PIVOT TALK BUSINESS
アパホテルの超絶経営:稼働率100%超、営業利益率36%
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2026年2月17日

日本のみならず世界で拡大するホテルビジネス。世界と日本のビジネスモデルの違いはどこにあるのか?世界のメジャーや日本のチェーンはどう稼いでいるのか?財務戦略アドバイザーの田中慎一氏に解説してもらった。 <ゲスト> 田中慎一|財務戦略アドバイザー インテグリティ代表 慶應義塾大学経済学部を卒業。あずさ...
「稼働率100%超、利益率36%」世界のホテルビジネスモデルとアパホテルの異次元経営に迫る
世界のホテル業界は、競争激化とテクノロジーの進化、そして消費者のニーズ変化という大きな転換期にある。従来の不動産保有型ビジネスから、資産を持たずに運営に特化する「アセットライト」戦略へと主流が移行。さらに、Booking.comに代表されるオンライン旅行代理店(OTA)の台頭が、ホテル各社に新たな収益圧迫と顧客関係構築の課題を突きつけている。こうした変化の中で、日本のとあるホテルチェーンが驚異的な高収益を叩き出し、世界から注目を集める。世界のホテルビジネスが直面する構造的な課題、そして日本の独自戦略が持つ可能性を探る。
Q. 世界のホテル業界を支配するビジネスモデル「アセットライト」とはどのようなものか?
世界のホテル業界の主要企業、特に欧米のメジャーブランドは、1980年代から不動産の「所有」とホテルの「運営」を分離する「アセットライト」戦略を加速させている。これはホテル物件を自社で抱え込まず、フランチャイズ展開や運営受託に特化するビジネスモデルである。その結果、ホテルチェーンは重い固定資産を持たずに済み、資本効率(ROI)を大幅に向上させ、景気変動の影響を受けにくい安定した手数料ビジネスを構築できる。多額の資金を物件取得に投じる必要がないため、迅速な事業拡大が可能になる点も大きなメリットだ。

対照的に、日本国内にはいまだ自己所有型のホテルが多く残るが、アセットライト型への移行を進める企業も現れ始めた。自己所有モデルは景気が良い局面では莫大な利益をもたらす可能性がある一方、景気悪化時には稼働率の低下が直接経営を圧迫し、巨額な赤字に陥るリスクを抱えている。アセットライトは、こうした高リスク・ハイリターンな経営を回避し、持続的な成長と安定性を追求する世界標準の戦略だと言える。
Q. ホテル業界で最も重視される経営指標「RevPAR」とは何か?また、その最大化戦略に違いはあるか?
ホテル業界で最も重視される経営指標は「RevPAR(レブパー:Revenue Per Available Room)」である。これは「販売可能な客室1室あたりの売上」を意味し、具体的には「平均客室単価(ADR)」と「客室稼働率」を掛け合わせて算出される。すべてのホテルオペレーターはこのRevPARを最大化することを目指して経営戦略を立てている。
RevPARの最大化戦略には主に2つのアプローチがある。一つはビジネスホテルの多くが採用する、客室稼働率を限界まで高める戦略である。特にチェーンホテルでは、宿泊客だけでなく、デイユースなどの「二毛作」により、物理的な稼働率を100%超に押し上げることでRevPARを高める。もう一つは、高級ホテルがとる戦略で、敢えて客室稼働率を7割程度に抑え、ADR(平均客室単価)を高めることに注力する。これは過度な稼働率でサービス品質が低下するのを防ぎ、希少性と顧客体験の質を維持しながらRevPARを最大化するという考え方である。この二つの異なる戦略は、ホテルのターゲット層やブランド戦略に深く紐付いていると言えるだろう。
Q. オンライン旅行代理店(OTA)がホテル業界に与える影響とは何か?ホテルチェーンはどのように対抗しているのか?
Booking.comやAgodaといったオンライン旅行代理店(OTA)の台頭は、ホテル業界にとって看過できない脅威となっている。OTAはホテルからの予約手数料として平均約15%という高額な料金を徴収するため、ホテルの収益を直接圧迫する。さらに深刻な問題は、OTA経由で予約する顧客が、価格や利便性を重視する傾向にあるため、特定のホテルブランドに対するロイヤリティ(忠誠心)を築きにくい点だ。これによりホテルは顧客と直接的な関係を構築する機会を失い、顧客データの収集やパーソナライズされたサービス提供が困難となる。

