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【世界経済の秩序が崩壊?】貿易体制・秩序の危機
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2026年2月17日

貿易体制・秩序の危機。アメリカと世界の温度差とは。日本と世界の意識の違いとは。WTO体制からターンベリー体制へ。 なぜ世界経済の秩序が崩壊しつつあるのか菅原淳一氏に聞いた。 <ゲスト> 菅原淳一|オウルズコンサルティンググループ シニアフェロー OECD日本政府代表部専門調査員、みずほリサーチ&テ...
世界経済秩序の激変期、ビジネスパーソンが知るべき「ラプチャー」の核心
世界経済の根幹にある秩序が根本から揺らぎ、「ラプチャー(断絶・崩壊)」と呼ばれる激動の時代に突入した。これまでの安定した国際通商環境は過去のものとなり、各国は新たな生存戦略を模索している現状である。
アメリカが「ルールよりディール」を掲げる「ターンベリー体制」を打ち出し、他国に過度な依存から脱却を促す中で、欧州は中国やインドとの関係強化に乗り出し、「アメリカ抜き」の経済圏を築く動きも活発化している。
本稿では、この予測不可能な世界秩序の激変期にビジネスパーソンが理解しておくべき本質と、日本がとるべき具体的な戦略について深掘りする。

Q. 今、世界の貿易秩序はどのような状況にあるのでしょうか?
現在、世界の貿易体制はまさに危機的な状況にある。多くの専門家は、これを「ほとんど死に体」と表現している。ダボス会議ではカナダのカーニー首相が、世界の現状を単なる移行期ではなく、国際秩序が崩壊する「ラプチャー(断絶・崩壊)」の最中にあると警鐘を鳴らした。
長らく貿易量の微増傾向は続いているものの、その伸び率は鈍化し、世界貿易機関(WTO)を中心とした多国間主義の秩序は機能不全に陥っている。アメリカの保護主義的政策や関税措置は、この傾向を加速させ、これまで当たり前とされてきたルールベースの国際秩序が溶解しつつあるのだ。
米国の隣国であり主要な同盟国であるカナダ首相が、公然とアメリカの政策を批判した事実は、従来の国際関係が揺らぎ、どの国も自己防衛的な戦略に移行し始めている証左である。
Q. アメリカが打ち出す「ターンベリー体制」とは具体的にどのようなもので、なぜ新たな秩序が必要なのでしょうか?
「ターンベリー体制」とは、トランプ政権の通商代表が提唱した言葉で、アメリカの新通商政策を指す。スコットランドにあるトランプ氏所有のゴルフクラブの地名に由来する。これは、従来のWTO体制が代表する多国間の「ルール」に基づく通商関係ではなく、二国間での「ディール」、すなわち力と交渉力に基づく個別合意を優先するものである。

この体制の根底にあるのは、アメリカの「被害者意識」である。トランプ政権は、過去80年以上にわたり続いたブレトンウッズ体制やWTO体制の下で、同盟国を含む世界中の国々がアメリカの市場と軍事力を搾取し、自国の経済が損なわれてきたと考えている。
このため、アメリカはもはや他の国々の思い通りにはならないというメッセージを発信し、自国市場の規模と関税を交渉の武器として、一対一のディールで常にアメリカにとって有利な条件を引き出そうと試みているのだ。巨額な貿易赤字を「敗北」と見なすゼロサムゲームの考え方が、この新たな秩序構築の原動力となっている。
Q. 変化する世界秩序に対し、各国の反応や戦略はどのようなものがありますか?
各国の多くは、アメリカの保護主義的な動きに対しては、表面上刺激することを避けつつ、水面下では自国の実利確保と過度なアメリカ依存からの脱却を図っている。
例えば日本は、アメリカから提示された自動車関税25%に対し、交渉によって15%に引き下げることに成功した。これは、引き換えに5,500億ドルの対米投資を約束することで、最悪の事態を回避しようとする戦略であったと言える。

