PIVOT TALK TECH
【完全解説】シャヘドの脅威と日本のドローン戦略
(906)
6,393回視聴
2026年3月25日

シャヘドの誕生により戦争のパラダイムシフトが起きている。ウクライナで目にした「新時代の戦争」とは?日本のドローン戦略はどうあるべきなのか?テラドローンの徳重徹CEOに聞いた。 <ゲスト> 徳重 徹|Terra Drone CEO 九州大学を卒業後、アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院...
ドローンが変える戦争と日本の安全保障の未来
自爆ドローン「シャヘド」が、安価かつ大量生産され、世界中で戦争のあり方を劇的に変えつつある。その脅威はもはや対岸の火事ではなく、日本も早急な対応が求められている。
この未曽有の危機に対し、ドローン業界をリードするテラドローンのCEO、徳重徹氏はウクライナの戦場へ自ら足を運び、そこで見た現実と日本の置かれた現状、そして未来に向けた提言を熱く語る。本記事では、徳重氏の言葉を元に、ドローン戦争の核心と、日本が歩むべき安全保障戦略について探る。

Q. なぜ自爆ドローン「シャヘド」は現代の戦争を変える存在なのか?
現代戦の様相を一変させているのが、イラン製の自爆ドローン「シャヘド」である。1機あたり約500万円という安価なコスト、2000kmにも及ぶ長距離飛行能力、そして大量生産が可能である点が、この兵器の最大の脅威だ。実際にウクライナでは、月に5000機ものシャヘドが飛来していると指摘される。
シャヘドの攻撃は単なる前線での戦闘に留まらない。敵国の都市部や重要インフラを標的にすることで、人々の生活基盤を破壊し、国民の士気を低下させる「第二の戦場」を作り出す。夜間に連続して行われる無人機攻撃は、人々に慢性的な不安を与え、まさに「ぐっすり眠れる人なんていない」状況を生み出している。この“安価・ローテク・大量生産”という特徴は、これまでの兵器常識を完全に覆すゲームチェンジャーなのだ。

Q. 日本は海に囲まれているが、ドローンの脅威に対して安心できるか?
「日本は海に囲まれている島国だから、陸続きの国々とは異なり安全である」という見方は大きな誤解を生む。徳重氏は、イランからイスラエルへのドローン攻撃(約1600km)が実際に発生した事実を挙げ、シャヘドの2000kmに及ぶ航続距離が日本の地理的優位性を無力化すると警告している。
現在の日本の国民の多くが、ドローンの脅威に対する認識が不足している。戦況の進化により、従来の短距離兵器というドローンのイメージも通用しない。ドローンはもはや映画の中の存在ではなく、日本の都市もいつ攻撃対象になり得るか分からない。この認識を根本的に改めなければ、安全な未来は望めないだろう。
Q. ウクライナと日本の防衛文化にはどのような違いがあり、それが戦争の勝敗にどう影響するのか?
ウクライナの防衛体制は、スタートアップ企業のような分散型かつアジャイルな文化が特徴だ。現場の兵士からのフィードバックに基づき、兵器の開発や改良が週単位、月単位で高速に繰り返されている。これは「生きるか死ぬか」の状況がもたらす必然的な進化であり、防衛産業におけるスタートアップ文化の重要性を示している。
一方で、日本の防衛は中央集権的なトップダウン構造で、兵器開発には5〜10年もの時間を要する。現代戦の目まぐるしい変化に全く追いつけていない現状があるのだ。さらに、日本では防衛産業への参画が「レピュテーションリスク」とみなされ、大企業もその貢献を公表したがらない傾向が強い。これは欧米で防衛産業が雇用を生む誇るべき基幹産業と捉えられているのとは対照的であり、イノベーションの妨げとなっている。
Q. 「低コスト・物量」へと変化する現代戦において、シャヘドのような脅威にどう対処すべきか?
シャヘドのような安価なドローンが数多く飛来する現代戦では、1機500万円のドローンに対して数千万円から数億円のミサイルで迎撃する方法は非効率極まりない。経済的に破綻し、ミサイルの在庫も瞬く間に尽きる。これまでの「巨大で高性能な兵器」が勝利する時代は終わりを告げ、「低コストの物量」が勝敗を分けるパラダイムへと完全にシフトしたと言えよう。
シャヘドの製造工場は地下に隠され、さらに複数の拠点に分散しているため、ピンポイントでの破壊は難しい。こうした背景から、高価なレーザー兵器やマイクロ波兵器の配備もコストや設置場所の観点から非現実的だ。ウクライナでは、30万円程度の安価な「迎撃ドローン」を活用し、シャヘドを効率的に撃墜している。
電波妨害を防ぐために、ドローンに光ファイバーを繋いで数十キロメートルを飛行させる技術が生まれたように、現場では絶えず新しい技術が開発される。迎撃側も、短距離から長距離まで対応する多様な迎撃ドローン、時速185kmの通常型だけでなく時速400km以上のジェットエンジン搭載型シャヘドに対抗する高速迎撃ドローンの開発が必要だ。また、無人ボートを沖合に展開し、そこからドローンを発進させる「無人空母」のような運用も登場しており、この進化のスピードについていく必要がある。
Q. テラドローンが防衛産業に本格参入を決めた背景と、そのミッションとは何か?
テラドローンの徳重CEOは、何度も命の危険を冒してウクライナに渡航し、現地での信頼を築き上げた。空襲警報が鳴り響く中、毎月現地を訪れることで、「復興後ではなく“今”来てくれる人を信用する」というウクライナの人々の真実を体験。他国の企業が手に入れられない深い情報とネットワークを獲得した。

