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デンソーがロームに買収提案
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2026年3月6日

デンソーによるローム買収提案。日本のパワー半導体業界再編となるのか?東芝との今後、中国SiCの脅威、そして「共倒れ」リスクについても、グロスバーグ・大山聡氏が速報解説。 ▼収録日:3月6日17:30 <ゲスト> 大山聡|グロスバーグ代表 慶應大院修了後、1985年東京エレクトロン入社。外資系証券...
デンソー・ロームTOBは“貧乏くじ”なのか?アナリストが語る中国リスクと日本半導体の活路
自動車部品大手のデンソーが、パワー半導体メーカーのロームに対し株式公開買付(TOB)を提案した。すでに戦略的パートナー関係にあった両社の間でのこの急展開は、アナリストの間でも「本当にびっくりした」という驚きをもって受け止められた。提携からわずか20ヶ月という異例のスピードで、関係は一気に買収へと傾いている。
この買収劇は、半導体の内製化や日本産業の競争力強化に繋がるとのポジティブな見方がある一方で、40年以上にわたり業界を見続けてきたアナリストの大山悟氏は、このTOB提案に対し非常に懐疑的な見解を示している。特にロームにとって「残念なニュース」であり、デンソーにとっても極めてリスクを高める判断であるという。果たして、この買収にはどのような裏側があり、どのような影響が及ぶのだろうか。

Q. デンソーがロームにTOBを提案したニュースは、どのような経緯で報じられましたか?
今回デンソーがロームにTOBを提案したニュースは、長年の業界アナリストにとっても全く予想外の出来事であった。なぜなら、デンソーとロームは以前から株式5%規模を相互に保有し、「戦略的パートナー」としての関係を築いていたからである。両社は提携関係を通じて良好な協業関係にあると認識されていた。
この関係は、ロームが自動車向け事業の比率を売り上げの約半分まで高め、特にSiC(炭化ケイ素)を中心とするパワー半導体事業を強化し、電動車のキーデバイス供給を積極的に進めていた背景がある。一方、国内最大のティアワンであるデンソーは、トヨタなどの自動車メーカーへ供給するため、ロームからSiCを調達するというwin-winの関係を構築していた。しかし、この協力関係が提携からわずか20ヶ月足らずで買収へと進んだことは、異例のスピード展開であったと指摘されている。
Q. 一般的な見方として、今回のTOB提案にはどのような期待が寄せられていますか?
識者のコメントや世間の一般的な見方としては、このTOBに対しポジティブな期待が多数寄せられている。主なものとして、半導体の設計から製造、車載システムへの統合までをデンソーが「垂直統合」で完結させることにより、その競争力向上に繋がるという点がある。電動化が進む自動車業界において、SiCパワー半導体は欠かせない基幹部品であり、そのサプライチェーンを安定させることが企業の優位性に直結すると考えられているためである。
また、中国との競争で後れを取っているとされる日本の半導体業界にとって、今回の統合は象徴的な再編となり、そのランキング回復やプレゼンス向上に繋がるのではないかという見方もある。厳しい国際競争下において、国内企業が結集し力を高めることへの期待感の表れといえるだろう。
Q. アナリストはロームにとって、今回の買収をなぜ「残念なニュース」と評価するのでしょうか?
大山氏はこのTOBを「非常にネガティブで残念なニュース」と評している。その最大の理由は、ロームの事業価値が大きく毀損する危険性にあると説明している。ロームがデンソー傘下に入ってしまうと、半導体メーカーとしての「顧客中立性」が失われるためである。
例えば、デンソーの競合にあたる海外の大手ティアワン企業(例: ボッシュ)は、デンソーグループの企業から部品を調達することを躊躇すると予想される。これにより、ロームが現在獲得しているトヨタ系以外の車載市場における顧客(全体の約半分を占める)を失う可能性がある。また、自動車以外の産業機器向けに積極的に展開しているビジネスにも制限がかかることを懸念している。
さらに、今回のTOBはロームがこれまで進めてきた東芝とのパワー半導体事業統合の話し合いを破談に追い込む口実を与える可能性も指摘されている。東芝は、非公式ながらこの統合に必ずしもポジティブではなかったとされており、デンソー傘下入りを理由に提携を拒否する「渡りに船」になると大山氏は見ている。ロームにとって顧客と成長機会を同時に失い、パートナーシップも損なうリスクは極めて高いという。これほどのデメリットがあるにもかかわらず、ローム側が抵抗の姿勢を見せないことは、アナリストにとって不可解な点として情報公開されていない深層での動きがある可能性も示唆している。

