PIVOT TALK BUSINESS
中国依存脱却のためのエネルギー戦略
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2025年12月26日

柏崎刈羽原子力発電所の再稼働で、より一層重要視されているエネルギー問題。 日本エネルギー経済研究所 専務理事の小山堅氏は、原発は再稼働ではなく新設が必須になると語る。 中国への依存からどう脱却するのか?再エネ4~5割達成するための課題とは? 日本のエネルギー戦略について聞いた。 ▼プロフィール 小...
原発再稼働から読み解く、日本エネルギー問題の現状と未来戦略
脱炭素とエネルギーの安定供給、そして経済性という「トリレンマ」に直面する日本。近年、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所が再稼働に動き出すなど、原子力政策の転換点に差し掛かっている。また、生成AIの急速な普及に伴う電力需要の爆増は、世界的な課題として浮上している。こうした複雑な状況の中、日本のエネルギー問題はどこへ向かうのか。エネルギー経済研究所の小山堅氏が、最新動向と今後の展望を深く分析する。
本稿は、その議論をQ&A形式で掘り下げた記事である。日本のエネルギー安全保障、サプライチェーンのリスク、そして日米協力の可能性まで、多角的な視点から解き明かす。

Q. 東京電力の柏崎刈羽原子力発電所が再稼働に向かいますが、これはどのような意義があるのでしょうか?
2011年の福島第一原発事故後、日本の原子力発電所は厳しい安全基準の下、再稼働が停滞してきた。そうした中、今回、事故の当事者である東京電力の柏崎刈羽原子力発電所6号機・7号機、さらに北海道電力の泊原子力発電所3号機が再稼働へ向けて地元からの了解を得たことは、極めて大きな出来事である。これは、これまで西日本に集中していた再稼働の流れを全国規模に拡大する「新しい波」として認識されるだろう。
再稼働に至るまでには約14年の長い年月を要した。背景には、世界で最も厳しい水準と言われる新安全基準による徹底した審査がある。これに合格した後も、「本当に安全なのか」という地元住民の懸念に対し、経済的メリットを含め丁寧に理解を求めるプロセスが必要だった。この二段階のプロセスを時間をかけて踏むことで、ようやく地元の合意形成が図られたのだ。
Q. 日本のエネルギー政策はなぜ原子力「最大限活用」へと転換したのでしょうか?
日本のエネルギー問題は、エネルギーの安定供給、脱炭素、経済性の三つの課題を同時に解決しなければならない「トリレンマ」の状態にある。特にウクライナ戦争以降、エネルギー価格の高騰と供給不安定化は、安定供給の重要性を改めて浮き彫りにした。
さらに近年、生成AIの爆発的普及に伴うデータセンターの電力消費量が急増し、世界的な電力不足が深刻化している。電力供給が不安定になれば、国家の産業競争力さえ脅かされかねない。

日本でも2022年に電力需給逼迫に見舞われ、大規模停電の寸前まで追い込まれる経験をした。この出来事は、それまで原子力再稼働に反対していた国民の意識を大きく変化させ、「安定供給のためには再稼働も必要」という世論形成のきっかけとなった。こうした背景から、第7次エネルギー基本計画では電力需要見通しが従来の「減少」から「増加」へと大きく転換し、この増大する需要を満たすために原子力の「最大限活用」という方針が打ち出されたのだ。
Q. 政府が目標とする再生可能エネルギー4~5割達成にはどのような課題がありますか?
第7次エネルギー基本計画で示された再生可能エネルギー比率4~5割という目標達成には、四つの大きな課題が存在する。

