
菊池雄星 WBC直前インタビュー
菊池雄星が語る「自分らしい生き方」:一流アスリートがビジネスパーソンに伝えたい哲学
メジャーリーグの第一線で活躍し、今季も躍進を続ける菊池雄星投手。彼は単なるアスリートではなく、自身の哲学と思考を深堀りし、実践する現代の思想家とも言える存在である。先日出版された初の著書では、野球界にとどまらず、現代社会で活躍するあらゆるビジネスパーソンに響く金言が多数語られている。
本記事では、その著書の内容と彼の思考の深さに迫るべく、Q&A形式でその哲学の核心を探る。キャリア形成、メンタルマネジメント、目標設定、データ活用など、多岐にわたるテーマから導かれる彼の独自の視点を紹介しよう。

Q. 初の著書執筆はどのような思いからでしたか?
初の著書では、インタビューをまとめた一般的な形式ではなく、「1文字目から最後の13万字目まで自分で書きたい」と出版社に逆提案し、執筆を行った。最初は生半可な気持ちで書き始めたものの、途方もない作業となったが、頭の中にある考え方を文字に落とし込む過程で自分の思考が整理されたという。
元々は野球ファンに向けた本と考えていたが、編集者からの「30〜40代のビジネスマンや、これからキャリアを積む人に読んでほしい」という声を受け、多くのビジネスパーソンが共感できる内容へと方向性を変えた。執筆を完遂できた背景には、彼が生き方の信条とする「やりたいことは全部やる」という強い思いがあった。これは、いつかやろうと考えていた執筆がまさに好機だと捉えたからに他ならない。
Q. メジャーリーグで得たメンタルの真髄を教えてください?
従来のメンタルトレーニングは「目標を高く持ち、常にプラス思考でいること」を説く。しかし、メジャーの超一流選手は違う。彼らは「今日は無理かも」と素直に認め、その日の自分の状態に合わせて目標に対する期待値を調整しているのだ。
これは「理想は高く、期待は低く」という考え方に集約される。例えば、世界一を目指すための準備は徹底的に行うが、結果に対しては「ダメでも元々」と捉える。この「期待値のコントロール」こそが、一流選手がプレッシャーの中でしなやかに生き、最高のパフォーマンスを発揮する秘訣だと彼は語る。感情に流されず、常に不安と向き合いながら、しなやかな心でいかに日々を乗り切るかという術なのである。
Q. キャリアの選択において「後悔」していることはありますか?
高校3年生の時、メジャー球団との面談を重ねながらも、周囲の批判や世間の常識を気にして日本球界入りを選んだ経験があるという。その選択自体、西武ライオンズでの活躍を経てメジャーに至るため、結果に後悔はない。

しかし、「人の目や世間の常識を判断基準にして進路を決めた」というその「選択の仕方」には今も後悔がある。人生の岐路に立った時、「本当の自分はどうしたいのか」を問い、他人の評価ではなく自分自身の内なる声に従うことの重要性を強く感じている。
Q. どのようにして「好きなこと」を見つければ良いのでしょうか?
多くの人が「好きなことが見つからない」という悩みを抱えているが、彼は「好きな食べ物をどう見つけたか?」と問い返す。様々な料理を試すうちに「麻婆豆腐とコハダが一番好き」と分かったように、仕事や人生も多岐にわたる経験をすることで自然と「好き」が見つかる。
また、「信念は曲げちゃいけない」といった固定観念に縛られるべきではないと彼は語る。人間の身体が3週間で細胞を入れ替えるように、考え方や好み、座右の銘も変化するのが自然である。合わなければすぐに辞めるくらいの気軽さで、たくさんのことに挑戦することから「好き」は見つかるものなのである。
Q. 目標設定と行動において、どのような考え方をしていますか?
彼の目標設定は、「目標は高く、現状維持では届かないような“ワクワクする”ものに設定する」ことから始まる。現実的な目標は今の能力で戦おうとする思考に繋がるが、高い目標はそれを達成するための新しい方法を創造的に考え出す原動力となるという。
この高い目標に対し、プロセスは「悲観的に計画し、楽観的に行動する」というスタンスをとる。つまり、今のままでは無理だと徹底的に分析し、考えうる最悪のケースまで想定して準備を進めるのだ。だが、いざ実行する際は「やるだけやった。ダメでも元々」と楽観的に開き直る。これは結果に一喜一憂せず、「落ち込まないこと」を最優先する戦略であり、特に連戦続きのアスリートにとって重要な心の平静を保つ術であると彼は語る。メジャーリーグのロッカールームで、「いつも変わらないやつだ」が最高の褒め言葉になるのもそのためなのである。
Q. 驚くべきブレイクスルーの背景には何があったのでしょうか?
メジャーで生き残るため、彼はあえて野球経験のない経営コンサルタントを専属でつけ、感情論ではない具体的なKPI(重要業績評価指標)に基づいた目標設定を導入したという。例えば、投手のKPIを「三振数増加」「四球数減少」とし、それに沿って練習の焦点を絞る。従来の「悔しいから練習量を増やす」といった感情的なアプローチからの脱却である。

また、彼のブレイクスルーを支えるのが「心技体知」の「知(知識・知恵)」である。シーズンオフの2週間は「読書ウィーク」と称し、50冊以上の本を読み漁り、データを分析する。「8時間木を切る時間を与えられたら、6時間は斧を研ぐ」というリンカーンの言葉のように、技術練習に入る前に「徹底的に知識を蓄え、最高の準備を行う」。この知的な準備こそが、努力を最大化させるという。
さらに彼は「遠回りは必要」という言説に異を唱える。成功者が後から語る美談に過ぎず、誰もが最短最速でゴールを目指すべきだと彼は力説する。意図的な遠回りは成長の妨げにしかならないというのが彼の見解である。
Q. データ活用の専門家を目指す若者たちに伝えたいことはありますか?
彼自身のデータとの向き合い方は「迷った時点でデータを見る」というシンプルなものだ。直感が冴えている時はそれに従うが、「何を投げようか」と迷った時点でそれは直感じゃないと判断する。その時こそ、データを活用し意思決定の助けとする。

メジャーリーグでは、ダルビッシュ有選手がビタミンCの専門書を300ページ読むほどに、超一流選手は探求心を持ち続ける。野球においてもデータは進化を加速させているが、「腕の振り」など数値化できない感覚も依然として重要であり、データと人間の感覚のバランスを見極めることが肝要である。
野球アナリストを目指す若者たちには、「どんなレベルでもいいから、実際に野球をやってみること」を強く勧める。理論が分かっていても身体が動かない選手の感覚、そのギャップを理解する経験こそが、机上の空論ではない、現場で役立つ真の分析と「キューイング」につながるからだと語る。
