2026超予測
地経学の潮流:資源・宇宙・AI
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2026年1月4日

地経学の視点で資源、AI、宇宙について解説。EUの方針転換、中東のAIハブ構想とは?日本の宇宙予算が10年で倍増という意外な事実も。国家の強みを把握する「経済インテリジェンス」の重要性と日本の針路を紐解く。 <ゲスト> 鈴木一人|地経学研究所 所長 立命館大学大学院修士課程を修了後英国サセックス大...
2026年、世界経済と宇宙の行方を読む:地経学研究所所長が語る新たな秩序
現代の国際関係において、経済的相互依存を地政学的影響力として行使する「地経学」の重要性が増している。2026年には、世界の資源、産業構造、宇宙開発など多岐にわたる分野で大きな変革が予想される。
本記事では、地経学研究所の鈴木一人所長が指摘する2026年の注目点をQ&A形式で深掘りする。

Q. EUの脱炭素戦略はなぜ後退しているのか?
EUは、高い規制を課しこれをグローバルスタンダードにすることで自国産業の競争力を高める「ブリュッセル効果」というビジネスモデルを採用してきた。これは、他国企業がEU市場へのアクセスを得るために、EUの高い環境基準に合わせる必要があり、結果的にEU企業が優位に立つことを目指す戦略である。
しかし、電気自動車(EV)分野では状況が異なる。EUが2035年までのガソリン車全廃を掲げEV化を進める中、中国企業が想定を上回るスピードでEV市場を席巻した。これにより、当初EU企業が享受するはずだった優位性が失われ、むしろ中国企業にアシストする結果となった。
この事態を受け、EUは電気自動車に関する一部方針を後退させ、ハイブリッド車も認める動きに出た。これは、地球環境保護という理想よりも自国産業の保護を優先する、経済的現実が前面に出た結果と言えよう。EUが強力な脱炭素政策を打ち出しにくい状況が生まれている。
Q. エネルギー地政学において中東が果たす新たな役割とは何か?
脱炭素社会の進展は、世界のエネルギー地政学に新たな変化をもたらす。石油消費が減少する一方で、中東地域は豊富な太陽光資源を活用した再生可能エネルギー生産の適地となり、エネルギーが余剰となる状況が生まれると予測される。

この余剰エネルギーは、膨大な電力を消費するAIデータセンターの運用にとって極めて有利である。中東が安価で豊富なエネルギー供給地となることで、AI開発の中心地へと変貌する可能性を秘める。すでに、UAEのG42社を巡っては、中国と米国の間でAI分野における影響力争奪戦が繰り広げられている。
また、ウクライナ戦争の停戦期待は、ロシア産エネルギー供給の再開観測へと繋がり、原油価格の押し下げ要因となる。停戦後のロシアへの経済制裁解除の時期や範囲も、世界のエネルギー市場に大きな影響を及ぼす注目点となるだろう。
Q. レアアース問題で、西側諸国はどのように中国に対抗すべきなのか?
中国はレアアースを重要な地政学的な「武器」として認識しており、その輸出規制は強力な外交ツールとなりうる。この状況に対し、西側諸国は中国へのレアアース依存からの脱却を急務としている。

しかし、脱中国依存には二重の壁がある。一つはコストで、オーストラリア産レアアースは中国産と比較して価格が5倍にもなる場合があり、経済合理性の観点から代替が難しい。もう一つは環境負荷の問題である。レアアースの採掘や精製には硫酸や放射性物質の使用が伴い、先進国では環境規制が障壁となる。
さらに、リチウムやコバルトといった重要鉱物の鉱石自体は中国国外で採掘されることが多いが、中国はこれらの鉱山と長期契約を結び、国内での精製・加工工程を独占している点が問題だ。西側諸国が各国バラバラに対処すれば、互いに競争し、結果的に中国を利することになるため、日米欧、オーストラリア、カナダなどが連携し、共同でサプライチェーンを再構築する必要があるだろう。
Q. 米国の宇宙開発における「月 vs. 火星」論争の現状はどうなっているか?
イーロン・マスク率いるSpaceXは、火星移住を目指す巨大ロケット「スターシップ」の開発を進めており、2026年には有人飛行が実現する可能性も高い。一方、米国の国家レベルの宇宙政策では「月か火星か」という長年の論争が続いている。
「月」派は、地球に近い月が実験や資源利用に適していると主張する。特に、月の南極に存在する水(氷)は、ロケット燃料にもなりうるため、月の基地建設の重要性を訴えている。「火星」派は、月は一度到達した場所であり資源も限られる一方、大気を持つ火星の方が将来的な人類の居住に適しており、より高度なフロンティアだと見なしている。この論争は政権交代ごとに政策目標が変化する原因にもなっている。
新NASA長官に就任したジャレット・アイザックマンの手腕が注目されるが、彼が月を重視するNASAの方針を維持するのか、それともイーロン・マスクに近い立場から火星への傾斜を進めるのかが今後の焦点となる。
Q. 日本は宇宙開発において防衛面でどのような進展を見せているのか?
日本は世界でも珍しいほど宇宙予算が急増している国の一つである。過去10年間で宇宙予算は倍以上に増え、総額で約8000億円に達し、その傾向は2026年も続く。この予算拡大は、特に宇宙の防衛分野での活用に焦点が当てられている。
防衛省は2025年に「宇宙領域防衛指針」を策定し、日本の安全保障における宇宙の役割を明確化した。2026年はこの指針に基づき、偵察衛星の配備、ミサイル防衛への活用、通信衛星網の強化など、具体的なプロジェクトが動き出す「宇宙防衛元年」となろう。
また、日本の宇宙技術開発を支援する「宇宙戦略基金」のプロジェクトが、2026年に中間評価(ステージゲート審査)を迎える。これは、支援を受ける宇宙スタートアップ企業の成果が厳しく問われる場であり、日本の宇宙産業の将来を占う重要な試金石となるだろう。
Q. 地経学時代において「経済インテリジェンス」の重要性が高まっているのはなぜか?
2026年は、経済的な要素が国際政治に深く影響を及ぼす「地経学」の時代が本格化する年となろう。この新たな時代において、単なる表層的な関係だけでなく、各国の産業能力や特定の資源への依存度といった具体的な経済データを深く掘り下げ、実態を把握する能力が不可欠である。

自国と他国の真の強みや弱みを詳細に分析し理解するこの能力を、「経済インテリジェンス」と呼ぶ。経済インテリジェンスは、国家の安全保障を確保し、戦略的な意思決定を下す上で、もはや不可欠な要素となっている。中国のレアアース依存度や各国の造船能力といった具体的な情報が、国際的なパワーバランスを理解する上で重要だ。
日本はこの分野において世界に先駆けて取り組みを進めている。経済産業省を中心に「ジオエコノミックフォーラムウィークス」のようなイベントが開催され、シンクタンクのネットワーク構築や政府系シンクタンクの設立構想も進む。日本は経済インテリジェンスのハブとして、この新しい時代におけるリーダーシップの確立を目指している。