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役職定年は必要悪【藤井薫】
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2026年3月7日

「2025年、65歳までの雇用完全義務化」というニュースの裏で、企業現場では何が起きているのか。パーソル総合研究所の上席主任研究員・藤井薫氏が、膨大なデータから導き出した「50代・60代キャリアの残酷な真実」を明かす。 <ゲスト> 藤井薫|パーソル総合研究所 上席主任研究員 電機メーカーの人事・経...
「定年」が消える時代:50代からのキャリア戦略を徹底解剖
定年が「引退」ではなくなり、50代以降のキャリアは複雑化している。
人生100年時代を迎える日本社会では、多くのビジネスパーソンが60歳を過ぎても働き続ける現実がある。
しかし、その現実は「長く働ける」というポジティブな側面ばかりではない。
企業側からのシニア人材への認識、給与の大幅な減少、役職定年制度の実態など、データは時に厳しい現実を突きつける。
本記事は、こうした誤解や幻想を排し、50代からのキャリア戦略をいかに再構築すべきかについて、データに基づいて解剖する。あなたの今後の働き方を考える上で、この情報が確かな指針となるだろう。

Q. 定年延長は労働者の選択なのか、それとも「働かざるを得ない」現実なのだろうか?
65歳までの雇用が完全義務化され、さらには70歳までの雇用延長も視野に入っている。これにより、かつては60歳で引退を意味した定年は形骸化しつつあるのが現状だ。
実際に、世間一般の60代の就業率は高いものの、注目すべきは「正社員経験者」に限定した場合の数値である。パーソル総合研究所の調査によると、元正社員だった人に限れば、60代前半で約96%、60代後半でも約89%と、ほとんどの人が働き続けている。もはや60歳で会社を去るという選択は、一部の人にしか許されない贅沢なのかもしれない。

働き続ける主な理由は「生計維持」だ。年金支給開始年齢が65歳に引き上げられたことに起因し、この5年間、あるいはそれ以上の期間の生活費を補うために、多くのシニア層が働き続けることを余儀なくされているのが現実である。企業も国の要請に応える形で雇用延長に踏み切った側面が大きく、積極的なシニア活用策とは異なる場合も少なくない。「楽隠居」は遠い過去の夢となり、自身のキャリアを主体的に再設計する必要性が増している。
Q. 60歳を迎えた社員の給与は平均3割減が都市伝説ではなく、現実なのだろうか?
60歳定年後も働き続けるシニア層にとって、給与水準の変化は最も懸念される問題の一つだ。これは都市伝説などではなく、明確なデータがその現実を示している。
パーソル総合研究所の調査によると、60歳を境に給与は平均で約28%もダウンする。定年延長に伴い賃金カーブが描き直されるものの、かつてと比べ大幅な収入減を避けられない状況である。
給与の下げ幅は、企業が50代社員をどのように認識しているかによって大きく左右される実態がある。自社の50代社員を「過剰」と認識する企業では、給与が平均で40%も削減される事例が報告されている。一方、「適正」と見る企業では21%減に留まる。この倍近い差は、個人の貢献度だけでなく、会社の人員構成に対する見方が直接処遇に影響することを物語る。

