ビジネス虎の巻
「北欧、暮らしの道具店」の世界観【クラシコム青木耕平】
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2026年2月24日

コーヒーブランド「renag coffee」を起業した竹内由恵が、ビジネスのトップランナーから「持続可能なスモールビジネス」の極意を学ぶシリーズ。 今回のゲストは、熱狂的なファンを持つライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコム代表・青木耕平氏。 多くの人が憧れる“独...
「世界観は作るな」:北欧、暮らしの道具店が明かすEC成功とビジネス成長の真髄
ECサイトでありながら、人々に「気づいたら買っていた」という驚きと満足を提供する「北欧、暮らしの道具店」。その独特な世界観は、どのようにして多くの顧客を魅了し、成長を続けているのであろうか。創業者の青木耕平氏は、その秘密が「世界観は自ら作り出すものではない」という逆説的な哲学にあると語る。本記事では、クラシコムの青木氏が語る独自のビジネス思考と、未経験者中心の組織がどのようにして年商10億円規模の企業へと発展したのかを探求する。
「イワシの頭も信心から」のミッション観、データよりも重視する「目の前の事実」、そして顧客の「このままでいいのかな?」という情緒的課題に応える販売戦略。その言葉の数々は、現代のECビジネスが抱える本質的な課題を浮き彫りにするだろう。

Q. クラシコムが追求する独自の「世界観」とは何か?どのようにして構築されるのか?
クラシコムの「北欧、暮らしの道具店」が多くの人を惹きつけるその独特な世界観は、創業者がゼロから作り上げたものではない。青木氏は「世界観は作るつもりはない」と明言する。むしろ、それは特定のカテゴリーの人々の間で既に共有されている「良いもの」という感覚を、忠実に表現することによって形成されると青木氏は述べる。もし世界観が表現されているとすれば、それはクラシコム自身が「良い」と感じる文化の「系譜」に自らを位置づけ、それを現代に引き継ぐ役割を担っているにすぎない。彼らは200年前のウィリアム・モリスによるアーツ・アンド・クラフツ運動に自らの文化的起点を置き、日常に美を取り戻そうとするその思想が、北欧デザイン、日本の民芸運動、無印良品などの流れを経て、自分たちの事業に繋がっていると解釈している。この歴史的文脈の上に自社を位置づけることで、提供する商品やコンテンツ、デザイン、言葉遣いに一貫性を持たせ、特定の感性を持つ顧客に「これは私のための場所だ」と感じさせている。

また、その世界観を維持するため、採用では経験よりも感性の共有を重視している。スキルは教えられるが、何が「素敵か」というイメージのズレは修正困難であるため、未経験者であっても自社の価値観や感性に合致する人材を迎え入れ、社内で育成している。この姿勢が、ブレない一貫した世界観の形成に繋がっているのだ。
Q. ビジネス経験ゼロからスタートし、売上を劇的に拡大できた要因は何であったのか?
青木氏と妹がクラシコムを創業した当初は、ヴィンテージ品の買い付け、洗浄、撮影、販売を自力で行う、文字通りの素人集団であった。取引先に対して「掛け売り」を「つけで」と誤って伝えるようなエピソードからも、その経験不足がうかがえる。しかし、そのような状況から出発し、創業からわずか4年で売上1億円を達成、上場時には年間売上高が10億円を超える企業へと成長を遂げている。その成功の秘訣は、マーケティングを専門的なスキルや知識として捉えず、人間関係の本質に置き換える視点にあったと青木氏は語る。
「マーケティングとは、目の前の顧客がなぜ買ってくれるのか、どうすればもっと喜ぶのかを想像する『思いやり』である」と彼は言う。つまり、顧客の行動や感情に寄り添い、人間対人間のコミュニケーションのように接することで、結果として有効なビジネス戦略が生まれてきたという。例えば、事業初期の北欧ヴィンテージ食器の販売が「持ってくれば売れる」状態だったとしても、領域が狭すぎると見越して早々に新品や他ジャンルへ手を広げたのも、市場や顧客の状況を想像した結果である。このような顧客本位の思考が、事業の柔軟な拡大と持続的な成長を可能にした要因と言えよう。
Q. ブランドのミッション・コンセプトは、どのように設定し、ビジネスに活かすべきなのか?
クラシコムのミッション「フィットする暮らし、作ろう」は、自分らしい人生に満足できる状態を目指す、普遍的かつ広い概念を含んでいる。青木氏によれば、ミッションやコンセプトは最初から完璧である必要はない。むしろ「イワシの頭も信心から」という言葉のように、どんな言葉でも一度決めたら、それに一貫性を持って真摯に向き合い、長く継続すること自体が価値を生み出し、やがて「尊いもの」となるという思想が根底にある。彼らは、完璧な言葉を模索するよりも、まず掲げた言葉を信じ、行動し続けることを重視する。

