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政治力の鍛え方。知識・パワー・準備・スキル
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2025年11月28日

社内政治を学ぶメリットとは。システム化された社内政治。欧米人の社内政治テクニックとは。今後のAI時代に社内政治はどうなる?社内政治を研究する木村琢磨氏に聞いた。 ▼プロフィール 木村琢磨|昭和女子大学 教授 博士(東京大学)。スタートアップ企業、大阪経済大学、法政大学などでの勤務を経て現職。専門は...
社内政治は「必須スキル」である~会社を成長させる政治力とその磨き方
かつて「必要悪」や「陰謀」といったネガティブなイメージがつきまとった「社内政治」という言葉がある。しかし2000年代以降、この認識は大きく変化し、今や社内政治はビジネスパーソン、特にリーダーにとって不可欠な「必須スキル」として位置づけられている。単なる人間関係の立ち回りや根回しに留まらない、組織全体の目標達成とパフォーマンス向上に貢献する政治力の本質とは何か。その具体的な構成要素から、今日から実践できる能力開発のアプローチまでを明らかにする。
Q. なぜ今、社内政治がビジネスにおける「必須スキル」と認識されているのか?

2000年代初頭のイギリスの研究は、この認識の変化を示す興味深い結果を提示した。ミドルマネージャーたちに社内政治への意見を問うたところ、多くの者が「会社のために必要」と肯定的に捉えていると判明したのである。この研究は、政治的な立ち回りを行うマネージャーがいる部署や個人の業績が向上する可能性を示唆している。組織目標の達成において、メンバー間の対立や意見の相違は避けられない。これを感情論で片付けず、理性的かつ建設的に「制御」し、最適な結論へと導くのが政治の本質だからである。健全な社内政治は、組織の円滑な運営とパフォーマンス最大化のために欠かせないスキルと言えるだろう。
Q. 組織内で人を動かす「政治行動」にはどのようなものがあるか?
人を動かす政治行動は多岐にわたる。主に以下の6つに分類できる。例えば「社会的資本」は、人とのつながりや人脈を活用して協力を得る行動を指す。「社会的交換関係」は貸し借りの関係を築き、恩を返す形で相手を動かす方法である。さらに、上位職の力を背景にする「権力」、情報伝達の仕方を工夫して物事の印象を形成する「意味の付与」、自身やプロジェクトへの評価を高める「印象マネジメント」、そして相手の感情に配慮しつつ要求を伝える「感情マネジメント」も含まれる。これらの政治行動は、社内だけでなく、社外の交渉や多様な関係者との連携においても応用が効く重要なスキルセットである。
このような政治行動の背後にある社内力学を可視化する方法として、「ネットワーク分析」がある。これは、社内の誰が誰と繋がり、どの程度深く連携しているかを客観的に示すことで、真に影響力を持つ人物やチームを特定し、効果的な働きかけ先を見極めるのに役立つ。例えば、誰が仕事において頼りにされているか、誰が信頼されているかなどを定量的に把握することが可能となるのだ。
Q. ビジネスパーソンに必要な「政治力」はどのような要素で構成されているか?
ビジネスにおける「政治力」は、主に以下の4つの要素で構成される。

