
杉村太蔵も驚く「新」富裕層の世界【クレディセゾン岸田大輔】
知られざる「新富裕層」の世界?多様な価値観と最新ビジネスアプローチを解き明かす
日本における富裕層の定義や価値観は大きく変化している。かつては資産1億円以上とされたが、現代の富裕層は多様化し、ビジネスで真にターゲットとすべき層は資産3億円以上に設定する必要があると言われている。なぜなら、近年増えている「いつのまにか富裕層」と呼ばれる層は、資産を増やしても消費行動が慎重な傾向にあるからである。
本稿では、数多くの富裕層と接してきた専門家の知見に基づき、現代富裕層の分類、彼らのユニークな消費・投資行動、そして彼らを対象としたビジネスを成功させるための秘訣を探る。

Q. 現代日本において、ビジネスの対象となる「富裕層」の定義はどのようなものだろうか?
野村総合研究所の定義では、富裕層を「純金融資産1億円以上5億円未満」と定めている。しかし、富裕層向けビジネスの視点から見ると、真のターゲットは「金融資産3億円以上」の層だとする考えがある。資産が1億円を超えただけでは、まだ彼らの消費行動に大きな変化は見られないと言う。
これは近年の株高などにより、意識せずに資産が形成された「いつのまにか富裕層」と呼ばれる人々が多く存在するためである。この層は堅実な生活を続け、資産を保全しようとする意識が強く、積極的に消費活動を行うことは少ない。彼らがラグジュアリーな消費に傾倒し始めるのは、おおむね資産3億円を超えてからである。
Q. 「新富裕層」と「旧富裕層」の価値観やライフスタイルには具体的にどのような違いがあるのか?
富裕層の価値観は大きく二分される。一つは「旧富裕層」で、物質的な豊かさや明確なステータス、そしてブランド価値を重視する。もう一つは「新富裕層」で、自分自身の価値観やユニークな体験、そして合理性を最優先する。

例えば「食」において、旧富裕層はミシュラン星付きレストランや格式高いホテルのダイニングといった「安定」と「評価」された場所を好む。対照的に新富裕層は、予約困難な最先端のレストランや、他では得られないサプライズに満ちた食体験(例えば、地方の秘境で有名シェフの寿司を堪能するなどのパーソナルな体験)に価値を見出す。食はビジネスにおけるコミュニケーションツールであると共に、家族の絆を深める重要な時間と捉えられているのだ。
「住居」に関しては、旧富裕層は広大な敷地を持つ豪華な戸建ての所有を重んじる。一方、新富裕層はタワーマンション上層階を賃貸し、所有にかかるコストを投資に回すことで、結果的に実質無料で最高の住環境を得るといった「レバレッジ」思考を持つ。
「車」も同様で、旧富裕層は高級車を所有しそのステータスを示す。しかし新富裕層は、リセールバリューが高い車種を「投資商品」として購入し、維持コストを抑えながら所有する。日常の移動には実用的な高級ミニバン(例: アルファード)を選び、趣味の車と移動の車を使い分ける。

また「健康」に対する意識も異なる。旧富裕層は病気の「早期発見・早期治療」のため人間ドックを受けることが多い。新富裕層は「アンチエイジング」や「リバースエイジング」に関心が強く、人間ドックを現在の健康状態の「確認」と「パフォーマンス向上のためのスタート地点」と捉え、未来の自分への投資と位置づける。「いつまでも活動的な自分でいたい」という「変身願望」に強く影響された消費行動が彼らを動かす傾向にある。
Q. 富裕層をより深く理解するためには、どのような分類方法が有効だろうか?
富裕層を理解する上で有効なのが、「新富裕層/旧富裕層」という価値観の軸に、「攻める/守る」という行動様式の軸を加えた4象限による分類である。このマトリックスは、各富裕層の行動原理や欲求をより細かく理解することを可能にする。
例えば、タワーマンション上層階を賃貸で利用し、浮いた資金を投資に回すのは「攻める新富裕層」の典型的な行動パターンである。しかし、中には同じ新富裕層でも、将来のために物件を「所有」することを好む「守る新富裕層」もいる。同様に、相続によって得た資産を伝統的な方法で堅実に守りつつも、最新のアンチエイジング治療に積極的に投資する「攻める旧富裕層」といったタイプも存在するのだ。

杉村太蔵氏は、単に金銭的リターンだけでなく、企業の成長が社会をどのように良くするかという「ストーリー」を重視して投資を行う点で、未来志向の「攻める新富裕層」を体現する人物と言える。自身の目標として「90歳以上でサーブアンドボレーをするテニスプレイヤーになること」、さらに「90歳以上限定で優勝賞金1000万円のテニス大会(泰蔵カップ)を創設し、自らも出場して優勝する」という壮大な夢を語っている。これは、自己実現と価値観の追求に、資産を活用する新富裕層の姿勢そのものである。
Q. 富裕層にビジネスをする上で最も重要なアプローチ方法とは何か?
富裕層向けビジネスにおいて最も重要な原則は「営業をしないこと」である。一方的な売り込みや推し付けは、かえって彼らの信頼を損なうことになりかねない。富裕層は時間も情報も限られているため、彼らが何かを求め、困った時に、その人(コンシェルジュや担当者)の顔が最初に浮かぶような存在になることが成功の鍵だ。
彼らの「これをお願いしたい」「こんなことをしたい」という要望を先回りして察知し、あるいは実際に依頼があった際に、最高のソリューションを提供できるような「信頼されるハブ」となることを目指す。あらゆる分野で万能な専門家になる必要はなく、広い知識を持ち、それぞれの分野の最適な専門家を紹介することで信頼を獲得する戦略が有効である。
Q. 富裕層が特に関心を寄せる多様な分野とはどのようなものか?
富裕層の関心事は多岐にわたる。初期は8つの主要カテゴリー(食、旅行、アート、ゴルフなど)と捉えられていたが、現在では19ものカテゴリーに増大しているという。これらのカテゴリーには、アートやワイン、資産運用はもちろんのこと、最新の医療技術(人間ドックなど)から子供の教育まで、ライフスタイルのあらゆる側面が含まれている。
特に興味深いのは「カラーダイヤモンド」のような投資対象である。無色のダイヤモンドに微量の化学変化で色がつくカラーダイヤモンドは極めて希少であり、持ち運びが容易でインフレに強い現物資産として世界中の富裕層がオルタナティブ投資として保有している。数十億円単位の価値を持つカラーダイヤモンドも存在し、その保有者は世界中に点在すると言われる。これは、伝統的な投資商品とは異なる価値基準で動く富裕層の投資マインドを示す典型例だ。
「資産運用」においても新富裕層と旧富裕層ではアプローチが異なる。旧富裕層は専門家に一任する傾向があるが、新富裕層はアドバイスは求めるものの、最終的な決定は必ず自分で行う。あらゆる事柄において、自分の納得がいくまで徹底的に追求し、主体的に判断を下すのが彼らの特徴なのである。
さらに富裕層は、人生を逆算して「死ぬまでにやりたいことリスト」を作成し、目標達成に向けて行動するなど、一日一日を無駄にせずゴールを設定して邁進するマインドセットを持つ人も少なくない。この未来志向が彼らの多岐にわたる関心事や積極的な投資行動の源泉になっていると考えられる。
