PIVOT TALK ECONOMY
徹底予測:日本のインフレ。2035年までの3つの大変化
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2026年1月23日

これから日本はインフレの第二ステージに入ると語る、渡辺努・東京大学名誉教授。2035年までの第二ステージに何が起きるのか?政府・企業・個人はインフレ時代にどう動けばいいのか?これからのインフレ時代を徹底予測してもらった。 <ゲスト> 渡辺努|東京大学名誉教授 東京大学経済学部卒業、ハーバード大学P...
日本経済はデフレを脱却したのか?2035年までに起きる3つの「正常化」
日本経済は、約2年にわたる物価上昇を経て、長らく続いたデフレから新たなインフレ時代へと突入した。しかし、このインフレは一時的な現象にとどまらない。構造的な要因によって持続性を持ち、経済の「フェーズ」が大きく変化したのだ。これは過去20〜30年の日本を特徴づけてきた停滞からの脱却を意味し、今後2035年までに経済社会に3つの大きな「正常化」をもたらすと考えられている。
本記事では、この大変革期において日本経済がどのように進化するのか、そして個人や企業がどう備えるべきかを、専門家の見解を基に深掘りする。

Q. 日本経済はデフレを完全に脱却したのでしょうか?
物価上昇は続いており、統計的にはデフレから脱却したと言える状況だ。しかし、完全にデフレマインドを払拭できたわけではない。多くの人が「デフレの方が過ごしやすかった」と感じる要因が根強く存在している。例えば、年金生活者にとってはインフレによる資産価値の目減りは厳しい現実であり、中小企業経営者にとっては賃上げの原資確保に苦労する状況が続いている。これらの心理的抵抗がある限り、一度悪いショックが起これば、デフレへと逆戻りするリスクは決してゼロではない。

Q. 日本で長年賃金と物価が上がらなかったのは、どのような理由があったからでしょうか?
日本のデフレ期の長期化は、「最も成功した社会主義」と揶揄される状況を招いた。賃金も物価もほとんど動かない「硬直的な価格メカニズム」が常態化したのである。この転換点は、2000年代初頭に大手企業であるトヨタが、好業績にもかかわらずベースアップ(ベア)の中止を宣言したことに始まる。中国との国際競争激化を背景に、雇用維持を優先したこの決断は、他の企業や労働組合にも波及し、賃上げを「自粛」する社会的な規範を生み出した。結果として、価格競争力は維持できたものの、経済全体のダイナミズムを20年以上にわたり喪失する大きな代償を払ったのだ。
Q. これから日本経済に起きる「3つの正常化」とは何ですか?
現在のインフレは、日本経済が「持続性のあるインフレ」の段階へと移行したことを示唆する。今後2035年までの間に、長年日本経済を蝕んできた構造的な歪みが是正され、以下の3つの「正常化」が進むと考えられている。これにより、経済は新たな局面を迎えるだろう。
価格メカニズムの正常化:生産性に応じて価格や賃金が適切に変動するようになる。
実質為替レートの正常化:日本が海外と比較して過度に「安い国」ではなくなる。
政府債務の正常化:インフレによって政府の抱える借金の実質価値が減少する。
Q. 「価格メカニズムの正常化」によって、私たちの生活や賃金はどのように変わりますか?
デフレ期は賃金が一律で抑制され、経済の活力の源泉である価格メカニズムが機能不全に陥っていた。これにより、生産性が向上しても賃金が上がらない「過小評価」の労働者や産業が生まれた一方で、その逆の「過大評価」も発生し、リソースの非効率な配分を招いていた。
価格メカニズムの正常化は、生産性に見合った賃金が支払われるようになることを意味する。これは一見喜ばしいことだが、全員の賃金が揃って上がるわけではなく、能力や貢献度に応じて賃金格差が拡大する時代を告げている。特に若い世代の賃金が本来の価値に見合うようになる反面、そうでない場合は現状維持や相対的下落に直面する可能性がある。

したがって、個人にとっては常に自身の市場価値を高めるためのスキルアップや学び直しが必須となるだろう。デフレ時代の「一律の安定」から、努力と実力が報われる(あるいはその逆の)メリハリのある社会への転換が求められる。
Q. 「安い日本」と指摘される実質為替レートの円安傾向は、今後も続くのでしょうか?
約1995年頃から日本を支配してきた実質為替レートの円安トレンドは、日本の輸出産業が国際競争力を維持するために賃金を抑制してきた結果生じた側面がある。「安い日本」の現状は、単に国力が落ちただけでなく、価格メカニズムが機能せず賃金が過度に抑えられた結果生じたギャップが大きい。
価格メカニズムの正常化に伴い、今後は輸出産業においても生産性に応じた賃上げが進む。この「悪い習慣」が是正されれば、長期的には円安トレンドも収束するか、反転する可能性もある。日本での給料が、海外の同職種と比べて極端に安いというような歪みも、徐々に修正されるだろう。

Q. インフレは、巨額の政府債務問題を解決する「ボーナス」となるのでしょうか?
インフレは最大の債務者である日本政府に大きな「恩恵」をもたらす。政府が固定金利で借り入れた巨額の国債は、インフレによって実質価値が目減りするため、債務の返済負担が軽減される効果がある。試算によれば、このインフレによる効果で、日本の政府債務は約180兆円減少する計算となる。
しかし、これはデフレから2%程度のモデレート・インフレへ移行する際に発生する「一度限りのボーナス」であり、持続的な財源ではない点に注意が必要だ。この利益を恒久的な財源と見なし、財政規律を緩めれば、国債市場の信認を失い、長期金利が急騰するリスクがある。また、政府が180兆円の恩恵を受ける一方で、国債の約半分を保有する日本銀行には約90兆円の損失が生じることも考慮する必要がある。
Q. インフレ時代を個人や企業が生き抜くために、具体的にどのような行動が求められますか?また、政府はどのような政策をとるべきですか?
個人にとって、賃金格差が拡大する時代への適応が不可欠となる。もはや全員一律で賃金が上がらない「公平」なデフレ社会は終わりを告げる。自身が「上がらない側」に回らないよう、継続的なスキルアップや自己研鑽を通じて市場価値を高めることが生き残りの鍵を握るだろう。資本主義本来の効率性と格差拡大という二面性が明確に現れる中で、自身のキャリア戦略をより主体的に設計する必要がある。
企業は、価格を自由に設定できるようになった環境を最大限に活用すべきだ。経営者の才覚や企業の独自性が収益に直結する時代となるため、イノベーションを通じて高付加価値の商品やサービスを生み出し、強気な価格設定で利益を追求することが求められる。しかし、特に中小企業や下請け企業は、親企業との力関係により、コスト増を価格に転嫁できないという構造的な問題に直面する可能性がある。ここは政府が公正取引委員会などを通じ、積極的な法改正や指導を行い、親企業と下請け企業間の関係性を正常化させる介入が不可欠だ。

政府は、消費税減税や電力料金補助金などで無理に物価を抑えようとする「悪い積極財政」を避けるべきだ。これは価格メカニズムの正常化という時代の流れに逆行し、デフレマインドを温存する結果にしかならない。本当に必要なのは、物価を歪めることではなく、物価上昇によって生活が苦しくなる人々に対して、直接所得を補償する政策だ。例えば、年金生活者に対しては、年金支給額を完全にインフレ率に連動させる「インフレ・スライド」の実施が有効だろう。また、構造的な問題である下請け改革を進め、市場の歪みを是正することで、経済全体のダイナミズムを最大限に引き出すべきである。