EU諸国も同様に、アメリカ市場の重要性は認識しつつも、過度に依存することのリスクを痛感している。これにより、輸出入先の多様化と、アメリカ抜きでの新たな経済連携を模索する動きが世界中で加速しているのが現状である。
ミュンヘン安全保障会議の調査では、多くの国が米中二極化や多極化を認識しているにもかかわらず、日本は「アメリカ一極体制が続いている」と考える割合が突出して高かった。この現状認識のギャップは、日本が変化する世界情勢への対応を誤る危険性を示唆している。
Q. 欧州がアメリカ離れを進める一方で、中国やインドとの関係を強化しているのはなぜですか?
アメリカへの過度な経済依存が危険だと判断した欧州各国は、新たな貿易パートナーとして中国とインドに活路を見出している。この4ヶ月で欧州の首相が立て続けに中国を訪問するなど、関係強化の動きが顕著だ。
中国経済は現在、過剰生産と過剰輸出の問題を抱えており、欧州も摩擦を抱えている。しかし、レアアースや半導体供給における中国の優位性を見ると、中国抜きには自国経済が回らないことを欧州は自覚している。EV関税問題に見られるように、互いに譲歩し、双方の経済的打撃を最小限に抑えながら関係を調整しようとしている。
一方、インド市場の成長も目覚ましい。20年以上にわたり停滞していたEUとインドのFTA(自由貿易協定)が今年に入って電撃的に締結されたことは、まさしくこの新しい世界潮流を象徴する出来事である。
アメリカ発の貿易秩序の混乱が、皮肉にも、これまで棚上げされてきた各国間の貿易交渉を活性化させる触媒の役割を果たしている。EUは新たな輸出先と市場を求めてインドとの関係深化を図り、インドもアメリカや中国との複雑な関係の中で、EUという巨大な経済圏との連携を強化することで国益を追求しているのだ。
Q. 日本は新たな世界秩序の中で、どのような戦略で活路を見出すべきでしょうか?
日本は激変する世界経済秩序の中で、これまで以上に戦略的なアプローチが必要である。
第一に、アメリカが離脱した後も日本がリーダーシップを発揮して維持してきた環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)をさらに活用することが求められる。デジタル分野や経済安全保障といった現代の課題に対応するため、ルールの「アップグレード」を進め、同時に加盟国を増やすことで、アジア太平洋地域の貿易と経済の安定に貢献するべきだ。コスタリカやウルグアイに加え、フィリピン、インドネシア、UAEなどが新規参加を検討しており、日本は積極的にこれらをリードしていく役割を担う。
第二に、アジア中心であった自由貿易協定(FTA)戦略を多角化する必要がある。WTOが機能不全に陥る中、二国間および地域間のFTA/EPAの重要性は高まっている。これまで十分な連携が取れていなかった南米のメルコスール、湾岸協力会議(GCC)の産油国、そしてアフリカ諸国など、未開拓地域とのFTA締結を積極的に推進することは、日本のサプライチェーンの強靭化と経済安全保障の確保に直結する。
第三に、「グローバルサウス」諸国との連携強化が日本の経済安全保障の鍵となる。インドやASEAN諸国のように、米中どちらか一方に与せず、戦略的にバランスを取って自国の利益を最大化しようとするこれらの国々は、資源、エネルギー、食料を豊富に保有している。日本は、ミドルパワーとしてグローバルサウス諸国と緊密な経済関係を築き、アメリカや中国の動きに対して戦略的に立ち回ることで、日本の国益を実現する必要があるのだ。
Q. この恒久的な世界秩序の変化に、日本のビジネスパーソンや企業はどう対応すべきでしょうか?
現在進行している世界秩序の変化は、トランプ政権に起因する一時的な現象ではない。次期米大統領が誰になろうとも、保護主義的かつ自国中心主義の潮流は続き、多国間主義が以前の形に戻る可能性は低い。

このような不可逆的な変化に対し、日本企業が喫緊に取り組むべきは、まず「サプライチェーンの可視化」である。自社の調達網がどの国や地域に、どれほど依存しているかを正確に把握し、それに伴う地政学的リスクを洗い出す必要がある。
さらに、今年見直しが予定されているUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の動向は、北米に拠点を置く多くの日本企業にとって重大な影響を及ぼす可能性がある。これらを恒久的な変化として捉え、サプライチェーンの再構築や多様なパートナーシップの模索といった対応策を講じることが、不確実な時代を生き抜くための必須条件となる。