この「緩く、広く設定する」アプローチは、将来的な事業展開の柔軟性を確保する上でも大きなメリットをもたらした。「フィットする暮らし」という言葉が持つ包容力により、当初の雑貨販売からアパレル、化粧品、さらには映画や音楽といったコンテンツ制作に至るまで、顧客の生活を多角的にサポートする「ライフカルチャープラットフォーム」へと、事業を自然に広げることができたのだ。このように、ミッションを明確な指針としつつも、それを現実のニーズに合わせて解釈し、育てていく姿勢がクラシコムの発展を支えてきたと言えるだろう。
Q. ECサイトで機能的価値だけでなく、「情緒的価値」を届けるにはどうすべきか?
ECサイトにおける商品販売の難しさは、顧客が商品を手に取って試せない点にある。例えば、特別な風味を持つコーヒー豆であっても、その味が想像できなければ購買に繋がりにくい。ここで重要なのは、単なる「美味しさ」や「機能性」といった機能的価値を提供するだけでなく、顧客の抱える「情緒的な課題」に焦点を当てることだと青木氏は指摘する。人々がECサイトでモノを購入する背景には、「今の暮らし、このままでいいのか?」という漠然とした不安や向上心、すなわち情緒的な欲求が潜んでいるのだ。
クラシコムでは、単なる商品紹介に留まらず、その商品がもたらす豊かな生活シーンや満足感を具体的に提示することで、顧客の「理想の体験」への共感を促す。デザインやUI/UXの改善も重要だが、それ以上に、「自分たちのサイトが、誰の、どんな気持ちに応える場所なのか」を明確に定義し、一貫して表現することがECサイト成功の鍵である。これが定まれば、商品の選択、文章、写真のトーン、あらゆるコンテンツが統一され、顧客はサイトを通じて「まさに自分のためのものだ」という深い共感を得ることになる。これは機能的なスペックの提示を超えた、顧客の心の奥底に響くアプローチである。
Q. 経営判断において「目の前の事実」を重視する「世界からカンニングする」経営術とは何か?
ビジネスにおいて、事前に練られた計画やコンセプトに固執することは危険である。クラシコムの経営哲学では、それらよりも「目の前の事実」を最も重要な指針としており、これを「世界からカンニングする」と表現する。どんなに優れた予測も、現実の動きの前には往々にして不正解となるため、重要なのはデータを含む事実を綿密に観察し、そこから学ぶ姿勢である。仮説が現実と異なれば、計画を修正し、柔軟に変化していくことを厭わない。

また、新しい取り組みにおいては「いかに小さく試すか」が重要となる。例えば、コーヒー豆のように賞味期限のある商品を扱う際、売れるだろうという期待だけで過剰な在庫を抱えるのは大きなリスクである。青木氏は、在庫過多で負債を抱えるよりも「もっと仕入れればよかった」と後悔する方が、次の機会に向けて健全な状態を保てると説く。常に慎重な姿勢を保ち、試行錯誤を通じて現実から学び続けることで、市場の変化に柔軟に対応し、持続的な成長を実現しているのだ。このような経営姿勢が、変化の激しいEC市場で生き残るための強靭さを生み出す基盤となっている。