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放射線治療か? 手術か?
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2026年1月27日

男性は三人に一人、女性は二人に一人が罹る「がん」 しかし日本のヘルスリテラシーは世界最低レベルだという。 働く世代はどのようにがんに向き合うべきか?東大附属病院・中川恵一先生に聞いた。 <ゲスト> 中川恵一|東京大学医学部附属病院 東京大学医学部卒。放射線治療専門医、特任教授。89年スイスPaul...
知られざるがん検診と治療の常識: 放射線治療は手術に匹敵し、早期からの選択が命運を分ける
健康への意識が高まる現代社会において、がん検診は多くのビジネスパーソンにとって身近な話題である。しかし、どのような検診を受け、がんが見つかった際にどのような治療を選択すべきか、正しい知識を持っている人は少ない。多忙な日々を送る中で、自分の健康と向き合う時間を確保することは難しい。誤った情報や先入観に惑わされることなく、最適な選択をするためには、客観的で正確な情報を手に入れることが不可欠だ。
本記事では、東大附属病院・中川恵一先生の解説に基づき、多岐にわたるがん検診の選択肢と、欧米で主流となりつつある放射線治療の重要性、そして患者として治療とどう向き合うべきかについて、Q&A形式で解説する。

がんに関する知識、いわゆる「がんリテラシー」を高めることで、病に対する漠然とした不安を軽減し、より健康で豊かなビジネスライフを送るためのヒントを得ることができるだろう。
Q. 人間ドックは本当に必要なのか?
多くの人が自費で受けている人間ドックだが、国が必須とする検診ではない。費用は高額な上、必ずしも科学的根拠(エビデンス)が十分ではない検査項目が多く含まれていることが現状である。
例えば「腫瘍マーカー」は、がん細胞から分泌される物質を血液で調べる検査であるが、早期がんの発見においてその有効性は確立されておらず、良性疾患でも高値を示すことがあるため、人間ドックでむやみに受ける必要はない。有益な項目も一部あるが、人間ドックを最優先する必要性は低い。
Q. 優先的に受けるべき検診はどれか?
まずは自治体が行っている住民健診や、協会けんぽ加入の中小企業が受けられる生活習慣病予防健診を優先的に受けるべきである。これらは非常に安価に利用でき、その内容は住民健診とほぼ同等で、コストパフォーマンスに優れる。
法律で定められた項目は医学的根拠に基づいているため、費用対効果が高いと言える。特に若い女性に多く発生する乳がんや子宮頸がんは、これらの健診ではオプションとなることが多いが、必ず追加して受けることを推奨する。
Q. PET検査や尿検査など、最新のがん検査は有用ではないのか?
先進的な検査として知られるPET検査は、確かに一部のがん発見に有効なケースもある。しかし、健康な人がスクリーニング目的で受ける場合、高い費用に見合う効果が得られるかは不明であり、一定の被ばくリスクも伴う。世界的に見ても、PET検査を積極的にがんスクリーニングに利用している国は少ないのが現状だ。同様に、最近注目される尿検査で複数のがんを発見すると謳うサービスもあるが、現状ではPET以上に信頼性は薄い。

これらの検査は、自治体や協会けんぽの基本検診を全て受けた上で、それでもがんが心配な人が追加で検討する選択肢と捉えるべきである。基本の検診を飛ばして高額な先進検査を優先するアプローチは、医療的な優先順位から見て適切ではないと言える。
Q. 日本はなぜ「がん社会」になったのか?
日本は高齢者の就労割合が非常に高く、総就労人口に占める65歳以上の割合が世界一である。これは欧米のように、若い世代の移民労働力が少ない日本固有の社会構造が影響している。労働人口が減少する中で、女性や高齢者が労働を支える必要があり、結果として「高齢者も働き続ける社会」となっている。
かつて定年が55歳だった時代は、就労中にがんになる確率は男性で5%未満と稀であった。しかし、定年が65歳、さらには将来的に70歳、75歳と延長されるにつれ、就労期間中にがんに罹患する確率は男女ともに20%を超える。これにより、がんがリタイア後の病気ではなく、働きながら向き合う「働く人ががんになる社会」=「がん社会」へと変貌を遂げたのである。
ビジネスパーソンにとって、がんはもはや避けて通れない課題となりつつある。
Q. 日本で普及が遅れる放射線治療のメリットと現状は?
がん治療の選択肢として、日本では手術のイメージが強い。しかし、欧米ではがん患者の約6割が放射線治療を受けるのに対し、日本では4人に1人程度に過ぎない。この背景には、かつて胃がんが死因のトップだった時代、胃がんの治療に手術が最も適していたことから「がん治療=手術」という日本独自の文化が根付いたことが挙げられる。

放射線治療は、特に前立腺がんにおいて手術と同等の効果が期待できるとされており、その他にも喉のがん、肺がん、乳がん(温存療法)など、多くの種類のがん治療において重要な役割を果たす。この治療法の大きなメリットは、体への負担が少なく、仕事との両立がしやすい点にある。例えば、東大病院では前立腺がんの場合、通院5回、1回あたりの入退室含め7分、実際の照射は100秒という短時間で治療が完了する。痛みや熱さを感じることはなく、ほとんどのケースで保険が適用され、高額療養費制度を使えば自己負担は月約9万円に抑えられる。身体的、経済的負担を考慮すると、ビジネスパーソンにとって現実的な選択肢であると言える。
Q. がん告知を受けた際、後悔しない治療選択のために何が重要か?
がんと診断された時、多くの人はショックのあまり冷静な判断ができない。医師から提案された治療法にすぐ同意してしまうことも少なくないが、がん治療は「敗者復活戦のない一発勝負」と言われるほど最初の選択が極めて重要である。一度治療が始まると、別の病院での治療は事実上難しくなるため、初回の治療選択を誤ると取り返しがつかない事態になりかねない。このような状況を避けるために、がんと告知されても即決せず、一度家に持ち帰り、落ち着いてからセカンドオピニオンを求める勇気が必要である。

日本の医療システムでは、診断のための組織検査(生検)を外科医が行うケースが多く、その結果がんと判明すれば、外科医が専門とする手術が提案される流れが自然である。外科医にとっては、それが最も得意とする治療法だからだ。しかし、これでは患者が放射線治療などの別の選択肢を十分に検討する機会を失いやすい。
欧米では薬物療法を専門とする「腫瘍内科医」が中立的な立場で診断に関わり、患者が手術医、放射線治療医、腫瘍内科医の意見を聞いた上で、最適な治療法を自ら選択できるようなシステムが確立している。日本も、より患者本位の治療選択を支援するシステムへの移行が求められている。
Q. 日本のがん医療をより良くするために、我々に何が求められているのか?
日本のがん医療システムは、国民の「がんリテラシー」に大きく左右される。欧米では子供の頃からがん教育が行われ、患者は医師と対等に治療方針を議論できる知識を持っている。このような知識レベルの差が、医療システムの構造にも影響を及ぼしているのだ。
日本も「がん大国」である以上、より適切な医療システムを構築することは急務である。そして、その推進力となるのが私たち一人ひとりのがんリテラシー向上である。企業研修など、わずか1時間の学習でがんに関する正しい知識を身につけることは可能であり、その知識がいざという時に自分の命や生活を守ることにつながる。
適切な検診を受け、万が一がんが見つかった場合でも、冷静に情報を収集し、セカンドオピニオンを活用しながら納得のいく治療選択を行うことが、がん社会を生き抜くビジネスパーソンにとって最も重要な課題と言える。リテラシーの向上が、個人の不幸を減らし、社会全体の医療レベルを底上げすることに繋がるだろう。