PIVOT TALK BUSINESS
世界の富裕層は日本で何を食べているか
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2026年1月18日

今、世界の富裕層が「美食」を求めて日本の地方に殺到している。なぜ世界の富裕層は「地方」に注目するのか?今特に注目の名店は?ガストロノミープロデューサーの柏原光太郎氏に聞いた。 ▼プロフィール 柏原光太郎|ガストロノミープロデューサー 文藝春秋で「週刊文春」「文藝春秋」編集部、文春文庫部長等を経て、...
世界の富裕層が日本の「美食」に熱狂する理由:ガストロノミーツーリズムの最前線
150万円を投じてヘリコプターで三重の離島の寿司屋へ。一回の日本旅行で600万円近くを費やすような富裕層が世界には多く存在する。彼らは都市の高級店には見向きもせず、誰も知らない地方のレストランを求めて世界中を飛び回っている。
「超富裕層のフーディー」たちが今日本の「美食」に殺到する裏側には、単なる贅沢ではない新たな旅行の価値観と、地方創生の可能性が秘められている。ガストロノミーツーリズムの最前線を深掘りする。

Q. ガストロノミーツーリズムとは具体的に何を意味するのか?
ガストロノミーツーリズムとは、食を単なる消費ではなく、文化として楽しむ旅のスタイルを指す。これは美食に加え、その土地の歴史、地理、風土、そして人々の生活背景までを含めて食を味わう学術的なアプローチが起源である。一般的な「美食」という言葉が持つネガティブな「金に飽かせて食べまくる」というイメージとは一線を画す。食の楽しみを旅の中心に据え、その背景にある物語や文化を深く体験しようとする観光スタイルこそが、真のガストロノミーツーリズムと言える。
Q. 富裕層はなぜこのような食の旅に多額の費用を投じるのか?
現在の新富裕層、特に30〜40代の若年層は、既存の高級ブランドや有名店での画一的な体験には価値を見出さない。彼らはまだ知られていない地方の名店を自ら「発見」し、その独自の魅力をSNSで発信することに喜びとステータスを感じている。

さらに彼らは、移動時間を極限まで短縮する「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する。例えば、三重の寿司店へ5〜6時間かかる陸路ではなく、1時間半のヘリコプター移動に140万円を支払う。これは時間こそが究極の贅沢であるという価値観の表れである。
Q. 世界の富裕層にとって日本の食がこれほどまでに魅力的な理由は何か?
日本が旅行先として世界中で選ばれる最大の理由は「美味しいから」という調査結果がある。日本は南北に長く、四方を海に囲まれているため、地域ごとに魚種や味わいが全く異なる多様で高品質な食材が豊富に存在する。この豊かな食材の質と多様性が、海外の食通たちを強く惹きつけている。
日本の食文化は素材の味を最大限に引き出すことに特化しており、料理そのものに加え、地域ごとの食材の違いに興味を持つ外国人が増加している。自国では得られないユニークな食体験こそが、彼らが日本を訪れる大きな動機となるのだ。
Q. 旅の計画は「食ファースト」へ移行したのか?
従来の旅行計画では「目的地→宿泊施設→食事」という順序が一般的であった。しかし、近年では特に若い世代を中心に、まず行きたいレストランを予約し、その後に旅行の場所や宿泊先、交通手段を手配するという「食ファースト」のスタイルが浸透しつつある。これは旅行者の3割以上に見られる現象である。
日本、特に地方のレストランは、欧米と比べて席数が少ないため、予約が非常に困難である。この予約競争が、食ファーストの傾向をさらに加速させている要因の一つと言えるだろう。

Q. ガストロノミーツーリズムは地方創生にどのように貢献しているのか?
ガストロノミーツーリズムは、大都市に集中する観光客を地方へ分散させることで、オーバーツーリズムの解消に貢献する。アンケート調査では、インバウンドの9割が地方への訪問を希望しているものの、実際には交通や宿泊の不便さから3割しか地方を訪れていないのが現状である。
観光名所が一度行けば満足する性質であるのに対し、食は季節ごとに変化するため、リピート訪問の強力な動機となる。食を通じて地方のファンを増やし、「関係人口」を創出することで、持続的な地域経済の活性化が期待できるのだ。
地方創生においては、予算を広く薄く分配するのではなく、傑出したレストランやシェフといった「食の変態」に一点集中投資することが有効である。その一人の天才が世界中の人々を惹きつけ、地域全体に経済効果を波及させる起爆剤となる成功事例が複数存在する。
Q. 地方の美食旅行で得られる具体的な感動と価値とは何か?
究極の美食体験は「現地」でしか得られないという点で、地方には絶大な強みがある。物流が進化した現代においても、食材は時間経過で劣化し、鮮度が味に与える影響は計り知れない。産地で獲れたての魚から引いた出汁の味は、数日後に都市で同じ魚を使っても再現不可能なほど、全くの別次元なのだ。

富山の山奥、人口わずか400人の村にあるオーベルジュ「レヴォ」は、車でしかアクセスできない不便な場所にも関わらず、年間8000人(うち1000人は海外から)を集客する驚異的なデスティネーションレストランである。ここでは、提供された米や器に感銘を受けた客が生産者を訪ね、それが海外輸出に繋がるなど、地域産品の最高のショーケースとして機能している。
ガストロノミーツーリズムの真価は、目的の高級料理だけでなく、朝食で提供される伝統的な固豆腐のように、現地でしか味わえない安価で本物の味との偶然の出会いにもある。東京では輸送不可能な足の早い食材や、規格外で市場に流通しないものの格別に美味しい地元の食材を活用することで、独自の価値を創造し、人々がわざわざ足を運ぶ理由となっている。