテストを通じて味覚を徹底的に追求し、プルーム・オーラなど現在の製品ラインナップに注ぎ込んだという。しかし、良い製品を作るだけでは市場を獲得できない。顧客に製品を知ってもらい、試してもらい、最終的に愛用してもらう一連のプロセス、すなわち「認知→試用→購入→愛用」という顧客体験のサイクルを構築するためのマーケティングが不可欠となる。
Q. 加熱式たばこは将来的に紙巻きたばこ市場をどこまで凌駕するのか?
時間軸の国ごとの違いはあるものの、加熱式たばこはいずれ紙巻きたばこ市場を追い抜くとJT社長は考えている。この変化は単なる市場の置き換えに留まらず、産業構造を根底から変える大きなイノベーションだ。現在の加熱式たばこの進化は、スマートフォンの初期の進化、例えばiPhoneが初期モデルから大幅に改良された過程に似ている。2〜3年周期で新世代が登場し、性能は飛躍的に向上していくという。現行の主力製品が最終形ではないという認識のもと、継続的なイノベーションで「前より格段に良くなった」体験を提供し続けることが、一度離れたユーザーを再び引き込み、市場を拡大する原動力となるだろう。

国際的に見てもたばこ市場は多様化している。日本では加熱式と紙巻きのシェアが拮抗しつつある一方、イギリスでは電子たばこ、スウェーデンではオーラルたばこが主流となっている。RRP(リスク低減製品)市場は、このような多様な形で、国ごとに最適なイノベーションとアプローチを通じて伸びる可能性を秘めていると言えるだろう。
Q. 既存事業のジレンマに対し、どのような経営戦略で向き合っているのか?
既存の収益性の高い事業(紙巻きたばこ)がある一方で、新しい事業(加熱式たばこ)に投資する「イノベーションのジレンマ」は確かに存在し、社内でもその葛藤がある。これを乗り越えるため、経営陣はリーダーシップを発揮し、「紙巻きたばこも加熱式たばこも両方大事」という「両利きの経営」を明確な戦略として掲げた。
紙巻きたばこ事業にはRRPへの投資原資を稼ぐ「キャッシュカウ」としての役割を与え、収益の最大化を目指す。対してRRP事業は、未来の成長を担う「成長エンジン」と位置づけ、積極的にイノベーションを追求する。このような明確な役割定義によって、社内の誰もが納得できる事業推進の論理を確立した。

両事業はそれぞれ異なる「思考モード(OS)」を持つため、議論の際には自身がどちらのモードで考えるべきかを意識し、使い分けることが求められる。既存事業の収益性を高める「深化」と、未開の領域を試行錯誤する「探索」はアプローチが根本的に異なる。社内の対立を避けるには、紙巻きたばこの持つ「強固なコンテンツ力と収益性」と、RRPの「イノベーションへの挑戦」という、それぞれの事業が持つ「誇り」を醸成し、互いの価値を尊重する企業文化が不可欠である。
Q. 約8000億円ものマーケティング投資は顧客獲得にどう寄与するのか?
今後3年間で約8000億円を投じる予定であり、その8割がマーケティング費用に充当される。これは、どれだけ優れた製品が開発されても、顧客に知られ、手に取ってもらわなければ意味がないという思想に基づく。マーケティング投資は、「認知→試用→購入→愛用」という顧客行動の各段階を推進するために必要とされる。
具体的には、アーティストとのコラボレーションや、交換可能なパネルの限定デザイン提供など、多様な企画を通じて顧客が製品を「手に取るきっかけ」を創出する。また、マーケティング戦略は各国ごとに最適化される。日本で有効な施策がイタリアや台湾でも機能するとは限らず、各国の文化や嗜好に合わせて戦略を「翻訳」するローカルチームの力が不可欠だ。このようなアプローチにより、既存の紙巻きたばこユーザーからの移行を促すだけでなく、新たな顧客層の開拓も視野に入れる。
Q. 日本市場がグローバル事業において依然として重要な理由とは何か?
グローバル化の進展により、JTグループ全体の収益に占める日本市場の依存度は低下している。これはリスク分散が機能している証拠でもある。しかし、「日本企業である」というアイデンティティは、海外のグローバル社員にとって大きな誇りであり、モチベーションの源泉となっているという。品質へのこだわり、「改善(KAIZEN)」の精神、そして長期的な視点での経営という日本的な価値観が、世界中で高く評価されているためだ。

驚くことに、日本人が一人もいない海外の事業所でも「改善」という言葉が掲げられ、現地の社員が自発的にその哲学を実践している。これは日本がJTにとって単なる市場に留まらず、「母国市場(マザーマーケット)」として、ものづくりの強みや顧客からの質の高いフィードバックを提供し、グループ全体のイノベーションを支える役割を担っていることの証拠である。
Q. 新社長が目指すリーダーシップ像とJTの未来の展望は何か?
新社長は、リーダーとしての最重要テーマは「挑戦」であると語る。常に現状に満足せず「もっと良くできる」と考える、自身のもつ“不満”こそが変革の原動力となる。30年後には、現在の新入社員が「昔はこんな会社だったのに、今は全く違う」と語るほどの変革を遂げている会社を目指す。過去の成功に安住せず、次のチャプターを自ら創り出す覚悟を示している。
リーダーの役割とは、守りに入りがちな大企業の中で、社員が臆することなく挑戦できるよう背中を押し、「風」を送れる存在であることだ。10年後のJTは、加熱式たばこが数世代進化し、事業の大きな柱となるだけでなく、パーパスに基づいた新規事業創出プログラム「D-Lab」から生まれた複数の新たな事業が立ち上がっている状態が理想だ。これは単なるグローバル化の延長線上ではなく、グローバル企業となったJTが自ら事業を生み出す、新しいフェーズへの移行を意味する。
難しい判断を迫られる場面では「どちらの未来の方が、会社や日本にとってよりワクワクするか」という問いを判断基準とする。挑戦の結果がうまくいかなかったとしても、それは失敗ではなく、次の挑戦への貴重な「学び」と捉える。この「ワクワクの量」が困難を上回るとき、個人も組織も前に進むことができるという信念のもと、挑戦の総量を増やしていくことで、社会全体を明るくするリーダーシップを目指している。