ビジネス虎の巻
AI時代のリーダーシップ論【一條和生×細田高広】
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2026年3月9日

AIによって答えが一瞬で出る現代は問いを生み出す力が重要?正解を出す人の価値が無くなる?AI時代のリーダーシップ論をテーマにIMDビジネススクール教授の一條和生氏とTBWA\HAKUHODO CCOの細田高広氏に聞いた。 <ゲスト> 一條和生|IMDビジネススクール教授 - 一橋大学大学院社会学研...
AI時代における「自分らしいリーダーシップ」とは?問いの力を武器にする新しい働き方
人工知能(AI)の急速な進化がビジネスと社会のあり方を大きく変革している現代において、専門スキルだけでは個人の価値を測ることが難しくなってきた。
この変革の時代に真に重要となるのが「リーダーシップ」である。
しかし、多くの人がリーダーシップについて誤った認識を持っている場合が多い。果たして、AIが瞬時に答えを導き出す世界で、私たちはどのように自分らしいリーダーシップを発揮し、新しい価値を創造していくべきか。
本稿では、スイスの名門ビジネススクールIMD教授の一條和夫氏と、TBWA博報堂チーフクリエイティブオフィサーの細田高弘氏の議論を基に、AI時代のリーダーシップの本質、そしてその見つけ方について深掘りする。

Q. AI時代において、なぜ「リーダーシップ」が以前にも増して重要となるのか?
AIの能力向上により、一人の個人が数千人規模の専門家チームを動かすのと同等のタスクをこなせる時代が到来した。例えば、様々なジャンルの最高水準の知識をAIを通じて自在に活用できる状況を想像してみてほしい。このような環境では、個々の専門性やスキルの重要性が相対的に低下する。その結果、何を実現したいのか、何を目指すべきかといった「問い」を設定し、AIという強力なツールを駆使してビジョンへと導く力が、唯一無二の価値を持つスキルとなる。この進むべき方向を定める力こそがリーダーシップであると定義できる。

また、AIは既存のデータの分析に基づいた最適な「答え」を瞬時に導き出すことは得意である。だが、そこには前例やデータが存在しない領域を切り拓く創造性、すなわち「問い」そのものを生み出す力は備わっていない。全員が同じ答えに辿り着ける時代に、どのような新しい「問い」を設定できるか、そこからどう進んでいくかという「組織を率いる意志決定」こそが、リーダーシップの真骨頂なのだ。
Q. リーダーシップに対して多くの人が抱く「誤解」とは何で、その本質的な定義は何か?
多くの人々が、リーダーシップと聞くと、強い個性で集団を統率する政治家やカリスマ性のある著名人を思い浮かべる。しかし、このような特定の「成功モデル」を模倣しようとすることは、リーダーシップ論における最も大きな誤解であると一條教授は指摘する。

