
日産の最新AI戦略。逆襲できるのか?
日産、再生から成長戦略へ!移動時間を「AIパートナー」で価値化する新ビジョン
長らく続いた「マイナスの改革」を終え、日産自動車が新たな成長戦略へと舵を切った。新たな経営計画「The Arc」は、AI、電動化、ポートフォリオ改革の三つの柱を中心に据え、過去の負の遺産から脱却し、未来へ向かう力強いメッセージを発信する。
本稿では、自動車ジャーナリストの川端由美氏による速報解説を基に、日産が描く新たなビジョンと、それが自動車産業全体にもたらすであろう影響をQ&A形式で深く掘り下げる。

Q. 日産は現在、どのような変革期にあるのか?
日産はカルロス・ゴーン元会長時代の急速な拡大路線によって肥大化した工場などのリストラを完了させた。これにより「マイナスの要素」である事業再建が一息つき、現在は成長へ向かう「ジャンプ段階」にあると言える。自動車産業は本質的に装置産業であり、工場の稼働率を高め、効率的な生産体制を確立した上で、優れた販売戦略を展開できれば利益は急激に拡大する構造を持つ。日産はまさにこの利益拡大フェーズへの移行期を迎えている。
Q. 日産の新たな経営計画「The Arc」の3つの柱とは何か?
新経営計画「The Arc」は「AI」「電動化」「ポートフォリオ改革」の三つの柱で構成される。AI戦略では、単に自動運転の技術進展だけでなく、AIを「パートナー」として位置づけ、車内の体験価値向上を目指す点が特徴だ。2030年までに9割の車種にAIを搭載し、「AIの日産」というブランディングを確立しようとしている。

電動化戦略では、世界的なEV市場の変動を背景に、EVを最終目標としつつも、現実的な中間ステップとして独自のハイブリッド技術「e-POWER」の強化を図る。ポートフォリオ改革は、車種を絞り込む一方で販売台数は維持するという「選択と集中」を進め、収益性を最大化する方針である。
Q. 「AIパートナー」による「移動時間の価値化」とは具体的にどういうことか?
現代社会において、一日の移動時間は平均約90分に及ぶとされる。日産は、この移動時間をAIの活用によって、単なる移動ではなく、生産性や楽しみのある「価値ある時間」へと変革することを目指している。例えば、車内で仕事やエンターテインメントに没頭できるような環境を提供したり、AIがユーザーの嗜好を学習し、最適な情報やサービスを提供する。この「移動時間の価値化」は、自動車を販売して終わりではなく、継続的にサービスを提供するサブスクリプションなどの新たな収益モデル(リカーリングビジネス)創出へと繋がり、事業の多角化を促進する。日産は「人生を楽しむ日産」という新たなブランドイメージを掲げ、自動車を生活のパートナーと位置づけ、単なる移動手段に留まらない「エモーショナルな価値」の提供に注力する構えだ。
Q. 日産の「AI Defined Vehicle(AIDV)」が「Software Defined Vehicle(SDV)」と異なる点は?
「Software Defined Vehicle(SDV)」は、ハードウェアをソフトウェアで制御し、機能を追加・更新する概念だ。一方、日産の提唱する「AI Defined Vehicle(AIDV)」は、そのさらに先を行くビジョンと言える。AIDVは、車載機能へのAI搭載に加えて、開発プロセスそのものにもAIを導入し、自律的にソフトウェアを開発・最適化することを指す。

これにより開発期間は大幅に短縮され、市場の要求に迅速に対応できる体制を構築する。日産は開発期間を50ヶ月から30ヶ月へと約4割短縮する目標を掲げ、これはSDVの概念を超えた「開発環境のAI化」によって実現される。この戦略により、2028年頃にはエントリーモデルにもAIパートナー機能を搭載可能となり、日本の車社会におけるAIの普及を大きく加速させる可能性を秘める。
Q. 日産のグローバル戦略、特に中国市場における独自性は何か?
他社が中国市場で苦戦する中、日産は早くから現地化戦略を推進してきたため、独自の優位性を確立している。デザインから開発までを中国現地で行える体制を構築し、現地のニーズに合致したモデルを自力で生み出す強みを持つ。これにより、中国でN7などのモデルが好調な売上を記録し、他の日本メーカーとは一線を画している。
今後は中国を単なる市場としてだけでなく、開発・生産拠点として活用し、アジア太平洋地域などへの輸出拠点としても見据える。米国市場では高級ブランド「インフィニティ」を再構築し、利益率の高いSUV車種に焦点を当て、最先端AI技術を搭載することでプレミアム層の需要を取り込む戦略を進める。これらの戦略は、地域ごとの特性と日産の強みを最大限に活かすグローバルなポートフォリオ構築を目指すものだ。
Q. 新CEOエスピノーサ氏のリーダーシップがもたらした変化とは何か?
新CEOのエスピノーサ氏は、日産でのキャリアが長く、組織の内情を熟知している。彼のリーダーシップの下、これまで縦割りだったデザイン、マーケティング、財務などの部門間の連携が飛躍的に強化された。役員同士が立場を超えて本音で議論するフラットな企業文化が醸成され、意思決定のスピード感が格段に向上している。

日産は他社の「自前主義」がまだ根強い中、早くからルノーとの提携を通じて外部連携の経験を積んできた。エスピノーサ氏はこの経験を活かし、ホンダやNVIDIAなどの企業と、必要な部分で柔軟に連携するパートナーシップ戦略を推進する。これは組織をスリム化し、リーダーに権限を集中させたことで、「人のやる気」という最大のレバレッジが最大限に活かされる好循環を生み出している。長らく苦境にあった日産社員の表情が明るくなり、士気が向上していることは、会社がようやくポジティブな未来を描けるようになった何よりの証拠だろう。このような組織風土の変革が、新戦略の成否を握る最大の鍵となろう。