
オルカン一強時代が終わる?生存戦略としての資産運用【田村耕太郎】
富裕層が向かう次なる投資戦略:健康長寿、資産保全、そして「みにくいアヒルの子」北海道
経済的リターンだけを追求する時代は終焉を迎えた。世界はかつての平和と自由貿易を前提とした「オルカン(全世界株式)」一強時代から、新たな価値観が支配する時代へと突入しつつある。富裕層が注目する「健康長寿」と「資産保全」というキーワードは、変動の激しい世界経済において、自己の存在価値と資産を守るための本質的な投資対象として浮上した。
地政学リスクの高まりやサプライチェーンの再編、そして気候変動といった複合的な要因が絡み合う中、次の時代を勝ち抜く投資戦略とはどのようなものか。元参議院議員であり投資家の田村耕太郎氏が、富裕層の投資哲学からシンガポールの投資環境、さらには次なる有望投資テーマとしての北海道の可能性まで、独自の視点で深く掘り下げた。
本記事では、予測不可能な時代における賢明な資産形成のヒントをQ&A形式で解説する。

Q. 現代の富裕層は経済的リターン以外に何を重視して投資しているのか?
経済的な成功を収めた富裕層が次に目を向けるのは「死にたくない」という根源的な欲求である。彼らの関心は自己の生命を延長させる「健康長寿」への投資に移っている。自らの身体をアップグレードし、人生の時間を最大化しようとする思想が背景にある。
同時に、AIや量子コンピューターの進化が銀行口座の暗号を解読するリスクを現実のものとしつつある今日、自身の資産が翌日も存在するかという不安が富裕層の間で深刻化している。このため「資産保全」も喫緊の課題であり、従来の金融資産に加えて、安全性の高い新たな保全方法が模索されている。
Q. なぜ「オルカン」一強時代は終焉を迎えるのか?
人気の投資信託「オルカン(オール・カントリー)」は、世界が平和と自由貿易を享受することを前提に成り立っていた。しかし現代においては、国境を接する紛争や地政学リスクの常態化がその前提を崩壊させている。

世界的なサプライチェーンの分断、特定の地域の紛争による海上輸送の要所(チョークポイント)封鎖、予測不能な気候変動による自然災害の激甚化などが、従来のグローバル企業経営を困難にした。これにより、最も安い場所で生産し世界中に販売するというビジネスモデルが崩れ、分散投資としてのオルカンの優位性は失われつつある。
これからは、来るべき変化に集中したテーマ投資が有効な戦略となると指摘されている。
Q. 新時代を生き抜くための3大投資テーマとは?
第一に「防衛テック」が挙げられる。世界中で国防費が増加しており、国家予算として莫大な資金がこの分野に継続的に投入されているからだ。民生品メーカーであっても、その技術が軍事転用可能な「デュアルユース」と判断されれば、計り知れない成長が見込める。
第二は「食料生産」である。サプライチェーンの不安定化や紛争により食料安全保障の重要性が高まる中、各国は国内での食料生産を強化する動きをみせる。エネルギーと食料を自給できる国家は強力だが、そうでない国では食料確保が国家課題となり、関連産業への投資が不可避となる。
第三は富裕層の「健康長寿」への渇望に応える分野だ。人類普遍の願いである長寿への需要は衰えることがなく、この市場は不況下でも堅調な成長が見込める。これらの確実なメガトレンドを捉えた集中投資が、不確実な時代を乗り越える鍵となるだろう。
Q. なぜシンガポールは世界の投資家を惹きつけるのか?
シンガポールはキャピタルゲイン、配当、相続のすべてに税金がかからないため、世界中の投資家が殺到する。「ウォール街とシリコンバレーを足したような国」と形容されるその環境は、情報とネットワークが凝縮された世界最大の投資ハブを形成している。地理的にも日本、中国、インドといったアジア諸国に近く、イスラエルの最先端防衛テック情報までが集まる。

シンガポールの発展を支えるのは、金融業だけではない。GDPの約25%を製造業が占める産業構造は、金融への依存度が高い香港との決定的な違いであり、国家の経済的安定に寄与する。資源の乏しい小国が豊かな国家を築いたこのモデルは、中東の石油産出国家の官僚たちにとっても「脱石油」時代の成功事例として学びの対象となり、多くの国が公共政策を学びにシンガポールを訪れる状況である。
Q. 米国の一強時代は今後も継続するのか、その理由は何か?
消去法で考えるならば、今後もアメリカの一強時代は継続すると見るべきだ。食料とエネルギーを自給でき、世界最大かつ最深の金融市場と、圧倒的なテック企業群を擁する国家はアメリカ以外に存在しない。中国でさえ、食料とエネルギーの自給率が低く、地政学的脆弱性を抱えるからである。
アメリカの覇権の源泉は、宇宙空間におけるGPSの独占とAIを軍事利用する能力にある。常に実戦で兵器のテストとデータ収集を繰り返しており、その軍事任務遂行能力は他国の追随を許さない。同盟国である日本も、GPSインフラに依存し、アメリカのAIによって防衛情報が集約される現実を前に、完全な軍事的自立は極めて困難な状況にある。トランプ大統領によって拡張された大統領権限は、今後の政権においても踏襲され、アメリカの強権はさらに強化される可能性が高い。
Q. 資産保全が難しい時代、富裕層はどのような資産に注目し始めたか?
地政学リスクの高まりや国家間の摩擦が頻発する中、国家主権のあり方も流動的になっている。これにより、デジタル資産や特定の国の不動産といった金融資産の価値が変動するリスクが高まり、富裕層は現物資産への回帰を加速させている。例えば、グリーンランドが他国領になれば土地登記の有効性すら不透明になるという状況が背景にある。

銀行預金や暗号資産も国家の介入やサイバー攻撃によって価値が失われる可能性を考慮し、普遍的な価値を持ち、国家を越えて通用する金、銀、銅といった貴金属やコモディティが再評価された。また、政治的に安定し、自給能力の高い国の農地や資源など、物理的に所有可能な「安全な場所にある現物」への投資が究極の資産保全策として注目を集めている。
Q. 次の「みにくいアヒルの子」として、どのような場所が投資先として有望か?
未来を見据えた「みにくいアヒルの子」投資法とは、今は注目されていないが、将来必ず白鳥になる可能性を秘めた資産を早期に発見することだ。田村氏がこれに当てはめるのが北海道である。地球温暖化により北極海航路が開通すれば、ヨーロッパからアジアへの最短ルートが開かれ、物流の要衝はマラッカ海峡から北極海へと移行する。地球儀を見渡せば、この新たな物流の中心となるのが日本の釧路であると予測されるからだ。
シンガポールをはじめとする海外の慧眼な投資家は、すでに北海道のポテンシャルに気づき投資を開始した。北海道は食料自給率200%を誇り、広大な土地と豊かな資源を持つ。冷涼な気候は、猛暑化する世界でデータセンター冷却に適したアセットへと転じる。洋上風力発電による莫大なエネルギー供給能力もあり、南海トラフ地震のリスクも低いことから、日本の副首都としての機能移転やデータ保管拠点としても有望視される。人々が殺到する前に「空いていて綺麗なトイレ」を見つけるような先見の明が、この「みにくいアヒルの子」北海道を発見し、巨額のリターンを享受する鍵となるだろう。