本質的にリーダーシップとは、高橋市長のような強さ、あるいは大谷選手のような行動による模範というように、特定の誰かに「ぴったりの」スタイルを発揮することであり、その方法は多様に存在するという。真に重要なのは、自分ではない誰かになろうとすることではなく、自身の価値観や個性に根差した「自分らしい」リーダーシップのスタイルを見つけ、それを発揮することだ。つまり、自分らしく最高の生き方をすることが、そのままリーダーシップを発揮することに繋がるのだ。
「リーダーとはこうあるべき」という固定観念にとらわれると、「自分にはリーダーシップがない」と感じてしまうだろう。だが、正しさを追い求めるのではなく、自分らしさを追求すること。そこにこそ真のリーダーシップが存在するのである。
Q. AIが即座に答えを出せる時代に、人間にとっての「問い」の重要性とは何か?
AIが膨大な情報を解析し、既存のパターンから最適な「答え」を生成できるようになった今、「答えを出す」ことの価値は急速に低下している。もはや「答え」はコモディティであり、誰でも手に入れられるようになった。
このような状況で人間の価値となるのが、「問い」を立てる力である。例えばNetflixは、創業者がレンタルDVDの延滞料金に苛立ち「なぜ定額制ではないのか?」と問うたことから始まった。この根源的な問いが、ビデオレンタル事業に革命を起こし、現在のストリーミングサービスの基盤を築いたのである。これは、誰もが不便と感じつつも放置していた問題に光を当て、具体的な「問い」に昇華させた結果だ。新たな価値創造や産業の発展は、既存の枠組みを疑い、独創的な「問い」を生み出すところから始まる。自分らしい生き方を見つける上でも、独自の「問い」を立てる能力は不可欠となるだろう。
Q. 自分らしいリーダーシップを見つけ、その力を育むための具体的なアプローチとはどのようなものか?
自分らしいリーダーシップを見つける第一歩は「自分自身を発見すること」、つまり“Discover yourself”である。そのためには、自身の人生を深く振り返ることが不可欠だ。
過去の経験から「なぜ自分はこれが好きなのか」「何を正しいと考えるのか」「何を大切にしているのか」を掘り下げ、自身の行動や思考の根源にある「判断軸」を明確にする必要がある。これは、書籍『16歳からのリーダーシップ』でも強調されている点である。
仕事におけるタスク管理においても、「やりたいか」「できるか」の二軸でタスクを四つの象限に分類し、エネルギーを最適化することが有効だ。
やりたくてできること: 自ら率先してリードする。
やりたいができないこと: 仲間を巻き込み、助けを借りながら実現を目指す。
できるがやりたくないこと: 仕組み化したり、得意な人に委任する。
やりたくなくてできないこと: 勇気を持って手放す決断をする。
この仕分けを通じて、自身の「ウィル」(will:意志)から行動を開始し、自分ならではの「らしさ」を発揮する機会を最大化できるだろう。
Q. 日常の「悩み」を新しい行動に繋がる「問い」へと転換するにはどうすれば良いか?
多くの人が抱える「悩み」は、往々にして人を立ち止まらせる思考だ。「将来どうしよう」という漠然とした不安が、具体的な行動への障壁となる場合がある。しかし、これを「問い」に変えることで、未来へ進む原動力となる。例えば、「将来のどの不安が解消されれば、自分は一歩踏み出せるだろうか?」という問いは、悩みを具体的に解明し、解決策を導くための思考に変換する。この視点の転換こそが重要だ。
良質な問いを生み出す源泉は、個人の強い感情である。
「好き」(偏愛)、「嫌い」、「興味」、「怒り」など、日常生活で感じる心の動きはすべて問いの出発点となり得る。たとえば、休日の混雑する駅で「なぜこんなに非効率な人の流れになっているのか?」と感じる怒りやモヤモヤは、サービス改善への問いに繋がり、新たなビジネスチャンスの源となるかもしれない。重要なのは、これらの感情を単なる不満で終わらせず、自らの問題として捉え、「なぜこうなっているのだろう?どうすれば変えられるだろう?」と積極的に問う姿勢である。無関心ゾーンをなくし、自身にとっての意味を見出すことこそが、問いの創出、そしてリーダーシップ発揮への道を開く。
Q. リーダーシップが単なるビジネススキルに留まらず、「生き方」そのものとまで言われるのはなぜか?
リーダーシップは、役職や肩書きに紐づくものではない。剣道部の部長や生徒会長といった公式な役割だけがリーダーシップを発揮する場ではないのだ。一條教授と細田氏は、まず自分自身をリードし、自身の望む方向に導く「セルフ・リーダーシップ」の重要性を説く。

会社や組織において「誰かの上に立つ」存在でなくとも、自分の中から湧き出る「これをやりたい」という意志(Will)に基づき一歩前に踏み出す勇気、その行動そのものがリーダーシップの始まりである。まさに大谷翔平選手がWBCで「憧れるのはやめましょう」と発した言葉は、役職やキャプテンという立場を超え、チームの意識を変えたリーダーシップの典型例である。彼はその場の感情に流されず、チームの勝利という未来のために自らが旗を振り、仲間を鼓舞した。このように、リーダーシップとは、自己の目的と社会の要請が重なる点を見出し、自ら率先して行動することで、他者に良い影響を与え、新たな未来を切り拓く生き方そのものなのである。自分の「好き」を突き詰めること、自身の「判断軸」に従い選択すること。それら全てが、個人を最高に輝かせ、社会にも貢献するリーダーシップに他ならない。それはすなわち、豊かな生きがいを見つけ出すプロセスとも深く結びついているのだ。