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JTCでは株価は上がらない【米村吉隆】
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2026年4月13日

「株価は正しいモノサシである」—元大和証券・投資銀行部門トップの米村吉隆氏が、会社員こそ知るべき株価の本質を徹底解説。株価の公式(時価総額=利益×PER、PBR=ROE×PER)を紐解きながら、「なぜJTC(日本の伝統的大企業)では株価が上がらないのか」という構造問題に切り込む。 <ゲスト> 米村...
「株価は正しい物差し」その意味とJTC企業が学ぶべき改革の本質
株価は投資家や経営者だけのものであり、一般社員には無関係だ。また、単なる「上がるか下がるか」のマネーゲームに過ぎない――。このように考えていないだろうか? 実はそのような認識は大きな誤解だ。株価は、企業の未来と価値を正確に映し出す「崇高な物差し」である。そして、その影響は全社員、ひいては社会全体に及ぶものだ。この深い本質を理解することで、日本企業が目指すべき改革の方向性と、ビジネスパーソン一人ひとりが果たすべき役割が見えてくるだろう。

Q. 株価は単なるマネーゲームの指標に過ぎないのだろうか?投資家が長期的な視点を持つべき理由とは何か?
株価は短期的な値動きに一喜一憂する投機の対象ではなく、企業の真の価値を示す「崇高な物差し」だ。その基本公式は「株価(時価総額)=利益×PER(株価収益率)」である。PERとは、企業が現在の利益を将来にわたり何倍に増やせるかという市場の期待値を表す指標で、単なる割高・割安を示すものではない。株価は現在の利益に加えて、その企業の将来の成長期待までも織り込んで決定されていると言える。
例えば、ブリヂストンの時価総額5兆円は、現在の利益2,500億円に対し、市場が将来にわたり合計5兆円の利益を積み上げられると評価した結果である。その倍率がPERとなる。テスラの高額な時価総額も、電気自動車や自動運転技術で将来100兆円もの利益を生み出すという市場の強い期待が反映されたものであり、数字の表面的な高安だけで判断できない。

このように株価が「現在×未来」の関数であるという本質を理解すれば、目先の上下動に囚われて売買する行動がいかに投機的であるかがわかる。企業の成長ストーリーと将来性を信じ、「ガチホ(長期保有)」することが、株価の本質を捉えた真面目な投資家のあるべき姿だ。日経平均が上昇している局面でも、AIや半導体関連が牽引する一方で、コンテンツ系など「お休み中」のセクターも存在する。各セクターの状況を見極め、長期的な視点で企業の底上げを待つことが重要だ。
Q. 「株価は関係ない」という考え方が通用しなくなったのはなぜか?
かつて「株価は市場が決めるもので、経営陣には関係ない」と考える経営者や、「株価が下がっても給料は変わらないから関係ない」と捉える社員もいたが、その考え方はもはや通用しない。株価の低迷は経営の失敗を示し、放置すれば経営陣が「物言う株主」によって解任されるリスクが現実のものとなっている。
株主には二つの大きな権利がある。一つは利益分配を受ける権利、もう一つが「株主総会での投票権」である。株主総会は会社の最高意思決定機関であり、その投票権を通じて社長を含む取締役の選任・解任を行うことができる。つまり、株主は企業の経営者を「選ぶ」だけでなく、「クビにする」という非常に強力な力を持っているのだ。
この力学を背景に、経営陣は株価を常に意識した経営を求められる。社員にとっても無関係ではいられない。株主総会への参加は、経営者の姿勢やコミットメントを直接確認できる貴重な機会であり、投資判断だけでなく、自身の会社への関わり方を深めるきっかけにもなるだろう。自分の仕事が会社の株価にどう影響するかという「株主意識」を持つことは、組織全体のエンゲージメント向上に繋がり、企業の健全な成長を促す鍵となる。
Q. 伝統的な日本企業(JTC)の株価が上がりにくいのはなぜか?
JTC(Japan Traditional Company)とは、知名度と安定感は抜群であるものの、古い体質で挑戦や成長に乏しい伝統的な大企業のことを指す。現代の資本市場では、この「安定志向」が株価が上がらない決定的な要因となっている。

