2026超予測
ECB利上げ準備へ 欧州支える“柱”とは?
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2025年12月22日

ドイツの不況、ウクライナ戦争、そしてトランプ関税と激動の2025年を潜り抜けた欧州。 来年の財政・金融の見通しは? 第一生命経済研究所・田中理氏が先取り解説。 <ゲスト> 田中理|第一生命経済研究所 首席エコノミスト 青山学院大学修士(経済学)等、日米の大学で専門知識を深めた。日本総合研究所、モル...
欧州経済:危機を脱し安定期へ移行、2026年の注目点を探る
かつて「危機の連続」という印象が強かった欧州経済は、今、歴史的な転換期を迎えている。長年にわたり経済を牽引してきたドイツやフランスが構造的な課題に直面する一方で、ギリシャやスペインといった南欧諸国、そしてアイルランドのような国が驚くべき成長を遂げ、新たな推進力となっている。

2026年は、景気回復が加速し、物価は安定基調を維持、さらに金融政策が「利上げの地ならし」へと舵を切る見込みだ。地政学的リスクは依然として存在するが、大規模な選挙がないこともあり、総じて安定した年になると予測される。この好転はなぜ起きるのか、そして未来を見据えた際、何が鍵となるのか。第一生命経済研究所・田中理氏に聞いた。
Q. 2026年の欧州経済はどのような見通しか?
2026年の欧州経済は、過去10年から15年にわたる危機の連鎖から一転し、景気回復が持続・加速する年になると見られている。具体的な成長率の数字自体は2025年と同程度の1%台前半に留まる見込みだ。しかし、この背景には、アイルランドの特殊要因による10%超の急成長という要素が大きい。アイルランドの急成長が落ち着けば、四半期ベースで見ると実質的な景気加速が進むだろう。

全体を俯瞰すると、経済にとってプラス要因が多い。物価は安定基調にあり、主要国は大規模な財政出動に舵を切り、政治日程では大きなリスクイベントが見当たらない。ECBの金融政策も利下げ局面を終え、利上げへの地ならしを開始すると予想され、新たな局面への移行が明確となる年である。
Q. なぜドイツ・フランスの主要国が停滞し、南欧諸国が躍進しているのか?
2025年の欧州は、長年経済を牽引してきたドイツとフランスが不振にあえいだ。ドイツはウクライナ侵攻による安価なロシア産ガス停止でエネルギーコストが高騰し、輸出競争力を失った。長年の緊縮財政でインフラ投資も滞り、製造業が打撃を受けた結果、2年連続マイナス成長という事態に陥った。
フランスも政局・財政不安が広がり、政策対応が停滞した。一方で、かつて「お荷物国」とまで揶揄されたギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの南欧諸国、そしてアイルランドが目覚ましい回復を遂げ、欧州経済を牽引している。これらの国々の躍進には三つの要因が考えられる。
欧州債務危機後の厳しい財政支援と引き換えに行った構造改革の成果が出始めたこと。
コロナ禍で手厚く配分された「欧州復興基金」を効果的に活用したこと。南欧はサービス業中心でコロナ禍の打撃が大きく、復興基金が重点的に投下されたため、景気を押し上げる効果が大きかった。
移民の流入。特にスペインは中南米からの移民が多く、文化的に親和性が高いため、社会への適応が比較的容易である。これにより労働力不足の緩和と消費の活性化が図られた。
アイルランドは低い法人税率で医薬品・ハイテク企業の集積が進み、トランプ政権による関税引き上げを前にした駆け込み輸出が経済成長を押し上げ、2025年には10%を超える異例の成長を遂げた。
Q. ドイツは長年の緊縮財政からどのように転換したのか?
ドイツ経済の低迷の主要因は、エネルギーコストの高騰と、長年の緊縮財政によるインフラの老朽化が指摘されてきた。ドイツは自国の憲法で「財政収支均衡」というEUの財政ルールよりも厳しい規律を課してきたため、景気悪化時にも財政出動でアクセルを踏むことができなかった。

