
CESレポート:NVIDIAは自動運転を制するのか?
CES 2024総括: フィジカルAIの主役は自動車だった
CES 2024では、昨年注目された「フィジカルAI」という概念の主役が、ロボットではなく自動車であることが鮮明になった。
AI技術をリードするNVIDIAが自動運転ソリューションに重点を置いたプレゼンテーションを行い、ソニー・ホンダによる「AFEELA」がブロックチェーン技術を活用した新たなモビリティデータ管理を提案した。これらの動向は、自動車が「物理的なものにAIが搭載される」最先端の領域として進化を遂げたことを示している。
この変化は、従来の自動車産業の構造を大きく揺るがし、新たな競争軸を提示する。
本稿では、CES 2024で示された自動運転の未来とその競争の行方をQ&A形式で解説する。

Q. CES 2024で自動車がフィジカルAIの主役になった背景は何か?
2023年に物理的なものにAIを搭載するフィジカルAIの概念が提起された際、多くの人々はロボットがその主役になると予想した。
しかしCES 2024で蓋を開けてみると、市場の主役は自動車であった。
自動車には既に確立された巨大な市場と購入者が存在するため、高性能AIを搭載するメリットが即座に実社会での価値に転換される。
一方、ロボットはまだ普及段階にあり、その応用と市場性はこれからである。この実用性と市場規模の違いが、フィジカルAIの主役の座を自動車が獲得した大きな理由であった。
Q. NVIDIAは自動運転エコシステム構築においてどのような戦略を進めているか?
NVIDIAはCES 2024で、CEOのジェンスン・フアンがプレゼンテーションの約30%を自動車分野に割き、同社のAI戦略における自動運転の重要性を明確に示した。
NVIDIAはAI開発の半導体だけでなく、エンドツーエンドのソリューションを提供することで、自動運転システムの構築を全面的に支援する戦略を採用する。

具体的には、自動運転用生成AIモデル「Alpamayo」を発表し、メルセデス・ベンツや新興EVメーカーのルシードなどがNVIDIAのプラットフォーム採用を表明した。
これは開発者にとって、NVIDIAのエコシステムを活用すれば容易に自動運転開発を進められるという大きなメリットを提供する。
さらにNVIDIAは、シーメンスとの提携により、空力設計など自動車製造プロセス自体にもAIを導入し、自動車産業全体への影響力を拡大している。
汎用性の高い開発ツールを提供することで、自動車メーカーやサプライヤーが容易に自動運転開発に参入できる環境を築き、AI半導体領域の覇権を狙っているのだ。
Q. 自動運転分野における国際的な競争と主要な競合状況はどうなっているか?
自動運転向けAI半導体の分野では、NVIDIAの他にGoogleやAmazonが独自のGPUを開発し、長年のライバルであるAMDもこの競争に加わっている。
現状は各社が市場育成フェーズにあるため協調的な姿勢を見せるが、将来的にはL4完全自動運転の領域においてNVIDIAが市場の大きなシェアを占める可能性があると見られる。
NVIDIAは開発環境ごと提供することで、デベロッパーを自社エコシステムに囲い込む戦略が巧みである。
独自のハードウェア開発に多大なリソースを割けない企業でも、NVIDIAの汎用開発ツールを利用すれば容易に自動運転開発に参入できるため、これがマス市場獲得につながる可能性が高い。
一方で、米中対立の影響を受け、中国ではファーウェイがNVIDIAの代替となるエンドツーエンドのソリューションを提供し、独自の巨大エコシステムを構築している。
これにより、グローバルな自動運転エコシステムは米国中心と中国中心の二極化が進む見込みだ。日本メーカーは自社の強みであるSOC(System-on-a-chip)と、NVIDIAのような海外製AI半導体を組み合わせるハイブリッド戦略が求められるだろう。
Q. ソニー・ホンダ「AFEELA」は自動運転市場にどのような新たな価値を提示するのか?
ソニー・ホンダが発表した電気自動車「AFEELA」は、コンセプトカーから量産を意識したプロトタイプへと進化を遂げた。
その最大の魅力は、大画面で映画鑑賞やPlayStationゲームを楽しめるコンテンツリッチな車内空間であり、レベル4自動運転も搭載予定だ。
しかし、より本質的な革新は、モビリティデータをブロックチェーン技術(クリプト)で管理する構想にある。

