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「無宗教型スピリチュアル」なぜ人気?
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2026年3月26日

SBNR(=Spiritual But Not Religious)と呼ばれる「無宗教型スピリチュアル」なライフスタイルが注目されている。なぜ世界の若者はSBNRに魅了されるのか?ビジネス視点での可能性は?SBNRに詳しい伊藤幹氏に聞いた。 <ゲスト> 伊藤幹|博報堂 生活者発想技術研究所上席研究...
「無宗教型スピリチュアル」なぜ世界で大ブーム?
現代社会において、特定の宗教には属さないが、精神的な豊かさを求める人々が増えている。SBNR(Spiritual But Not Religious)と呼ばれるこの層は、日本において特に顕著な存在感を示しており、新たな消費トレンド「SBNRエコノミー」を牽引している。本記事では、SBNRの概念、その社会的背景、そしてビジネスへの影響について、具体的な事例を交えながら深く掘り下げて解説する。

Q. SBNRとは何か?その概念と背景にある社会変化とは?
SBNRとは、「Spiritual But Not Religious」の略称である。特定の宗教組織に所属せずとも、精神的な豊かさや心の充足を重視する価値観、ライフスタイルを持つ人々を指す。これは世界的な宗教離れのトレンドと、コロナ禍や社会情勢の不安定化といった社会不安の広がりが背景にある。人々が心の拠り所を求める中で、スティーブ・ジョブズが禅を自身のライフスタイルに取り入れ、世界中に「ZEN」を広めた事例が示すように、宗教の枠にとらわれない精神性への関心は高まっている。SBNRは、現代社会におけるウェルビーイング志向と強く結びつく概念と言えるだろう。

Q. 日本におけるSBNR層はどのような特徴を持っているか?その経済的影響とは?
日本では人口の43%がSBNR層に該当し、これはフランスの17%、インドの4%といった他国と比べて圧倒的に高い数値である。これは、特定の宗教への帰属意識が希薄である一方で、初詣や墓参りなど、文化的に精神性を重んじる日本ならではの土壌と深く関わっている。潜在的なSBNR層は、統計上の数値以上に多いと推測される。日本のSBNR層は、約6割が女性で、20代が多く、平均世帯年収も全体より70万円高い特徴を持つ。彼らは健康、旅行、食生活、感性を磨くことへの関心が高く、自己投資に積極的な有望なビジネスターゲットである。日々の生活に余裕がある人々が、自己の成長や心の豊かさを求める「余白」を埋める存在として、SBNR的な価値観が広まっている。

Q. 日常生活のどのような行動がSBNRに該当するか?
ヨガ、サウナでの「ととのう」体験、アイドルやアニメのキャラクターなどを応援する「推し活」、そして自然の中で過ごすキャンプなどは、いずれもSBNR的な価値観に基づいている。これらは単なる娯楽ではなく、日常から離れて自分と向き合い、心の豊かさを得るための行動だ。SBNRという言葉は、「スピリチュアル」という言葉から受ける誤解を避けるため、「Soul(心)、Body(体)、Nature(自然)、Relationships(繋がり)」の4要素として再定義されている。この4つの要素は独立しているのではなく、互いに深く関連しており、全体を統合して豊かな精神性を追求する点がSBNRの本質だ。例えばサウナでは、心と体が整い、外気浴で自然と一体になる感覚を得る。これは日本の「心身一元論」のような古来の思想とも共通する部分があり、日本文化と非常に相性が良い。
Q. モノ・コトに続く新たな消費トレンド「シン・消費」とはどのようなものか?
消費のトレンドは、高度経済成長期の「モノ消費」、続いて「コト消費」へと移行してきた。そして現在、SBNR層が牽引する新たな潮流として「シン・消費」が登場している。シン・消費には「信」「心」「新」のトリプルミーニングが込められている。「信」は自分が信じられるものへお金を使うこと、「心」は心身の充足を求めること、「新」は新たな価値を見出すことだ。この消費スタイルでは、他人の評価ではなく「自分自身が何を信じられるか」「自身の心身が満たされるか」が価値基準となる。「筋肉は裏切らない」と信じて投資する筋トレや、推しを信じて支援し、その応援を通して自己の幸福を感じる推し活はその典型である。企業はもはや、経済的価値だけでなく、心の豊かさや人との繋がり、信頼といった「見えない価値」を提供することが不可欠な時代になったのだ。
Q. SBNRエコノミーにおいて、企業はどのようにビジネスを構築できるか?
世界のSBNR市場は、ウェルネスツーリズムやマインドフルネス市場を含めると、150兆円から200兆円に迫る巨大な経済圏を形成している。日本には武道、茶道、温泉、祭り、神社仏閣など、精神的な豊かさに繋がる「SBNR資源」が日常に溢れており、大きなビジネスチャンスを秘める。SBNRビジネス化の具体的な手法は、大きく2つある。1つは「脱宗教」アプローチだ。これは、宗教的なものから厳しい規律や苦行を取り除き、本質的な精神性のみを「楽行」として提供する方法である。例えば、禅宗の修行であった「座禅」が「マインドフルネス」として、ヒンドゥー教の修行であった「ヨガ」が体と心を整える「フィットネス」として広まったように、宗教色を薄めることで多くの人が利用可能となる。これにより、地域の観光資源がオーバーツーリズムの解決にも繋がり得る。SBNRビジネスは、短絡的な金儲けではなく、貨幣価値では測れない「新しい心の豊かさ」を創造し、文化の本質的価値を現代のライフスタイルに合った形で届ける活動であると捉えるべきだ。

