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【海底ケーブル】高市政権が注力する経済安保の要
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2025年12月2日

我々の日常で使っているSNS、クラウド、ウェブなどに欠かせないのが海底ケーブルだ。国際通信99%を担う海底ケーブルが島国日本の命綱。しかし、世界で海底ケーブルの切断が年100件超。中には意図的な攻撃の疑いも。日常を支えるインフラの知られざる脆弱性と、日本の経済安保が直面する課題の核心に、三菱総合研究...
大動脈としての海底ケーブルが抱える知られざる脅威と日本の対策
私たちが日常的に利用するウェブサービス、クラウド、SNSといったデジタル通信。その約99%を支えているのが、はるか海の底に敷設された「海底ケーブル」である。しかし、この国際通信の「大動脈」とも言えるインフラが、今、複数の脅威にさらされている。年間100件を超える障害の発生、そしてその中には意図的な攻撃の可能性も指摘されており、その脆弱性は見過ごせない状況だ。
これまであまり注目されてこなかった海底ケーブルだが、近年の地政学的リスクの高まりを受け、その重要性が再認識されている。本記事では、海底ケーブルの基礎知識から、その構造、業界構造、世界での敷設状況、そして日本における動向を解説。さらに、切断事例や各国との防護体制の比較を通じて、この重要インフラが直面する具体的な脅威と日本の課題を深掘りする。

Q. そもそも海底ケーブルとは何か、その役割は何だろうか?
海底ケーブルとは、日本と海外間の国際通信の99%を伝送する基盤インフラである。ウェブ、クラウド、SNSなどのインターネットサービスは、全てこの国際通信によって成り立っていると言える。普段意識することはないかもしれないが、スマートフォンやPCからの無線通信はまず最寄りの基地局へ送られ、そこから陸上ケーブルを経て、最終的には海底ケーブルを通じて海外のデータセンターへと接続されている仕組みだ。
通信の根幹をなす光ファイバーは髪の毛ほどの細さであるが、ケーブル全体としては様々な保護層で覆われている。特に船舶の航行が多い水深200m以下の浅瀬では、鋼のワイヤーで強化された太いケーブルが使用されているが、リスクが低い深海部では比較的細いケーブルが使われている点が特徴である。これが社会経済活動、さらには安全保障にとっても必要不可欠な大動脈なのである。

Q. 海底ケーブルはどのような企業によって敷設・運用されているのか?
海底ケーブル業界は、主に「オーナー」「サプライヤー」「敷設・保守事業者」の三つのプレイヤーで構成されている。オーナーはケーブルの発注者であり、多くは各国の通信事業者だ。近年はGoogle, Amazon, Facebook (Meta), Apple, MicrosoftといったGAFAMが、膨大なデータ流通に対応するため自ら海底ケーブルを所有・敷設するケースが増え、存在感を高めている。
サプライヤーは海底ケーブルシステムを製造し、オーナーに供給する企業である。日本のNECは、米国のサブコム、フランスのアルカテル・サブマリン・ネットワークスと並ぶ世界三大サプライヤーの一角を占め、特にアジア地域で強みを持つ。敷設・保守事業者は、ケーブル敷設船を運用し、ルート設計から敷設、そして故障時の修理メンテナンスまでを担う専門企業である。KDDIケーブルシップやNTTワールドエンジニアリングマリンがその代表例となる。

Q. 世界的な海底ケーブル網の中で、日本はどのような役割を担っているのか?
世界中の海洋には600以上の海底ケーブルシステムが張り巡らされており、データ流通量の増加に伴いその数は増え続けている。この国際的なネットワークの中で、日本は米国とアジア諸国を結ぶ重要な通信のハブとして機能している。地理的な優位性から、多数の国際海底ケーブルが日本に陸揚げされており、東アジアの中でも接続本数が非常に多い国の一つと言えるだろう。
日本では、大規模な通信相互接続ポイント(IX)に近い千葉県の南房総市、三重県の志摩市、茨城県の北茨城市が主要な陸揚げ拠点となっている。これは、通信速度を確保するためにIXへの近接が求められることと、東京都心部から適度な距離があるため、都市機能への影響を避けつつ土地を確保しやすい点が理由である。日本政府も、経済安全保障やハブ機能強化の観点から国際海底ケーブルの多ルート化推進に乗り出し、具体的な補助事業も始動させている状況だ。

Q. 海底ケーブルが直面する障害の実態とその修復の難しさとは何か?
海底ケーブルの障害は決して稀な出来事ではなく、世界で年間100〜200件程度発生している。その大半は、漁船の漁業活動や大型船舶の錨によって引き起こされる「非意図的」な人為的要因だ。特に船舶航行の多い欧州近海や南シナ海沿岸、そして水深200m以下の浅い海域で頻繁に発生している。
ケーブルが切断された場合、専門のケーブル船が出動し修理を行う。しかし、海流の影響などにより海底に沈んだケーブルの位置を特定し、遠隔で船上から引き揚げる作業は非常に困難であり、修理完了まで平均50日もの時間を要する。この長期的な復旧期間は、通信ネットワークの脆弱性を露呈させる。万が一、複数の主要ケーブルが同時に切断されるような事態になれば、深刻な通信障害が発生し得るのだ。

Q. 近年の切断事例から読み取れる、海底ケーブルの新たな脅威とは何か?
近年の切断事例を見ると、従来の偶発的な事故とは異なる、新たな脅威の可能性が指摘されている。2024年11月にバルト海沖で立て続けに発生した複数の海底ケーブル切断事件では、不審船の航行が確認されており、意図的な攻撃、すなわちハイブリッド戦争の一環である可能性が疑われている。しかし、証拠が公開されておらず、明確な真相は不明のままである。一方で、2025年2月の台湾沖での事例では、禁止区域で錨を下ろしてケーブルを切断した中国船が拿捕され、船長に懲役3年の実刑が下されるという稀有なケースがあった。これは当局が見解を示した点で注目に値する。

しかし、多くの場合、ケーブル切断が「誰によって」「意図的に」行われたのかを立証することは極めて困難だ。こうした不確実性を利用した「グレーゾーン事態」は、国家安全保障上の重大な課題として認識されている。米国、英国、フランスなどの欧米諸国が海軍を動員し、専門組織や監視船の運用によって海底ケーブルの防護に深く関与している背景には、こうした意図的な攻撃リスクへの警戒がある。対して日本では海上保安庁が沿岸警備を担うものの、特化した防護活動は未だ不透明であり、重要インフラをいかに保護すべきか、官民一体での議論と体制強化が急務となっている。