PIVOT TALK BUSINESS
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2026年2月10日

北朝鮮とロシアの協力体制。なぜロシアは戦いをやめられないのか。アメリカの美味しい所取り作戦とは。実は大事なファーストレディの影響力。2026年国際情勢はどう変化していくのかについて田中孝幸氏に聞いた。 <ゲスト> 田中孝幸|国際政治記者 1998年日本経済新聞社入社。モスクワ支局員やウィーン支局長...
国家間の複雑な関係や国民の思考様式を、私たちはどのように理解できるだろうか。文化や国民性といった言葉で一括りにしてしまう前に、地理的条件や歴史が培った「地の理」をひも解くことが重要だ。地政学というレンズを通して世界の動向を見れば、感情的な対立の背後にある合理的な動機が見えてくるだろう。本稿では、日韓関係、北朝鮮の脅威、欧州と中露の関係、米国の戦略、そして日本の情報機関のあり方といった多岐にわたるテーマを、地政学の視点からQ&A形式で解説する。

日本と韓国の国民性の違いは、両国の地理的・歴史的背景が大きく影響している。日本は台風や地震などの「天災」が多い国であり、その自然災害による被害額は韓国の平均約40倍にものぼる。この過酷な環境が、災害時に人々が結束し、過去の嫌な出来事を「水に流す」という精神性を育んだと考えられている。
一方、韓国は大陸と地続きであり、歴史を通じて数十回も他国からの侵略を受ける「人災」が多かった。過去の侵略と裏切りを安易に忘れれば、国家存亡の危機に繋がりかねない。そのため、韓国では歴史や過去を「忘れない」という文化が国民性として根強く定着したのだ。このような地理的要因が、両国の文化や国民性の違いを生んだと言えるだろう。
北朝鮮は、ロシアと国境を接する約20kmの陸路があり、この地を通る鉄道が両国間の「血の同盟」を支える大動脈となっている。ウクライナ侵攻が始まって以降、北朝鮮はこの鉄道を介してロシアへ武器を供給し、ウクライナ最前線に兵士を送ったと言われている。

この軍事協力の見返りとして、北朝鮮はロシアから最新のドローン技術と、実戦で得られた近代戦のノウハウを供与された可能性が高い。ウクライナ戦争では戦果の約8割がドローンによるものとされており、この技術の習得により、北朝鮮の軍事力、特にドローンによる攻撃能力は飛躍的に向上したと見られる。日本海を越えて飛来する大量のドローン群は、日本の防衛にとって新たな喫緊の脅威となるのだ。
欧州が中国に接近する大きな理由は地理的な距離にある。国境を接しておらず、領土問題など直接的な安全保障上の紛争に発展しにくいため、巨大な中国市場は欧州経済の成長エンジンとして魅力的なのだ。例えば、フランスのマクロン大統領など欧州首脳は頻繁に中国を訪問し、経済的な連携強化を図っている。遠い国とは友好的な関係を築きやすいという地政学の原則が、ここには働いていると言える。

