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宗教とアメリカ政治
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2026年3月26日

米国政治を左右する宗教勢力の変遷を分析。カトリックの台頭やトランプ政権を支える福音派の動向、メガチャーチの隆盛など、米国の「今」を読み解く。 <ゲスト> 松本佐保|日本大学 国際関係学部教授 聖心女子大卒。慶應大学院修士。英ウォーリック大で博士号取得。バチカン機密文書館で教皇研究。名古屋市立大教授...
揺れるアメリカの政治潮流:福音派、マカ・カトリック、共同体主義の再評価
アメリカの政治は常に多様な要素に影響されてきたが、近年、宗教がその動向を決定づける重要なファクターとして、その存在感をかつてなく強めている。
トランプ政権の登場以来、福音派キリスト教徒が持つ強大な政治力は広く知られるようになったが、保守的なカトリック教徒の台頭や、人口動態の変化に伴う新たな支持層の動向など、その内実は極めて複雑かつ多層的だ。
本稿では、こうしたアメリカにおける宗教と政治の密接な関係をQ&A形式で解き明かし、ビジネスリーダーが国際社会を理解する上で不可欠な教養として宗教が持つ意味について考察する。

Q. なぜアメリカ政治において宗教の存在感が強まっているのか?
アメリカ社会の人口動態は劇的に変化しており、ヒスパニック系人口の増加により、従来の白人アングロサクソンがまもなくマイノリティとなる状況が生まれている。
この変化は宗教勢力に大きな影響を与え、結果として政治と宗教の結びつきをさらに強固にしている。例えば、2020年大統領選挙前のトランプ暗殺未遂事件は、多くの福音派やカトリック保守層の間で彼を「神に救われた者」として神格化する動きを生んだ。

さらに、第二次トランプ政権下では大統領直轄の「信仰局」が設置され、宗教が政策決定に直接関与する仕組みが制度化されている。こうした動きは、人々が変動の時代の中で、宗教にアイデンティティや共同体意識の源泉を求める傾向が強まっていることの表れだ。
Q. トランプ支持層はなぜ「福音派」と「マカ・カトリック」を中核とするのか?
トランプ政権を支える強力な支持基盤は、一般的に知られるプロテスタント福音派だけでなく、「マカ・カトリック」と呼ばれる保守的なカトリック教徒にも拡大している。これら二つの勢力は、中絶反対、伝統的な家族観の重視といった多くの保守的な価値観を共有している点で結束が強い。
興味深いことに、ワシントンで最大級の政治資金を集めるロビー団体「米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の主な資金源は、アメリカの全人口のわずか2%に過ぎないユダヤ系アメリカ人ではなく、「ユダヤ・キリスト教」という独特の連帯感を抱く福音派からの巨額の寄付だ。この事実は、福音派が持つ絶大な政治的影響力を如実に示していると言える。
トランプ政権において、副大統領のペンスや国務長官のポンペオといった要職にカトリック教徒が就いていることも、福音派とカトリックが宗派を超えて連携し、強力な政治勢力として機能している現実を裏付けるものだ。
Q. 伝統的に民主党を支持してきたヒスパニック層はなぜトランプを支持するようになったのか?
アメリカ社会における劇的な人口動態の変化、特にヒスパニック系人口の急速な増加は、これまで民主党の強固な支持基盤とされてきたヒスパニック層、中でも男性有権者の間で地殻変動を引き起こしている。
彼らの票が共和党、すなわちトランプへの支持に流れるという異変が生じているのだ。この現象の背景には、民主党が推進するLGBTQの権利擁護など、一部のリベラルな価値観に対する根強い反発がある。
ヒスパニック層は白人アメリカ人以上に、中絶反対や男女間の結婚といった「伝統的な家族観」を重んじる保守的な価値観を強く持っている傾向がある。トランプの主張が、まさに彼らのこうした揺るぎない価値観と深く共鳴した結果、伝統的なものが「しっくりくる」と感じるヒスパニック層がトランプを支持するようになったと考えられる。
Q. 「リベラリズムの失敗」がカトリックの「共同体主義」再評価につながる理由は何か?
現代社会において、プロテスタントに深く根差した個人主義や自由競争を重んじる思想は、その限界に直面していると見られている。この思想的な転換は、テック業界の著名な投資家ピーター・ティールや、彼の弟子でありトランプ政権の要人でもあるJ.D.バンス副大統領といった影響力のある人物にも見られ、彼らはカトリックの思想から強い影響を受けている。

パトリック・デニーンの著書『リベラリズムの失敗』は、この思想的潮流を象徴するものだ。プロテスタントが個人の自由と競争の追求に重きを置く傾向にあるのに対し、カトリックは「共同体」を重視し、その中で個々の役割分担を前提とする「共同体主義」を特徴とする。
アメリカの建国理念とされる行き過ぎた平等主義は、結果的に個人の能力や役割といった本質的な差異を否定する状況を生んだという批判がある。そのため、人々は法の前の平等は当然のこととしつつも、神から与えられた役割という秩序を内包するカトリック的な世界観に、現代社会における新たな秩序と共同体への帰属意識を見出そうとしている。
Q. グローバルビジネスのリーダーが宗教を学ぶべき理由とは何か?
宗教は、世界中の多くの国や地域において、人々のアイデンティティ、文化、そして日々の風俗習慣の根源をなしている。
グローバルなビジネスに携わる日本のリーダーは、国内とは異なる海外のビジネスパートナーや従業員の価値観、行動原理を理解するために、宗教に関する基礎知識を持つことが不可欠だ。

例えば、キリスト教の宗派間の違い、イスラム教、ヒンドゥー教といった主要な宗教について深く理解することは、相手の思考様式やマナー、コミュニケーションスタイルを適切に把握する助けとなる。
これにより、ビジネス上の関係構築において単なる形式的な付き合いに留まらず、相手への真の配慮を示すことが可能となり、深い信頼関係を築くことができる。宗教に対する教養は、グローバル競争が激化する現代において、ビジネスを円滑に進め、成功へと導くための強力な武器となるだろう。