政策超分析
2026年中国経済展望/緊迫する日中関係の行方/中国の強硬策は持続不可能
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2025年12月13日

「政策超分析」では、専門家が政策や国際情勢を徹底解説。今回のテーマは「2026年国際情勢展望」。後編では、日中関係と中国経済を取り上げる。 <出演者> 峯村健司|キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員 元朝日新聞編集委員。「LINEの個人情報管理問題」で21年度新聞協会賞受賞。中国軍の空母建造計...
2026年中国経済展望/緊迫する日中関係の行方
中国が今、内部の経済停滞や若者の大量失業といった矛盾を抱えながら、外交面で強硬姿勢を強めている。
その背後にはソ連型計画経済への回帰と、指導者習近平の理念先行型政治による人為的な失策が潜んでいる。
本稿では、複雑に絡み合う中国経済の構造的問題、迫りくる台湾有事の本質、そして変化する中露関係をQ&A形式で深掘りする。
不安定化する世界情勢の激動期において、私たちが本質を見抜くために必要な視点を提示するだろう。

Q. なぜ中国は日本の発言に過剰に反応し、自国の経済を悪化させかねない行動をとるのか?
中国の対日強硬姿勢は、国内の経済悪化と国民の不満に対する「焦り」の表れと分析されている。これは、使える外交カードが底を尽きつつある現状の証左である。中国共産党にとって、体制の正統性を脅かす社会不安の拡大が最も恐れる事態であるため、強硬な態度で国内の目をそらそうと動く傾向がある。
歌手の公演を中断させるような過剰な反応は、本質的には日本の経済界への揺さぶりであり、日本企業の中国からの撤退を強く警戒している裏返しである。実際には、中国の高官が水面下で日本企業に対して「大丈夫だ」となだめている事実もあり、政治的圧力と経済的依存の間の深刻な矛盾が垣間見える。

日本企業が撤退すれば、雇用に甚大な影響が及ぶことは明白だ。特に農村出身の若者たちの失業は、共産党政権の基盤を揺るがす未曾有の社会不安を引き起こす恐れがある。そのため、中国政府は政治的感情から日本を強く叩きたいものの、経済的現実から踏み込んだ制裁に踏み切れないジレンマを抱えているのだ。
Q. 中国経済の「公式発表5.2%成長」は実態と異なるのか?その原因は何か?
中国政府が発表するGDP成長率5.2%は、実際の経済状況を正確に反映しているとは言いがたい。これは多分に政治目標であり、その信頼性は低い。国内の有力アナリストが実態を「2%」と示唆した途端にメディアから排除された事実は、数字の信憑性が危ういことを如実に物語っている。
中国はソ連の「五カ年計画」(ゴスプラン)に起源を持つ計画経済の強い影響を今も受け継いでいる。市場経済との「ハイブリッド」体制にあるため、共産党の決定した数値は、現実と乖離していても達成されたものとして発表される傾向が根強い。これが数字の歪みの構造的要因である。
特に深刻なのは雇用情勢である。公式発表をはるかに上回る40%以上の失業率が指摘されており、これは共産党政権最大の不安要素である。政府は「ニューディール政策」的に無用なガードマンの雇用などを創出し、失業問題をごまかそうとしているが、若者の大量失業は社会の安定を根本から揺るがす深刻な脅威となっている。
Q. 習近平体制は中国経済にどのような影響を与えているのか?その政策的特徴は?
習近平体制は、鄧小平時代に「金儲けは是である」として野放しにされてきた民間経済を、毛沢東的な「共同富裕」の名の下に強権的に締め付けてきた。アリババなどのIT企業や不動産業界への弾圧は、かつての成長エンジンを破壊し、現在進行中の内需冷え込みの直接的な原因となった。
国家がAIやハイテク産業などに巨額の補助金を投じて育成を図る一方で、市場のニーズを無視した計画経済特有の「過剰生産」問題が顕在化している。これら過剰な製品は海外にダンピング価格で輸出され、国際的な貿易摩擦を引き起こし、世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼしている。