これにより、ユーザーは自身の移動データの所有権を維持し、データ提供の対価としてポイントなどのインセンティブを受け取ることが可能となる。これは巨大プラットフォーマーによるデータ独占とは一線を画す分散型のデータ管理であり、米欧のデータ規制の流れにも合致する先進的な取り組みだ。
「AFEELA」の主なターゲットは、テクノロジー感度が高く、新しい体験を求める米国のアッパーミドル層のIT従事者などである。
レガシー(しがらみ)を持たないソニーだからこそ、ゲーム業界を革新したように、自動車で新しいユーザー体験を創造し、市場に浸透するポテンシャルを秘めている。
Q. 自動車産業の変革期において、各国のサプライヤーやOS開発の動向は?
自動車産業の構造変革に伴い、従来のサプライヤーも大きく変貌している。
欧州のメガサプライヤーであるボッシュやバレオは、単なる部品メーカーから脱却し、センサー、半導体、クラウド、AIコックピットに至るまで、SDV(Software-Defined Vehicle)に必要なフルスタックソリューションを提供する巨大プレイヤーと化す。
彼らは自ら先行投資を行い、最先端のSiC半導体工場を米国に建設するなど、自動車メーカーに先行して業界の変革を主導する。
また、車載OSの覇権争いも激化しており、元ブラックベリーのQNXが汎用OSを提供する一方、体力のある自動車メーカーは独自OS開発を進める。
CES自体も、もはや新車発表の場ではなく、自動車を支えるテック企業が技術を発表する場へとその役割を変えた。
例えばタイヤメーカーのコンチネンタルはソフトウェア部門を「Omobio」として分社化するなど、より迅速な意思決定が可能なソフトウェア企業への組織変革も進む。
Q. 自動運転の社会実装における先進国の現状と日本の立ち位置はどうか?
自動運転の社会実装においては、米国と中国がダントツで先行している。
Amazon傘下のZooxがラスベガスで一般向けサービスを開始し、Waymoやテスラも大規模な実証実験とサービス提供を進める。これらの国々では、自動運転が実現するためのプラットフォームやエコシステムが既に構築されており、新たな企業は既存の「土台」の上に迅速に事業展開が可能だ。

一方、ドイツはボッシュのようなメガサプライヤーがCESでの技術発表を優秀なAIエンジニア採用の場と公言するなど、自国エコシステムの確立と人材確保に強い意欲を見せる。
製造業の強さを持つドイツが、デジタル領域の主導権を米国に譲らないという国家戦略を示していると言えるだろう。
日本は「ものづくり」における高い品質と技術力を誇るものの、AIやソフトウェアといった付加価値の源泉となる分野では、人材不足や海外プラットフォームへの依存といった弱点を抱える。
これにより、世界の競争において日本が立ち位置を維持できるかが懸念される。
Q. 日本企業がフィジカルAI時代に競争力を維持するために必要な戦略は何か?
日本はAIエンジニアの不足という課題に直面しており、海外人材の積極的な雇用や先進プラットフォームとの連携が不可欠だ。
ドイツが優秀なAI人材をグローバルに確保しているのに対し、日本は技術の中核を海外に委ねてしまうリスクがある。
フィジカルAI時代においては、機械そのものの性能に加えて、それに搭載されるAIやソフトウェアが付加価値の大部分を占めるようになる。
「ものづくり」がどんなに優れていても、このソフトウェアの部分が脆弱であれば、利益の多くが海外のプラットフォーマーに流れる可能性が高まるだろう。
工場自動化への投資においても、海外では人手不足に対応するため、自動化技術への投資が活発だ。
一方で、日本の製造現場は「真面目な現場の人」の働きに依存する傾向が強い。為替などで利益が出ている今こそ、その利益を事業構造の変革とAI人材育成に大胆に投資することが、日本の国際競争力維持のために急務となる。