第一に、メガソーラーを中心とした太陽光発電が地元との摩擦を生じさせている点である。これまでの乱開発によって、景観破壊や災害リスクの増大が指摘され、地元住民の合意形成が難しくなっている。第二に、期待の大きい洋上風力発電の世界的なコスト高騰がある。投資採算性の悪化により、すでに多くの事業者が計画からの撤退を表明しており、目標達成に向けた投資が滞る可能性が高い。
第三に、太陽光パネルや風力タービンといった再生可能エネルギー関連製品のサプライチェーンが中国に大きく依存している実情がある。米中対立の激化など、地政学リスクの高まりは、こうした依存が経済安全保障上の弱点となることを示唆している。
そして第四に、再生可能エネルギー特有の「変動性」に伴う「統合コスト」の問題がある。太陽光や風力は天候に左右されるため、電力の供給が不安定になりがちだ。この変動を吸収し、安定供給を維持するためには、大規模な蓄電池や送電網の増強、さらには待機する火力発電所など、多大な追加設備投資が必要となる。この統合コストが増えるほど、全体としての電力供給コストが上昇する。
政府が再生可能エネルギーの目標を4~5割に設定したのは、これらの要因を総合的に勘案した結果、日本にとって最も経済合理性の高い最適解と判断されたためだ。これ以上の比率を目指すと、統合コストが跳ね上がり、かえって国民負担が増大してしまう懸念がある。
Q. 2050年カーボンニュートラルの達成には、日本の原子力はどうあるべきだと考えますか?
第7次エネルギー基本計画で示された2040年の電源構成は、2050年カーボンニュートラルから逆算した「目指すべき理想の姿」である。その中で原子力は、既存の全炉をフル稼働させ、運転期間を最長60年まで延長しても、2050年頃には設備容量が不足することが明確になっている。
つまり、目標達成には既存炉の再稼働や運転期間延長だけでは全く足りず、新たな原子力発電所の建設や建て替え(リプレース)が不可欠だという厳しい現実が突きつけられている。
原子力発電所の建設には、立地選定から地元合意形成、安全審査、建設まで、少なくとも10年から20年もの長い年月を要する。2050年という期限を考慮すると、既に時間の猶予はほとんど残されていない。まさに「時間との闘い」であり、今すぐにでも新規建設やリプレースに向けた真剣な検討と準備を始めなければ、日本のカーボンニュートラル目標達成は極めて困難となるだろう。国、事業者、そして国民全体の意思決定が求められている。
Q. 世界分断時代におけるエネルギー安全保障のリスクと、日本がとるべき戦略とは何ですか?
クリーンエネルギーへの移行は、化石燃料依存のリスクを、新たなサプライチェーン依存のリスクに転換させる側面がある。特に、電気自動車用蓄電池や太陽光パネル、そしてレアアースなどの重要鉱物は、サプライチェーンにおいて中国が圧倒的なシェアを握っている。米中対立が深まる世界情勢の中、この中国依存は、経済安全保障上のアキレス腱となるリスクをはらんでいる。日本は過去に中国からのレアアース禁輸を経験しており、世界に先駆けて多角的な供給源確保に努めてきた経緯がある。

一方で、米国はシェール革命により世界最大のLNG輸出国となり、2030年までには輸出能力が倍増すると予測されている。この膨大な量のLNGを日本単独で受け入れるのは不可能だ。そこで、日本は米国との戦略的協力を強化し、ベトナムやタイ、インドネシアといったアジア新興国のLNG市場開拓を支援する「アジア市場拡大構想」が有効な戦略となる。日本が培った技術や知見を活用し、東南アジアのLNGインフラ整備に協力することで、米国は新たな販路を獲得し、アジア各国はエネルギーの安定供給を得て経済発展を遂げ、日本は地域での影響力を高めることができる。これは日米双方、そしてアジア全体にとって「Win-Win-Win」の関係を築くことに繋がる。アラスカLNG開発なども輸送コストの面で有望だが、初期投資コストに見合う競争力を確保できるかが今後の課題だ。
Q. これからの日本のエネルギー政策を進める上で、特に注目すべき点は何ですか?
日本のようにエネルギー資源のほとんどを輸入に依存する国にとって、国際情勢、とりわけ地政学リスクはエネルギー戦略の成否を大きく左右する要因となる。中東地域の安定、ロシア・ウクライナ情勢の行方など、世界の主要地域の動向は、エネルギー価格や供給網に直接的な影響を与える。2026年以降もエネルギー市場は地政学リスクによって劇的に変化する可能性をはらんでいるため、日本は常に世界の動きを注視し、多角的な視点と柔軟な戦略をもってエネルギー政策を推進していく必要がある。国内の需要増加、脱炭素目標の達成、そして経済合理性の確保という複雑な条件の下、いかにして最適なエネルギーミックスを実現していくかが、これからの日本にとって喫緊かつ最も重要な課題である。
Q. 今日の日本のエネルギー問題はなぜかくも困難な状況にあるのでしょうか?
現在の日本のエネルギー問題は、単一の解決策では対処できない多層的な困難を抱えている。それは、カーボンニュートラルという世界的な脱炭素目標、生成AIに代表されるデジタル化の進展による電力需要の急増、そしてグローバルなサプライチェーンと地政学的な緊張による不安定性が複雑に絡み合っているためだ。
原子力や再生可能エネルギーへの依存度を高めることは、それぞれ新たな技術的、経済的、社会的な課題を生じさせる。国、事業者、研究者、そして国民が一体となり、現実的な目標設定、持続的な技術革新、そして強固な国際連携を継続することが、この「極めて困難だが達成しなければならない」挑戦を成功させる唯一の道となる。現在の局面は、日本の持続可能な未来を築くための重要な試練であると言えよう。