しかし、2025年の新政権発足後、この方針は大きく転換した。ドイツは10年間でGDPの約12%に相当する5000億ユーロ規模の特別基金を設立し、大規模な財政出動に踏み切る決定をした。この資金は、主に老朽化したインフラの整備、防衛費の増額、そして気候変動対策に充てられる。これにより、ドイツ経済は低迷からの脱却と景気浮揚が期待されており、2026年には一定の成長に復帰する見込みである。
Q. 欧州全体の防衛費拡大の背景と、それが経済に与える影響は?
ウクライナ侵攻と米国政治の不確実性(特にトランプ大統領の再登板)を背景に、欧州各国は「平和の配当」が終わったことを認識し、一斉に防衛費の拡大へと舵を切った。NATOは加盟国に対し、GDP比2%だった防衛費目標を、2035年までに3.5%、関連インフラを含めれば5%へと引き上げる新たな目標を設定した。

財政状況が厳しい国も多い中、EUは加盟国を防衛費拡大で支援するため二つの策を講じた。一つは防衛関連の資金を賄うための共同債の発行による低利融資。ポーランドやルーマニアといった東欧諸国がこれを活用し始めている。もう一つは、国防費をEUの財政赤字計算から除外するという措置だ。これにより、加盟国は財政ルールに抵触することなく防衛費を増やすことが可能になった。
これらの防衛費拡大は、当然ながら経済に対して一定の刺激効果をもたらす。ただし、防衛費目的の共同債は「返済義務のある融資」であり、コロナ禍の「欧州復興基金」のような返済不要の補助金を含む「債務の共有化」とは本質的に異なる点を理解すべきだ。この巨額の財政出動は2026年から本格化し、経済を押し上げる重要な要因となるだろう。
Q. ECB(欧州中央銀行)の金融政策は2026年にどう転換するのか?
ECBの金融政策は2026年に大きな転換期を迎えるだろう。物価動向を見ると、一時期10%を超えた高インフレは沈静化し、ECBの目標である2%前後の安定的な水準で推移する見込みだ。賃金交渉の結果も落ち着き、サービス物価の押し上げも弱まっている。同時に、景気は加速局面に入る見通しであり、これはECBにとって利下げの必要性がなくなることを意味する。

ECBは政策金利を4%から2%まで引き下げたが、現在の2%という水準は、景気を刺激も抑制もしない「中立金利(1.75%~2.25%)」の範囲内にあるとされている。このため、2026年のECBは追加の利下げを打ち止めにし、これまでのハト派的な「追加緩和の余地あり」というメッセージから、将来の利上げを視野に入れたタカ派的なコミュニケーションへと舵を切る「地ならし」の年となるだろう。
市場はまだ若干の追加利下げを織り込む見方もあるが、ECBのメッセージ転換が進めば、2026年中にはその見方も修正される可能性が高い。欧州内外の景気不安要素が完全に払拭されれば、実際に利上げに踏み切る可能性も高まるだろう。
Q. ECBのトップ人事が2026年以降の金融政策にどう影響するのか?
ECBでは、ラガルド総裁を含む主要な政策決定メンバーが2027年に任期満了を迎える。利上げ局面の金融政策を大きく左右する人事において、2026年の副総裁人事が非常に重要となる。ECBの主要役職は加盟国間でバランスを取って配分されてきた歴史があり、この「玉突き人事」によって次期総裁の出身国を予測する手がかりが得られるからだ。

過去、ECB総裁ポストはオランダ、フランス、イタリアが務めてきたが、経済大国であるドイツからの選出は一度もない。ドイツはEU内での経済規模と伝統的にタカ派的な金融政策を主張する姿勢から、総裁ポストを強く求めている。しかし、そのタカ派的スタンスゆえに他国の賛同を得るのが難しかった。
利上げ局面において、タカ派であるドイツ出身者が総裁となれば、金融政策の方向性やペースに大きな影響を与えるだろう。フランスが直近で総裁を出していることから、次の総裁がフランス出身となる可能性は低い。その代わりに、フランスは副総裁ポストを狙い、ECB内で一定の影響力を維持しようとする可能性も考えられる。今後の副総裁の出身国によって、2027年の総裁人事が占われることになる。