これに対抗するため、マリオットをはじめとする大手ホテルチェーンは「ボンヴォイ」のような強力な自社ロイヤリティプログラムを強化し、直接予約を促進している。ポイントを貯めやすくしたり、会員限定の特典を提供したりすることで、顧客を囲い込み、OTAへの依存度を低減させようと努めている。しかし、このロイヤリティプログラムで発行されるポイントは、将来の宿泊割引などの「負債」として貸借対照表に計上され、その総額は航空会社のマイレージ負債と同様に年々巨大化。2024年末時点で2兆円を超える規模に達しており、収益圧迫の一因ともなっている。
Q. 世界のホテル業界が直面する新たな課題にはどのようなものがあるか?
ホテル業界は、OTAの脅威に加え、2つの大きな変化と課題に直面している。一つは富裕層の「ホテルへの期待値の変化」だ。従来のJWマリオットやリッツ・カールトンといった「メインストリーム」の高級ホテルに富裕層は飽きを感じ始めているという。彼らは画一的なサービスではなく、アマンのような「ウルトララグジュアリー」体験、あるいは個人のニーズに合わせて完全にカスタムメイドされたサービスを強く求めるようになっている。これにより、従来のブランドホテルの価値提供が陳腐化する可能性が指摘される。
もう一つは、世界的な「深刻な労働力不足」である。この問題は日本に限らず、特に米国などでは移民労働者の受け入れ抑制も相まって、清掃員やサービススタッフの確保が非常に困難になっている。この人手不足はホテルの稼働率向上を阻害し、予約が入ってもサービス提供体制が整わず、売上を最大化できない状況を生み出している。ホテル業界は、質の高い人材をいかに確保・育成するかが喫緊の課題となっているのだ。
Q. ヨーロッパの老舗名門ホテルはなぜ中東マネーに買収されているのか?その背景にある構造的問題とは?
パリの「オテル・ド・クリヨン」のようなヨーロッパの歴史ある名門ホテルが、サウジアラビアなどの「中東マネー」によって買収されるケースが増えている。これは、単なる経営不振が原因ではない。これらのホテルは、歴史的建造物であることがゆえに、修繕や改築に対する厳しい規制(ファサードの維持など)が設けられており、設備投資(キャペックス)が通常のホテルに比べて桁違いに高額となる構造的な問題を抱えているのだ。これにより、旧来のオーナーでは維持費を賄いきれなくなる事態が生じている。

短期的なリターンを求めるプライベートエクイティファンドなどでは、莫大な維持コストがかかるこれらの物件には手を出せない。そこで名乗りを上げるのが、サッカーのプレミアリーグクラブを次々に買収する中東の政府系ファンドや超富裕層だ。彼らは短期的な収益性よりも、「文化資本」としての名誉や超長期的な価値を重視するため、多少の赤字を出しても保有することにいとわない。まさに名門サッカークラブのオーナーが、名声やステータスを求めて投資する構図と同じだと言えるだろう。時間軸の違うマネーが、維持困難な文化財産を救済する役割を担っているのだ。
Q. 日本のアパホテルが稼働率100%超、営業利益率36%という驚異的な数値を達成できる秘密は何か?
日本が世界に誇るアパホテルの最大の秘密は、驚異的な経営効率と独自戦略にある。まず、「二毛作」と呼ばれる戦略だ。宿泊利用だけでなく、日中のリモートワークや休憩目的のデイユース利用を積極的に取り入れることで、物理的な客室稼働率を100%以上に引き上げることに成功している。これにより、一部屋から一日で2回分の収益を得ることも可能となり、他の追随を許さない高いRevPARを実現しているのだ。

また、その根底には製造業にも似た「オペレーションエクセレンス」が徹底されている。例えば、顧客がチェックアウトしキーを返却すると、センサーが感知し、清掃スタッフのスマートフォンに清掃指示がリアルタイムで送られる。このようなITを駆使した仕組みにより、清掃のアイドルタイム(無駄な時間)を極限まで削減し、高稼働率を実現する現場での生産性を飛躍的に高めている。この結果、マリオットの営業利益率が15%程度であるのに対し、アパホテルは36%という驚異的な営業利益率を達成しており、もし上場すれば時価総額2兆円規模も視野に入ると言われる世界トップクラスの収益力を持つ。
さらに、価格設定においてもアパホテルは独自の強みを持つ。AIによる自動化も試験的には行っているものの、最終的なダイナミックプライシング(価格の機動的変更)は各ホテルの支配人が手動で、1日に最大6回も周辺の競合状況を精査しながら行うという。これは人間による判断力が、刻一刻と変化する需要にきめ細かく対応し、収益を最大化できるという考えに基づく。海外展開では、ゼロから建設するのではなく、経営不振に陥った既存ホテルを買収し、そこにアパ流の効率的な運営ノウハウを注入することで、リスクを抑えながら堅実に展開している。ただし、客室に置かれる書籍の内容から中国市場とは政治的に相性が悪く、主に西洋からのインバウンド顧客が中心となっているという課題も抱える。その経営手腕とIT活用は、日本のホテルビジネスの可能性を示す成功事例と言えよう。