中国経済は「鳥籠経済」とも形容され、民間企業は共産党が握る「籠の中」でしか活動できない。一定規模を超えて成長しようとする民間企業は、党幹部の子弟らが利権を握る国営企業によって締め付けられる構造だ。自由な競争が阻害され、縁故主義と腐敗が蔓延し、経済全体の活力を奪っている。
不動産市場の厳格な規制や、特に農村部の年金制度の脆弱さは、経済の持続的な成長の足枷である。習近平の強すぎる理念先行型政治は、過去の指導者の「力を隠し、機会を待つ」という教えを破り、米国との技術競争を煽ったことで、かえって経済的苦境に拍車をかけた。現在の経済停滞は多分に「政治的要因」によるものだ。
Q. 台湾有事とはどのような事態を指すのか?武力侵攻は不可避のシナリオか?
中国の台湾政策の基本は「文攻武嚇(ぶんこうぶかつ)」である。これは必ずしも血を流す武力侵攻を最優先するものではない。「血を流すことは最も下手なやり方」と孫子の兵法にもあるように、武力行使は自国へのダメージや占領後の統治コストを考慮すれば、最終手段に過ぎないと中国は認識している。
「文攻」とは情報戦、心理戦、法律戦といった非武力的な手段である。台湾のメディアへの浸透、政治家の揺さぶり、そして反国家分裂法を用いて独立を試みる動きを牽制するなど、台湾社会の内側からの分断を図る。軍事演習などで威嚇する「武嚇」と組み合わせ、戦わずして屈服させる「無傷での統一」こそが中国の理想的なシナリオである。
中国による台湾への「認知戦」は既に激しく展開されている。TikTokを通じた世論操作などの情報戦が高度化しており、「台湾有事は既に始まっている」という認識を持つべき段階に来ている。物理的な武力衝突だけでなく、見えない情報空間での攻防も有事の一部と捉える必要がある。
最大の懸念は、自身の歴史的功績を焦る習近平総書記のメンタリティだ。指導者が客観的な合理性を欠いた歴史観や世界観に基づいて判断を下した場合、プーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切ったように、予測不能で突発的な行動に繋がるリスクを孕んでいる。これは最も計算できないリスクファクターである。
Q. 不安定化する中、中露関係は今後どのように進展するだろうか?
中露の接近は表面的な連携と見るべきだ。中国は米国との関係を常に考慮しており、ロシアとの「一蓮托生」の道を望んでいない。最近の中露合同軍事演習の規模縮小は、中国が米国を過度に刺激することを避けようとしている証拠と言えるだろう。
むしろ両国の関係は、ウクライナ戦争で疲弊したロシアが、経済的・軍事的に中国への依存度を高める「非対称な」協力へとシフトしている。中国がロシアの原子力潜水艦基地建設を支援するなど、地味だが実利的な形での「陰の協力」が深化しており、ロシアが中国に「すがりつく」構図が見て取れる。
仮に台湾有事が起きたとしても、ロシアが直接軍事介入する可能性は低いと予測される。しかし、ウクライナ戦争における中国のように、ドローン技術や部品の提供、あるいは日本海や欧州での陽動など、間接的な支援を通じて米軍のリソースを分散させる可能性は十分にあるだろう。
中露関係は常に米国との距離感で変動する。もし米国と中国の関係が改善すれば、中国がロシアを冷遇することもあり得るため、両国の連携は決して盤石ではない。各国の思惑が複雑に絡み合うことで、この関係性は常に流動的であり、状況に応じて変化しうる性質を持つ。
Q. 世界情勢の激動期において、私たちに求められることは何か?
2026年はウクライナ戦争の行方や中国内部の矛盾がさらに噴出し、これまで以上に激動の一年となるだろう。特に中国経済の長期的な停滞は、国内の不満を外に向けさせる引き金となり、台湾問題などを通じて地域や世界の安定に重大な影響を及ぼす可能性がある。

ロシアも中国も、世論戦や心理戦といった情報戦に長けている。偽の情報が容易に社会に流布し、時に社会を分断させようと試みることが予想される。そのため、情報リテラシーを高く保ち、衛星写真や一次情報といった「公開情報諜報(OSINT)」を活用して本物の情報を見極める力が、個々人そして社会全体にとって不可欠だ。