PIVOT TALK SCIENCE
【宇宙にヒトは住めるのか】2040年代、人類は月面で暮らす
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2026年5月5日

人類の「宇宙への移住」が、現実のものになりつつある。国際的に進められている探査プロジェクト「アルテミス計画」とは?2040年代に目指されている月面での生活とは?サイエンスライターの林公代氏に聞いた。 <ゲスト> 林公代|サイエンスライター (財)日本宇宙少年団情報誌編集長を経て2000年からフリー...
2040年代、人類は月面で暮らす?「宇宙移住」の最前線
「宇宙に人は住めるのか?」かつてSFの世界の夢物語であったこの問いに対する答えは、既に「住んでいる」だ。国際宇宙ステーション(ISS)での人類の継続的な居住は25年以上にわたる現実。しかし、そこでの生活はあくまで任務中心であり、新鮮な食料の欠乏やプライバシーの制限など、QOL(Quality of Life)には多くの課題が残る。
宇宙開発の潮流が宇宙飛行士主導から民間主体へと移行する中で、いま、月での社会構築を見据えた「快適な」宇宙生活の実現が喫緊のテーマとして浮上している。月面基地における「食」の自給自足や「住」のQOL向上が、最新の技術と知恵でどのように解き放たれようとしているのか。最前線の動向を探る。

Q. 人は宇宙に「もう住んでいる」というが、現在の宇宙生活にどのような課題があるのか?
国際宇宙ステーション(ISS)では2000年から宇宙飛行士が滞在を続けるが、保存食中心の食事、限られたプライベート空間などQOLに多くの課題が残る。これに対し、次の目標である月面社会では、民間人の滞在も見据え、任務中心ではない快適な生活が求められる。これはアルテミス計画の一環で、月面に「社会」を築くという野心的な目標である。

大航海時代とは異なり、目標と課題が明確な今、実現の可否は技術的な困難さではなく、国家や国際社会が予算と人員を投じるという「決断」にかかっていると言えよう。
Q. 月の過酷な環境で、食料はどのように確保するのか?
月面での食料自給は滞在の持続性を左右する重要課題だ。地球からの輸送コストは1kgあたり1億~2億円に達するため、現地での自給自足が必須となる。千葉大学の「月面模擬農場」ではJAXAと連携し、日本人の成人男性を想定したレタス、トマト、イチゴ、イネ、大豆など8種類の作物の栽培研究が進められている。目標は「小型化、無人化、リサイクル」の3点に集約される。
栽培環境は、作物ごとに温度、湿度、光を精密に制御する。遺伝子編集トマトは5mから50cmに矮性化され、栄養価も向上。種から育つ「手間いらず」イチゴも開発され、受粉も機械式だ。新鮮な作物は、栄養補給だけでなく閉鎖的な環境での精神的な癒やしにも極めて重要だ。日本は辻調理師専門学校と連携し、限られた食材で60分以内に調理・片付け可能なメニュー開発も進め、QOL向上の総合的なソリューションを提供している。
Q. 月面に、どのような居住空間を築こうとしているのか?
月面居住は、放射線や激しい温度差からの防御が最優先。初期は日本の探査機「かぐや」が発見した地下空間を活用する。竹中工務店の「TSX」は、輸送コストを抑え、重機に頼らず無人建設可能な「実現性の高い」月面建築を構想。2040年代には、常時40人が滞在可能な複合施設「Lunar COSMOS」が描かれる。

これはおにぎり型のユニットを連結させ、月面のレゴリスで覆う設計だ。QOL向上のため、緑豊かな共用スペース、貴重な水を再利用する寝湯式浴室やサウナも考案。騒音や匂い対策には、5〜8人の小規模ユニット内で許容し、ユニット間は遮断する。コミュニケーション動線設計や象徴的な「ルナタワー」の無人建設も進む。これらの知恵が月面生活を快適なものに変えるだろう。
Q. 月面社会を実現する上での真の課題とは何だろうか?
月面社会実現の最大の壁は、多くが想像する技術的困難ではない。サイエンスライターの林公代氏や宇宙飛行士の油井亀美也氏も、技術的には「可能」と断言する。真の課題は、国際情勢の安定、そしてこの壮大なプロジェクトに国や国際社会がどれだけの予算と人員を投じるかの「決断」にある。

月面での水資源は、居住に不可欠なだけでなく、月や火星探査の燃料源としても期待される。たとえ現地調達が困難でも輸送コストをかければ居住は可能だが、大規模な取り組みの経済的採算性や意義を社会全体がどれだけ評価し、投資するかが最終的な鍵となるだろう。
Q. 宇宙での暮らしが地球の未来にもたらすものは何か?
宇宙開発は、単に地球外での活動に留まらず、地球自身の未来に大きな貢献をもたらす。食料危機、災害などの地球課題に対し、宇宙からの視点は新たな解決策を示唆する。例えば、月面で培われる限られた資源で食料を育てる技術や、過酷な環境で快適な住居を築く技術は、地球上の食料困難地域や災害時の仮設住宅に応用可能だ。実際、月面トマトの同品種は既に地上販売されている。
このように、宇宙を目指す過程で生み出される技術革新や知見は、私たちの地球での暮らしをより豊かで持続可能なものに変える潜在力を持つ。宇宙開発は、遠い場所での夢物語ではなく、いまここにある地球の課題を解決し、人類全体のQOL向上のための重要な投資なのだ。