そこで徳重氏が目の当たりにしたのは、日本の防衛システムがいかに現代戦の脅威に対して無力かという現実だった。「このままでは日本の国家安全保障が本当に危うい」という強烈な危機感と、「誰もこの分野で戦える会社がないなら、自分たちがやらなければならない」という強い使命感から、テラドローンは防衛産業への本格参入を決意した。これは単なる事業機会の追求ではなく、同社が存在する意義そのものを賭けた、日本の未来をかけた決断と言える。
Q. 国防を強化するために、日本と日本人が変えるべき意識や文化は何か?
「自分の国は自分で守る」という気概を持つことが、日本にとって不可欠である。現状の日本では、防衛産業への関与が「レピュテーションリスク」とみなされ、隠される傾向にある。しかし、欧米では防衛産業は自動車産業のように雇用を生み、経済を牽引する誇るべき基幹産業と認識されている。この意識のギャップこそが、日本の安全保障上の最大の弱点の一つだ。

また、インターネットやGPS、電子レンジなど、多くの画期的な民生技術が防衛研究から生まれている事実も重要である(デュアルユース)。防衛産業を育成することは、安全保障の強化だけでなく、新たな産業やイノベーション創出に繋がるというポジティブな側面をもっと認識する必要がある。
徳重氏は、ポーランドで「安価なドローンに高価なF-35戦闘機を使うのはコストパフォーマンスが合わない」と政府を批判する国民の議論を例に挙げ、国民が高い意識で国防に「自分ごと」として関わっている現状を指摘する。日本の「平和ボケ」は深刻な課題であり、もし現実にドローンによる「黒船」が来航する前に、国民全体の意識レベルを変革し、国防の当事者意識を高める必要がある。

Q. ドローン産業の未来を担うにはどのような人材が必要か?
これからの防衛産業、特にドローン、AI、サイバーセキュリティといった新領域においては、従来の固定観念にとらわれず、変化に俊敏に対応できる「アジャイルな発想」を持った人材が不可欠だ。従来の日本の硬直的な社会とは真逆の思考を持ち、困難な課題を楽しみながら解決していける柔軟な若い力が求められている。
技術的な側面では、高度なエンジニアリングスキル、特にAI分野の専門知識が重要となる。日本の得意とする量産技術と組み合わせることで、ドローン開発における国際競争力を高められるだろう。また、AI分野での遅れを挽回するため、海外の先端技術を持つ企業との提携や買収も積極的に視野に入れるべきだ。テラドローンは、米国の「アンドリル」のような、伝統的な大企業を凌駕する存在を目指し、日本の防衛ドローン市場を牽引することで、世界で戦えるメガベンチャーとなることを目標としている。