政治知識: 社内の勢力図、企業文化、過去の経緯や慣例、誰にどう働きかければ物事が進むかといった「会社固有の情報」
政治的パワー: 役職や権限に頼らず他者を動かす影響力。情報や資源の保有、専門性、権力者との連携などが源泉となる
政治準備性: 社内政治の必要性を認識し、積極的に活用しようとする意欲と心の準備
政治スキル: 他者の利害や関心を深く理解し、それに影響を与え、協力を引き出す能力(コミュニケーション能力、交渉力など)
Q. 4つの「政治力」のうち、特に重要視すべき要素とその理由は何か?
政治力の中でも特に重要視すべきは「政治的パワー」の中核となる「専門性に基づく信頼」と、「政治スキル」の中核となる「他者の利害を理解する能力」である。専門性に基づく信頼は、特定のスキルや知識によって社内外からの評価を獲得し、それが人を動かす力となるため、最も強力なパワーの源泉であると言えるだろう。役職や上層部との関係による権力は、役職変更や上司の退職によって失われやすい。しかし専門性は個人に紐づくポータブルな能力であるため、転職後も発揮できる。特に中途採用者が新たな組織で信頼を勝ち取り、早期に貢献するための鍵となるのだ。
一方、政治スキルとは、決して策略を巡らせる力ではない。その本質は、相手の立場や抱える課題、求めるもの、失いたくないものを深く理解し、その上で効果的な提案や協力を促す能力である。なぜその人は強硬に反対するのか、その背景にある「利害」は何かを読み解き、時には自身の提案を調整することで、対立から協力関係へと転換させることが可能になる。
Q. 個人ですべての政治力を身につける必要はないのか?チームとしての政治力の重要性は?
個人が全ての政治力を完璧に備える必要はない。例えば、革新的なアイデアと強烈な推進力を持つリーダー(イーロン・マスク氏などが挙げられるかもしれない)がいたとしても、必ずしも高い政治スキルを持っているとは限らない場合がある。彼らは、自身が持たない他者理解や感情マネジメントといったスキルを補完する「参謀」や「右腕」を側近に置くことで、組織全体として円滑な運営を可能にしているのである。このことは、政治力は一人で完結するものではなく、チーム全体で発揮されるべきものと捉える重要性を示している。

そのため、ビジネスパーソンにとって重要なのは、まず自身の強みと弱みを正確に自己認識することである。4つの政治要素の中で、どの部分が得意で、どの部分が苦手なのかを明確にする。そして、自身に足りない部分は、それを補える同僚やチームメンバーに頼ることで、組織全体の政治力を最大化できるだろう。
Q. 政治力を効果的に高めるためには、具体的に何をすべきか?
政治力は意識的な学習と経験によって開発が可能である。各要素に応じたアプローチが求められる。
政治知識: 社内政治の知識は、新しい会社に入ったら真っ先に学ぶべきである。社史を読み込み、古株社員の昔話や自慢話に耳を傾けることで、社内の暗黙の価値観や過去の成功体験、社内の勢力図を把握できる。リモートワーク下では雑談からの情報収集が難しいため、会議資料のCC欄やメーリングリストなどを意識的に観察し、情報網を築く努力が必要となる。
政治的パワー: 若年層や中途採用者は、まずどこでも通用する「専門性」を磨き、それに基づく「信頼」を獲得することが重要である。会社独自の専門性も有用だが、汎用性の高いスキルは強力な武器となる。社外の専門家との繋がりや業界情報の深堀も、個人のパワーを強化する。
政治準備性: 多くの場合、年齢とともに政治への認識が深まる傾向がある。管理職となり、自分の力だけでは物事が進まない状況を経験することで、政治の必要性を痛感し、活用への準備が整うことが多い。研修やメンタリングも準備性を高める有効な手段となる。
政治スキル: 他者の利害を理解する能力を磨くには、心理学や行動科学の基礎を学ぶことが役立つ。人の行動や思考の理論的な枠組みを知ることで、「なぜこの人はこのように考えるのか」という仮説を立てやすくなる。また、小説やドラマを通じて多様な人間の感情や動機に触れることも、他者への想像力を養い、実践的な他者理解力を高める訓練となる。
Q. 「良い社内政治」と「悪い社内政治」を分ける境界線はどこにあるか?
政治力の善悪は、その動機と目的にある。個人の高い政治力が「会社のため」「組織目標の達成のため」というベクトルに向かうとき、それは「良い政治」となる。そのような組織では、皆が共通の目標に向かって協力し、会社の発展に貢献する。

しかし、社員が会社に対して嫌悪感を抱き、自分の利益や保身のために政治力を発揮する場合、それは組織を破壊する「悪い政治」に転じる。そのような環境では、陰謀や足の引っ張り合いが横行し、生産性やイノベーションが阻害されるだろう。そのため、経営者は社員が会社を好きになれる環境を整備し、個人の政治力を建設的な方向に導く責任を負う。
社内政治の原理は、企業内だけに留まらない。部活動や地域コミュニティ、学生プロジェクトなど、人が集まって目標を達成しようとするあらゆる組織において共通して当てはまる普遍的な法則である。対立を前提とし、それを建設的に制御して組織の成果を生み出すこの「政治力」は、現代社会を生きる上で誰もが学ぶべき重要なスキルと言えよう。