このような大幅な給与ダウンは、当然ながら社員のモチベーションに直結する。給与見直しがあった60代の約6割が「モチベーションが下がった」と回答しており、「自分の価値が低下した」「会社への忠誠心が下がった」と感じるケースが非常に多い。企業にとっては社員の活用という面で逆効果になる場合も少なくない。
また、多くの企業(約4割)では60歳を機に社員の役割や責任を自動的に軽減する「半現役扱い」を行っている。給与を下げつつ責任も軽くする、という「整合性」を取るための措置だが、これは「60代は使い物にならない」というステレオタイプな人材観を助長し、社員の意欲をさらに削ぐという負のスパイラルを生んでいるのが現実である。
Q. いまだ6割の企業に残る「役職定年」とはどのような制度なのだろうか?
役職定年制度は今も約6割の企業に存在し、特に60歳でライン管理職から外すという運用が主流だ。かつて役職定年の年齢は55歳などが一般的だったが、60歳への集中は、雇用延長への対応の表れと解釈できる。
これは、たとえ定年が65歳に伸びたり、再雇用で会社に残っても「60歳になったらライン管理職からは外れてもらう」という企業の明確な意思を示すものだ。実際、60歳を超えて部下を持つライン管理職の数は、どの企業でもごくわずかである。
ゲストの藤井氏はこの役職定年を「必要悪」と称している。管理職の平均年齢は課長で40歳、部長で47〜48歳だ。限られたポストをベテランが長く占めれば、下の世代の昇進機会が失われ、組織の新陳代謝は滞ってしまう。
役職定年は、この「ポストの詰まり」を解消し、若手への機会創出を促すための合理的な措置という側面がある。ジョブ型雇用が進む現代において、年功序列的な「順番待ち」での昇進はもはや期待できない。役職定年の有無に関わらず、一度ポストに就いたからといって、管理職として長く留まることは困難と心得るべきである。
Q. 40代でキャリアの頂点を迎える時代、プレイヤーとして生き残るためにすべきことは何なのだろうか?
管理職への昇進確率は42〜43歳で急激に低下し、なれる人は40歳前後で既になっているのが現実だ。これは多くのビジネスパーソンにとって、昇進キャリアの天井が40代前半で見えてしまうことを意味する。管理職になれなかった場合、プレイヤーとしての能力のピークも40歳前後で訪れる可能性があることも覚悟しなければならない。
たとえ管理職になっても、その期間は平均10年程度と考えた方が良い。その後70歳まで働くなら20年以上の「プレイヤー期間」が待っているのだ。管理職として人を使うマネジメントに慣れてしまうと、いざプレイヤーに戻る際に「運動神経」が鈍っている場合が多い。自ら手を動かし、一次情報を取る現場の仕事へスムーズに復帰できなければ、AIに代替されるだけの存在になりかねない。
企業は全体的に人手不足を感じているが、年代別に見るとその認識は大きく異なる。20〜30代は慢性的に不足していると感じる企業が多い一方、50〜60代は「過剰」と認識されている。これは、年功的な賃金体系の下で、中高年の給与が実際の貢献価値より高いと見なされていることが根本的な理由だ。管理職相当の給与を得ながらライン管理職ではない「名ばかり管理職」は、企業から最もコスト問題として問題視される存在である。
そんな中、企業が中高年に本当に求めているのは、管理職ではなく「高度専門職」としての役割だ。高度な専門性と能力を備え、代替が難しい人材は、たとえ給与が高くても企業にとっては「欲しい」存在となる。50代以降も会社で価値を提供し続けるためには、特定分野の専門性を高め、いわゆる「余人をもって代えがたい」レベルに到達することがキャリア存続の鍵となるだろう。専門職層の割合は50代後半から60代後半まで変わらず約25%を維持しているデータがあり、一度そのレベルに達すれば年齢に関わらず安定して働き続けられることを示唆している。
Q. 60代社員の給与は今後改善される見込みがあるのだろうか?
一見、厳しさばかりが目立つシニア層のキャリアだが、将来に向けたポジティブな兆候もデータには現れている。企業の60代社員への対応は二極化し始めているようだ。
パーソル総合研究所の調査では、直近5年で60代の給与を引き上げた企業が全体の1/4存在し、さらに今後、引き上げる予定、または検討中と回答した企業が半数以上(56.3%)を占めることが明らかになった。

これは、労働力不足を背景に、これまで「半現役扱い」だった60代を本格的な戦力として活用しようとする動きが、少なくとも半数以上の企業で起こっていることを示唆する。
しかし、この動きは企業全体に共通するものではない。給与引き上げを検討しているのは、元々60歳の給与の下げ幅が小さかった企業が多い傾向がある。つまり、既にシニア層を戦力と見なしていた企業が、さらなる投資で人材を確保・活用しようとしているのだ。そうでない企業も依然として存在し、60代の処遇を改善しない姿勢を維持するだろう。
結果として、あなたが現在どの会社に属しているかによって、60代以降のキャリアは大きく左右されることになるだろう。自分の会社がシニア層を「本格的に使う」企業なのか、「コストと見なす」企業なのかを冷静に見極める必要がある。また、業界や職種によっても企業の対応は変わるため、自身の市場価値を客観的に把握し、場合によっては会社を移る選択肢も視野に入れるべき時代に突入している。