もう1つは「添精神文化」アプローチだ。これは日常の何気ない行動に儀式性や意味を付与し、精神的に豊かな体験に変える手法で、「道」「型」「聖地」という3つのフレームワークがある。例えば、サウナブームは、「サ活」ではなく「サ道」と呼ばれ、一連の手順という「型」と、「サウナシュラン」のような「聖地」の存在によって、単なる入浴行為が心身を整える奥深いリチュアルへと昇華された。推し活も同様に、コール&レスポンスという「型」や、ライブ会場という「聖地」における一体感が、消費者に精神的な充足感を提供している。また、掃除という日常行為に、お寺の修行や「トイレの神様」のような「精神性」を付与することで、ただの作業から心を整える行為へと価値転換させられる。ウイスキーのような商品も、製法という「型」や蒸留所という「聖地」の物語性を加えることで、単なる消費ではなく、奥深い文化体験となるのだ。
Q. SBNRの視点を生かしたブランディング戦略や、個人のビジネス創出の可能性はあるか?
SBNRの視点は、企業のブランディング戦略にも大きな示唆を与える。日本香堂のお線香ブランド「毎日香」のリブランディングはその好例だ。核家族化で供養の習慣が薄れる一方、若者が癒やし目的でお線香を使う兆しを捉え、「故人を偲ぶ」だけでなく、「自分自身の心を整える」SBNR的なライフスタイルに寄り添うアイテムとして再定義した。お線香に火を灯し、煙や香りを感じる一連の動作は、それ自体が心地よい儀式(リチュアル)となり、日常に根付く習慣となることで、消費の継続性へと繋がっている。これは商品の魅力を伝えるだけでなく、消費行動そのものに「儀式化」による付加価値をもたらすブランディングである。この成功事例が示すように、あらゆる製品やサービスがSBNRの要素を取り入れることで、消費者とのより深い精神的繋がりを築くことが可能だ。
個人のビジネスにおいてもSBNRは大きな可能性を秘める。SBNR層は精神的豊かさへの関心が高く、常にアンテナを張っているため、ヨガインストラクターや筋トレの情報発信者がSNSを通じて自身の知識や経験を共有することで、熱心なファンや顧客を獲得しやすい。彼らは自己の経験をビジネス化し、自身のライフスタイルを「SBNR的な自己実現の道」と捉え、それを追求していると言える。副業においても、単なる収入補填ではなく、自己の充実感や成長を求める傾向が強く、SBNR的な価値観と結びつくことで、よりやりがいのある活動に昇華させることができる。SBNRは、ウェルビーイングの要素(心・体・繋がり)に日本的な「自然信仰」を加えた「日本流ウェルビーイング」の形とも解釈できる。この文脈を理解し活用することが、企業にとっても個人にとっても、SBNRエコノミーで成功するための鍵となるだろう。