2026年、円の命運を分ける年に? 金融専門家が見る日本経済の厳しい現実
長引く円安は私たちの生活やビジネスにじわじわと影響を及ぼしている。そして、この状況は2026年も変わらない見通しだと多くの金融専門家は指摘する。彼らが語る日本の金融政策の課題、財政の脆弱性、そして見え隠れする国民生活への深刻な影響とは何か。このQ&Aを通じて、日本経済が直面する現実と今後の行方を探る。

Q. 2026年の円相場、今後の見通しはどうなるのか?
2026年も円安傾向は継続し、年末に向けてドル円相場は165円台まで上昇する可能性が高いと予測されている。ドル円相場は、本年のドル高主導で年末に165円まで上昇する。円の根深い弱さ(実質金利マイナス、対外投資)とドルの強さ(米利下げ期待の後退)が重なるため、ユーロ円などのクロス円はレンジ取引となる可能性がある。
日本の円は主要通貨のみならず、人民元やシンガポールドルといったアジア通貨に対しても歴史的な安値水準にある。人民元円相場は1992年以来33年ぶり、シンガポールドル円相場は1982年以来43年ぶりの高値水準に到達した。実質実効為替レートで見ても過去最安値まで残り僅かな水準にある。
Q. 日本銀行が利上げを実施しても円安が進むのはなぜか?その背景にある日銀のジレンマとは?
日銀は2026年に年2回の利上げ(4月と10月)を実施する可能性が高いとみられている。しかし、現在の日本のインフレ率は高水準にあるため、仮に利上げをしても「ビハインド・ザ・カーブ(インフレの後塵を拝している)」状態は解消されず、本格的な円高にはつながりにくい見込みだ。これにより、日本経済は「大幅な金利上昇を許容する」か「さらなる円安進行を許容する」かの選択を迫られることになる。
さらに、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどの国々は利上げ期待が浮上する一方で、日銀は他国に比べて利上げに慎重な姿勢を続けているため、「周回遅れ」のリスクが高まっている。名目金利を多少上げたとしても、インフレ率がそれを上回る限り実質金利はマイナスにとどまり、通貨安の圧力は継続する。

加えて、2026年には日銀審議委員のポストに空席が生じるため、高市政権が金融緩和を志向する「リフレ派」の人物を指名する可能性がある。これは金融政策の正常化をさらに遅らせ、結果として円安を助長する政治的リスクもはらんでいる。
Q. 長期金利の上昇は、日本の財政にどのような影響をもたらすのか?
金融政策が正常化に向かい、インフレが継続した場合、日本の10年物国債の金利は現在の2%台から3%を超え、場合によっては4〜5%にまで達する可能性がある。現在の政策金利が30年前の「日本が金利を高水準で更新していた」頃とほぼ同水準であり、かつインフレ率が当時よりもはるかに高い状況を考慮すると、金利の上昇余地は大きいと考えられるからだ。
この金利上昇は、国の財政に甚大な影響を与える。金利が1%上昇した水準で維持されるだけで、2034年度には利払い費が年間25兆円も増加する見込みだ。これは現在の消費税収に匹敵する規模であり、税収の自然増では到底賄いきれない額である。
「国債の半分を日本銀行が保有しているため、利払い費の増加は問題ない」という見方があるが、これは誤解だ。日銀以外の機関が保有する国債が500兆円規模で存在し、それに対する利払いは国庫から支出される。また、日銀保有分についても、金利上昇に伴う民間銀行の当座預金への付利支払いが増えるため、結果的に政府と日銀の双方に利払い負担が増加する構造となっている。
今後、政府は「財政健全化のため金利上昇を受け入れる」のか、「金利上昇を抑え込むよう日銀に圧力をかける」のかという究極の選択を迫られるだろう。もし後者を選べば、そのしわ寄せは全て円に跳ね返り、急激な円安を招く恐れがある。
Q. 為替介入は円安阻止の「最後の砦」となりうるのか?その効果には限界があるか?
165円ラインに到達すれば、日本政府が為替介入に踏み切る可能性はあると見られる。しかし、為替介入の効果は限定的であり、状況次第では効果が見られないケースもある。

過去の介入事例を見ると、ドル高が主導してドル円が上昇する局面では、日本の単独介入はほとんど効果を上げていない。2022年や2024年の大規模介入も、米国のCPI下振れなどドル安要因が重なって初めて円高に転じる結果となった。このことから、介入だけで円安の大きな流れを変えることは困難であるといえよう。
日本が保有する外貨準備も約170兆円と、無限ではない。大規模かつ持続的な介入は財源の限界に直面するため、為替介入は一時的な抑制策にしかならず、「最後の砦」としての信頼性は薄い。
Q. 家計の資産形成はどのように変化する可能性があるか?「キャピタルフライト」は現実になるか?
実質金利が大幅なマイナス水準で維持されれば、国民は銀行預金に資金を置いておくと、購買力が確実に目減りすることに気づき始める。現在の家計金融資産の約半分が円建ての現金預金で占められている現状を鑑みると、これは極めて危険な状況である。
この状況が続くと、預金が目減りすることを避けるために、家計が資産を円から外貨建て資産(預金、債券、投信など)や日本株へと本格的に移し始める「キャピタルフライト」が現実となる可能性がある。この動きは、さらなる円売り圧力を生み、円安を加速させるだろう。
さらに、日本企業による年間約30兆円規模の対外直接投資という構造的な円売りフローが続いていることも、円安の根強い要因となっている。2026年には米国に対する大型投資の約束もあり、この資金流出傾向は今後も変わらないとみられる。
Q. 今後、日本は「見せかけの好景気」の先に「トルコ化」するリスクがあるのか?
現在の日本経済は、円安の進行によって、名目上は株価の上昇、企業収益の増加、税収の伸びといった現象が起きている。これは一見すると好景気に映るかもしれない。しかし、実質的な国民生活の豊かさは改善せず、輸入品の価格上昇などインフレ圧力が高まっている現状だ。
専門家は、このような状況が、通貨安と高インフレに見舞われたトルコやアルゼンチンの初期段階と類似していると警鐘を鳴らす。国民の多くは円安の痛みを目に見える形で感じにくく、一方で資産を持つ富裕層は株高などで恩恵を受けるため、通貨安の悪影響が認識されにくいという点が共通している。

さらに深刻なのは、政府のインフレ対策が、金融引き締めではなく、補助金や現金給付などの財政出動に頼っている点だ。これは「火に油を注ぐ」行為であり、むしろインフレをさらに加速させる恐れがある。選挙を意識した受けの良い政策が、長期的には経済状況を悪化させるという構造的な問題に、日本は直面している。