JTCの株価が上がりにくい理由は、「PBR=ROE×PER」という公式で説明できる。PBR(株価純資産倍率)は、株主資本(純資産)に対する時価総額の割合で、市場が将来、純資産をどれだけ増やせるかと期待しているかを示す。PBRが2倍であれば2倍、0.5倍なら半減すると見られていることになる。このPBRを高めるには、ROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)の両方を高める必要がある。
ROEは「効率的に稼ぐ力」「無駄なく資産を使う力」「適切にリスクを取る力」を示す。これは具体的に、売上高利益率、総資産回転率、財務レバレッジに分解される。JTCは一般的に、内部留保を過剰に抱え、リスクを取らない経営に傾きがちだ。これが「非効率」「無駄が多い」「リスク回避的」な経営に繋がり、ROEが低迷する。さらに、挑戦しない経営は成長期待(PER)を低下させる。結果として、PBRは低水準に留まり、構造的に株価が上がりにくい状態を生み出しているのである。
Q. JTCからの脱却に成功した企業と、困難に直面した企業から学ぶことは?
JTCからの脱却には痛みを伴う改革が必要だ。その成功事例と課題を見てみよう。
大改革でモデルとなった「日立製作所」
日立はかつて、多岐にわたる事業と22社もの上場子会社を抱える巨大コングロマリットで、「この木なんの木」のCMに象徴されるような企業イメージであった。しかし15年ほど前から、非中核事業の売却や再編を断行し、コア事業に集中する大胆な改革を進めた。この改革は外部人材ではなく、一度は出世コースを外れたと見られていた内部の重鎮たちが主導した点が特筆すべきである。その結果、日立は業績と株価を大きく成長させ、JTC改革のモデルケースとなった。
社長自ら「JTC脱却」を宣言した「レゾナック」
レゾナック(旧・昭和電工)もまた、JTCからの脱却を進める企業だ。社長自らが「昭和電工という名前がJTCを体現している」とまで公言し、社名変更を含む抜本的な事業ポートフォリオと企業文化の改革に取り組んでいる。明確な自己認識と強いリーダーシップが、改革推進の重要な原動力となっていることがわかる。
Q. 株価上昇が最もハッピーをもたらすのは誰か?その本当の意味とは?
株価が上がれば投資家や経営者が最もハッピーになるという認識は一般的だが、実は「社員」こそが最も恩恵を受ける存在だ。金銭的な側面では、①企業の業績向上に伴う給与・賞与のアップ、②社員持ち株制度などによる自社株の価値上昇、③年金資産など間接的に保有する株式市場全体の活性化による将来不安の解消という3つのメリットがある。

しかし、それ以上に重要なのが「ビジネスパーソンとしての価値向上」である。株価を上げ続ける成長企業は、株主から高い期待と信頼を得ているため、M&Aや新規事業、海外展開、研究開発、人材投資など、積極的に攻めの投資ができる。これにより、社員は他では得られないようなM&Aや新規事業といった挑戦的で難易度の高い経験を積む機会に恵まれるのだ。このような経験は個人のスキルや市場価値を飛躍的に高め、働きがいや人生の誇りに直結する。
株価を上げ続ける企業は、顧客に良い製品やサービスを提供し、多くの雇用と賃金を生み、サプライヤーに仕事を提供し、税金を納め、株主には利益を還元する。このように、あらゆるステークホルダーを豊かにする好循環の中心には、まさに社員一人ひとりの価値創造があるのだ。近年、従業員に株式報酬を付与する日本企業も増えつつあるが、社員自身が「株価を上げる主役である」という当事者意識を持つことが、企業ひいては日本経済全体の未来を創る力となるだろう。