一方、ロシアがウクライナ侵攻を終えられない背景には、深刻な国内事情が存在する。ウクライナ戦争では100万人を超えるロシア軍の死傷者が出ているとされ、もし戦争を終結させれば、PTSDを抱えた何十万人もの退役兵が社会に戻ることになるだろう。これにより、国内の治安が極度に悪化し、プーチン政権を揺るがす深刻な国内不安につながる可能性が高い。
過去には、ソ連のアフガニスタン侵攻後の退役兵がマフィア化し、ソ連崩壊の一因になったという教訓がある。今回の戦争における兵士の規模はこれを遥かに上回るため、ロシア政府は兵士たちを国内に帰すことができない。兵士を前線に留めておくために、新たな戦場を作り続けざるを得ないという「負の連鎖」に陥っているのが実情であり、東欧諸国、特に「スバウキ回廊」を次の標的とする可能性を強く警戒しているのだ。
アメリカは超大国としての特権(例:基軸通貨ドルの維持)は手放さず、世界の警察としての義務や負担を軽減しようとする「美味しいとこ取り」戦略に移行している。これは、国内有権者からの支持を得るため、対外的な責任よりも内政を優先する傾向が強まっているためだ。トランプ元大統領が提唱する「モンロー主義(彼はドンロー主義とも呼ぶ)」は、自国の勢力圏には他国の介入を許さない一方、自らは世界中に影響力を行使しようとする「ジャイアン的」な論理と形容できるだろう。
トランプには、彼を「成り上がりの不動産王」と軽蔑してきたアメリカのエスタブリッシュメント層を見返したいという強い承認欲求がある。彼らにとって最も「ビビる」存在、つまり歴史と権威の象徴が王室だ。欧州や日本の王室・皇室は数百年、時には数千年の歴史を持ち、アメリカの建国史とは比較にならないほどの権威を持つ。トランプは、このような「本物の権威」に認められることで、アメリカ国内の批判層に優越感を示せると考えていると言われている。
このトランプの心理を巧みに利用したのがイギリスだ。女王や国王を「国賓」として何度も動員し、彼の自尊心をくすぐりながら、ウクライナ支援継続など自国の外交的目標を達成しようと試みた。世界最長の歴史を持つ日本の皇室もまた、このような「ソフトパワー」において世界で最も強力なカードであり、諸外国からは羨望の眼差しを向けられている。さらに、大統領夫人であるファーストレディの存在も政策に大きな影響を与え得る。特にトランプは、メラニア夫人に対して最高度に気を使っていることが、その言動からうかがえる。
戦前の日本にはスパイ機関が存在したが、第二次世界大戦後はアメリカが日本の安全保障を担ったため、自前で国外の情報を収集する本格的な組織は長らく存在しなかった。しかし、現代の情報戦において、独立した国家が国家安全保障を守るには独自の諜報活動が不可欠だ。政府は2026年7月頃の発足を目指し、日本版CIAとも言える「国家情報局」の設立を進めている。

情報機関には、国外に出て秘密情報を入手する「攻め(スパイ活動:ヒューミント)」と、国内で他国のスパイ活動を阻止する「守り(防諜)」の二つの側面がある。この両者は密接不可分であり、攻めがなければ守りも成り立たない。例えば、外国のスパイリストを手に入れるには、その国の情報機関に浸透し、情報を盗む必要があるのだ。日本は通信傍受(シギント)や公開情報分析(オシント)は得意だが、人的な情報収集(ヒューミント)を担う機関の創設は喫緊の課題となっている。
しかし、日本の官僚文化の中で、諜報活動に不可欠な「異能の天才」を育成・活用することは容易ではない。スパイ活動は一般的な組織論では計れない部分が多く、特例的な法整備や柔軟な人材運用、特別な待遇が不可欠だ。また、最も重要な課題は、情報機関が多角的に収集した情報を、国のトップが正確に理解し、複数のシナリオから適切な判断を下せるかという「情報処理・判断能力」にかかっている。優れた情報が集められても、それを活かす能力がなければ意味をなさないだろう。イスラエルの首相が情報分析に全身全霊を傾けるように、日本の政治リーダーにもそのような能力が求められるのだ。
現代社会では、人々の偏見やヘイトを煽って自らの利益を得ようとする勢力が後を絶たない。このような状況において、地政学を学ぶ最大の意義は、感情的な情報や扇動に流されることなく、物事の背景にある論理や動機を冷静に分析し、自身の頭で判断する力を養うことにある。各国の行動様式や文化は、その地理的条件や歴史的経験によって形成された合理的な帰結であり、その論理を知ることで、他国への不必要な偏見をなくし、相互理解を深めることが可能となる。
著者は、自らの子どもたちを含め、若い世代が未来を生き抜くために、ヘイトや偏見に騙されない知識と視点を持ってほしいという願いからこの分野を解説している。地政学は、単なる知識ではなく、情報過多の時代を生きるための強力な「武器」となるだろう。