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欠乏経済に備えよ。テクノ資本主義の闇:斎藤幸平
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2026年4月23日

欠乏経済の到来によって、世界と日本はどう変わっていくのか?終末ファシズムを避けるために、どんな経済・社会制度を目指すべきなのか?『人新世の「黙示録」』を上梓した、経済思想家の斎藤幸平氏に聞いた。 <ゲスト> 斎藤幸平|経済思想家 東京大学大学院准教授、マルクス経済学者。ベルリン・フンボルト大学博士...
斎藤幸平氏が警鐘を鳴らす「欠乏経済」と「終末ファシズム」 暗い未来を生き残る「暗黒社会主義」とは
気候変動は加速し、終わりの見えない資源争いが世界を席巻する中、私たちは未曾有の「欠乏の時代」に突入している。経済思想家である斎藤幸平氏の最新作『資本主義の黙示録』は、その暗澹たる未来と、私たちに残された選択肢を鋭く提示している。
テクノロジーと資本主義が結びつき生み出されるテックエリートによる「ノアの箱舟」計画から、民主的な「計画経済」の可能性まで、複雑に絡み合う現代社会の真実をQ&A形式で解き明かす。

Q. なぜ今、「欠乏経済」がキーワードになっているのでしょうか?
世界経済が大きく変動する中で「欠乏経済」という言葉が注目される背景には、気候変動が後戻りできない段階にまで進んでしまった現状がある。過去5年間で世界の平均気温は年間で1.5度を超え、食料、水、土地といった不可欠な資源へのアクセスが極めて困難になり、その量が「恒常的に」欠乏する時代に突入している。

このような資源不足は国際政治の武器となり、資源を持つ国はそれを高値で売りつけ、持たない国は経済的に苦境に立たされる。特に日本は円安が進み、食料やエネルギーの輸入依存度が高いため、ガソリンや肥料などの価格高騰によって生活基盤が脅かされているのが現状だ。
Q. テクノ資本主義のエリートたちは、何を目的としているのでしょうか?
イーロン・マスクやピーター・ティールといったテックエリートたちは、技術で全ての問題を解決しようとは考えていない。彼らは気候変動によって地球が「終わり」を迎えつつあることを認識しており、自分たちエリート層が生き残るための「ノアの箱舟」を技術を使って構築しようと試みているのだ。
彼らのビジネスモデルの本質は、資源、データ、技術といったあらゆるものを独占し、それらへのアクセスに対して手数料(レント)を徴収することにある。欠乏の時代において、生き残りに必要なものを徹底的に囲い込み、富を増大させるという、新たな封建制を作り出そうとしている。これは、技術が全ての人のためのものではなく、選ばれた一部の人の生存戦略のために使われることを示している。
Q. 彼らが富を独占するのはなぜでしょうか?
彼らが富を独占する背景には「暗黒啓蒙」という思想がある。これは、資源が枯渇する現状において、万人を救済することは不可能であり、民主主義や人権といった価値は欺瞞にすぎないという冷徹な認識に基づいている。この思想では、優れたエリートが資源を管理し、支配する方が合理的だと考える。
これまでのリベラルが主張する「経済成長を通じて未来は良くなる」という楽観論は、気候変動による物理的限界を無視しており、もはや現実的ではないと彼らは見なす。そのため、自らが支配し独占する道を明確に選んでいるのだ。
Q. 「終末ファシズム」とはどのような未来を指すのでしょうか?
経済成長という右肩上がりの時代が終わり、欠乏が蔓延する中で「終末ファシズム」が台頭している。これは、資源の奪い合いから生じる「気候ファシズム」と、エリートによるデジタル技術を用いた監視・管理を進める「テクノファシズム」が融合した、新しい形のファシズムだ。具体的には、移民の排除や、AIなどを用いて人々を選別し、コントロールしようとする動きが見られる。

社会的な不安が高まる中、人々は強権的なリーダーに保護を求め、その結果「不要」とみなされる人々を切り捨てる分断と選別が正当化されてしまう。これは過去のファシズムが台頭した100年前の状況に酷似しており、現代における危機への適応として、すぐそこに迫る脅威だと斎藤氏は警鐘を鳴らす。
Q. こうした危機的状況に対して、どのような対抗策があるのでしょうか?
私たちは現在、「終末ファシズム(不平等で強権的)」、「気候毛沢東主義(平等だがトップダウン)」、「脱成長コミュニズム(平等だがボトムアップで国家規模の対応には不十分)」、「野蛮状態(混沌)」という4つの未来の選択肢に直面している。
気候危機の深刻化は、従来の「脱成長コミュニズム」だけではもはや対処できないレベルに達したと斎藤氏は指摘する。コミュニティによる助け合いだけでは不足する大規模な危機に対抗するためには、国家の力を適切に活用する「X」と呼ぶ新たな道が必要になる。
Q. 斎藤氏の提唱する「暗黒社会主義」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
前述の新たな道「X」こそが「暗黒社会主義」だ。「暗黒」とは、未来が希望に満ちたものではなく、資源の欠乏が蔓延する時代であることを直視するという意味である。そして「社会主義」とは、この厳しい未来において市場原理にすべてを委ねず、計画的に社会を運営することで、一人でも多くの人々が生き残れる道を探す思想である。

欠乏の時代に市場原理を優先すれば、利益にならない医療や食料供給よりも、儲かるタワマン建設などが優先されてしまい、社会は崩壊する。この「暗黒社会主義」では、食料、医療、エネルギーといった社会にとって不可欠な「エッセンシャルなもの」を利潤追求の原理から切り離し、社会全体で計画的に生産・分配することを目指す。これは個人の自由を否定するものではなく、危機を乗り越えるための合理的な選択であると斎藤氏は訴えている。
Q. 「計画経済」は民主的にアップデート可能なのでしょうか?
従来の「計画経済」は全体主義や非効率といったネガティブなイメージが強い。しかし、斎藤氏は資本主義こそ一部の資本家が意思決定権を握る「資本の専制」であり、真に民主的ではないと主張する。
現代においては、AIやデジタル技術の発展により、過去の計画経済が抱えていた非効率性を克服し、より効率的かつ民主的な計画が可能だ。多様な市民のニーズや現場の暗黙知をリアルタイムで反映させながら、社会が何を生産し、どのように分配すべきかを市民全体で決めていく新しい形を実現できる。
具体例としては、国が複数の5カ年計画案を提示し、国民投票によって選択するといった手法がある。また、地域での電力事業やライドシェアを、自治体、企業、市民が共同出資で運営する「市民営化」のような取り組みも既に現実のものとなっている。日本もかつては所得倍増計画など、国家的な産業計画によって成長を遂げた実績がある。これを現代版にアップデートし、社会全体のビジョンを民主的に決定していくことで、資本の独裁を打破し、全員で生き残る未来を切り開けると斎藤氏は見通す。