Q. デンソー側にも、この買収によって背負うことになる大きなリスクがあるのでしょうか?
デンソーはSiC半導体の安定確保を狙っていると見られるが、この買収はデンソーにも「中国リスク」を丸ごと背負い込ませる可能性が高いと指摘されている。現在のSiC市場では、中国政府の巨額な補助金を受けた中国勢が凄まじい勢いで力をつけ、台頭しているからである。SiCウェハーの世界的な供給能力の大部分を中国勢が占めるとも言われ、彼らがやがて本格的な価格攻勢を仕掛けてくるのは時間の問題とされている。
これは過去のリチウムイオン電池市場や太陽光パネル市場で起きたことと同様である。リチウムイオン電池は中国政府の補助金によって10年間で価格が90%下落し、日米欧の多くのメーカーが市場から撤退した経緯がある。太陽光パネルも同様の道をたどった。中国政府による強大な財政的サポートは、自由競争の枠を超えた価格競争を引き起こし、いかに高い技術力や「根性」があっても、民間企業単独では太刀打ちできない「不公平な」競争環境を生み出すのである。
デンソーがロームを子会社化するということは、ユーザーとして安価な中国製SiCを選択するという自由を事実上失い、ロームが将来的に直面する市場リスク(中国勢による価格破壊)をデンソー自身が背負い込むことになる。デンソーの経営陣がこのような中国市場の脅威を理解していないはずはなく、アナリストは「なぜこのタイミングでリスクを高める決断をしたのか理解に苦しむ」と語っている。実際にTOB発表後、デンソーの株価が下落したことも、市場がこのリスクを正しく評価した結果として納得感があるという。

Q. この買収劇から、日本企業はどのような活路を見出すべきでしょうか?
中国の国家戦略的なアプローチによる価格攻勢に対し、デンソーとロームの2社統合だけで対抗するのは全く不十分である。アナリストは、日本の半導体産業が活路を見出すには、より大きな枠組み、すなわち日米欧が連携した「エコシステム」の構築が必要だと主張する。経済安全保障の観点から、中国からのSiCを締め出すようなサプライチェーン網を多国間で築き、不公平な価格競争に対抗する青写真を早急に描き実行しなければ、この2社は「貧乏くじ」を引かされることになりかねない。企業単体の力だけでは、国家間の経済戦争に勝ち抜くことは困難である。
最後に、大山氏は皮肉を込めて「このTOBで唯一喜んでいるのは東芝ではないか」と語っている。前述の通り、東芝社内にはロームとの事業統合に反対する意見が根強かったとされる。今回のデンソーによるTOBは、東芝にとってロームとの望まない統合話を正式に断る「絶好の口実」となるからだ。東芝が今回のTOBを有利に活用し、自社の再編を進める可能性は十分にある。
今回の買収劇の真意、特にロームが抵抗姿勢を見せない背景には、まだ表に出ていない水面下の動きや深い思惑があるのかもしれない。アナリストは現時点の情報だけでは全容を把握できず「見た瞬間に頭を抱えた」「まずいぞ」という思いが先行すると述べている。この買収が実際にどのように進展し、最終的にどのような結末を迎えるのか、さらなる続報と詳細な情報開示が待たれるところである。