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イラン情勢:湾岸アラブ諸国参戦の可能性
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2026年3月5日

イラン情勢悪化で、サウジやUAEら湾岸諸国(GCC)がはどう対応するのか。イランとアメリカとの関係の狭間で揺れる湾岸の歴史を解説。参戦への「レッドライン」はどこにあるのか。 <ゲスト> 石黒大岳|アジア経済研究所 博士(学術)。専門は比較政治学、中東現代政治(湾岸アラブ諸国)。主な著書に『アラブ君...
イラン情勢激化で揺れる湾岸諸国: 地政学的緊張の背景と今後のシナリオ
中東地域の情勢は再び緊迫している。イランとアメリカ・イスラエル間の対立が激化するなか、その間に挟まれる湾岸アラブ諸国の動向は、地域の安定だけでなく、世界のエネルギー供給や経済にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
湾岸諸国はイランを脅威とみなし、長年アメリカを安全保障上の後ろ盾としてきたが、彼らは本当に紛争に巻き込まれるのか?そして、もし巻き込まれるとしたら、何がその引き金となるのだろうか?
アジア経済研究所で湾岸アラブ諸国を研究する石黒大岳氏への取材を通し、湾岸諸国の複雑な立ち位置、イランとの関係性の歴史、そして今後の見通しをQ&A形式で深く掘り下げる。

Q. 湾岸アラブ諸国とは具体的に何を指し、イランとの関係はどう異なるのか?
湾岸アラブ諸国とは、アラビア半島に位置する6カ国を指す。具体的には、サウジアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、オマーンの各国である。これらの国々は「湾岸協力会議(GCC)」という地域共同体を形成し、経済・政治・安全保障の面で協力体制を敷いている。

イランも同じイスラム圏の国であるが、宗派(イランはシーア派が主、湾岸諸国はスンニ派が主)と体制が根本的に異なる。イランは革命後のイスラム共和制であり、長らく反米姿勢を貫いてきた。これに対し湾岸諸国は君主制を維持し、アメリカとの強固な同盟関係を通じて自国の安全保障を確立している点で、その立場は決定的に違う。
Q. イランと湾岸アラブ諸国の対立構造はどのようにして形成されたのか?
現在の対立構造の原点は、1979年のイラン革命にある。革命以前、イランはパフレヴィー朝の王政であり、湾岸諸国と同様に親米国家であった。地域はソビエト連邦を含む「東側」への防波堤として機能し、イランとサウジアラビアはアメリカからの後押しを受けていたのだ。
しかしイラン革命後、イスラム共和体制に移行したイランは「革命の輸出」を掲げ、イスラム体制のあり方を近隣国に広めようとした。特に海を挟んだ湾岸アラブ諸国の君主制国家に対して「打倒すべき対象」と公言したため、湾岸諸国はこれを深刻な脅威と受け止めた。
このイランの脅威に対抗するため、GCCが結成され、加盟国はアメリカを強力な後ろ盾とすることで共通の安全保障体制を築いた。湾岸戦争やイラク戦争を経てアメリカの存在感はさらに増し、イランが反米を強める一方で、湾岸諸国は親米路線を堅持し、その対立構造は固定化されたといえる。
Q. 現在、湾岸アラブ諸国がイランに対して抱いている具体的な脅威は何か?
湾岸諸国がイランに対し抱く脅威は主に二点に集約される。一点目はイランの核開発への懸念だ。核兵器の保有や開発能力向上は、地域のパワーバランスを著しく不安定化させるものとして強く警戒されている。核兵器開発に関する動きが進むたびに、湾岸諸国はイランへの脅威意識を増大させているのだ。
二点目は、イランの影響下にある代理勢力の存在である。レバノンのヒズブッラー(ヒズボラ)やイエメンのフーシ派に代表されるこれらの組織は、各国内で活動し、有事の際にイランの意向を受けて工作活動を行う「スリーパーセル」として機能する可能性がある。実際、湾岸諸国では数年おきに武器を隠し持っていた勢力が摘発される事態も発生しており、これが国内の潜在的な脅威に対する認識を一層高めている。こうした代理勢力が自国内に入り込んでいるかもしれないという疑念は、湾岸諸国の安全保障に対する切迫した課題となっている。
Q. 緊迫化するイラン情勢下で、湾岸アラブ諸国の人々の暮らしや現地の雰囲気はどのような状況か?
イランとアメリカ・イスラエルの対立が深まるなか、湾岸諸国の現地では緊張感が急速に高まっている。当初は、米軍基地への限定的な攻撃であるとの見方から比較的冷静な反応が多かった。しかし、その後攻撃の範囲と密度が拡大し、迎撃ミサイルの破片が住宅街に落下するなどの事態が発生したことで、住民の間で動揺が広がっている。現地はもはや安全とは言い難い状況へ変化しつつある。
空路においては主要空港の閉鎖が相次ぎ、海上ではホルムズ海峡の封鎖により人やモノの移動が困難な状況にある。この身動きの取れない閉塞感が、経済活動や市民生活に大きな圧迫を与え、状況は悪化の一途を辿るばかりだ。事態が改善する兆しは見えず、現状はイランとアメリカ・湾岸側の間で互いの能力と持久力を測り合う「我慢比べ」の様相を呈しており、長期化への懸念が強い。今後の渡航判断については、エミレーツ航空やカタール航空など、現地の主要航空会社が運航再開にどのような見通しを示すかが一つの重要な目安となるだろう。
Q. 湾岸アラブ諸国は今回のイラン情勢において、紛争に参戦する可能性はあるのか?
湾岸諸国が紛争に積極的に参戦する可能性は低い。主な要因としては、地域のリーダー格であるサウジアラビアと、イスラエルとの国交を正常化しているUAEの動向が挙げられるが、これら主要国でさえ、直接的な参戦には非常に慎重な姿勢を見せている。

最大の心理的障壁は、イスラエルと同じ土俵で共同作戦を行うことへの強い抵抗感だ。アラブ諸国として、長年の対立関係にあるイスラエルと協調してイランと戦うことには、国民感情や政治的信義の面で大きな抵抗が伴う。
また、一度紛争に参戦した場合、どのようにして決着をつけるのかという「出口戦略」が見えない点も、参戦を躊躇させる要因である。終結の見通しが立たない軍事行動は、自国をより深い困難に陥れるリスクを孕んでいるため、容易に踏み切ることはできないのが実情である。
Q. もし湾岸諸国が参戦するとしたら、どのような状況が引き金になるのか?また、主体的に動けない背景とは?
湾岸諸国が参戦に踏み切る際の「分水嶺」となりうるのは、自国のエネルギーインフラ、特に石油関連施設への甚大な被害が発生した場合である。現状、イランは意図的に大規模な被害を避けており、攻撃の対象や規模をコントロールすることで「暗黙のメッセージ」を発している可能性も指摘されている。お互いがそのメッセージを正確に読み取れれば、全面的な破局は回避されるかもしれない。
しかし、国民生活に直接的な影響が及ぶような深刻なダメージが出た場合、国内世論が硬化し、政府は国民の不満を背景に、何らかの軍事行動を取らざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。サウジアラビアのムハンマド皇太子が、自国への攻撃を「レッドライン」と示した発言は、こうしたシナリオの一端を窺わせる。
しかし全体として、湾岸諸国は現在、アメリカとイランという大国間の綱引きの間に挟まれており、自らが主体的に事態を動かす立場にはない。米イランの動向を見極めながら、自国の被害状況に応じて受動的に対応していくことが、現状の彼らにとって最も現実的な選択肢である。