PIVOT TALK BUSINESS
【日本も危ない】世界で起こる「水の戦争」
(1106)
1.2万回視聴
2025年11月16日

生成AIや半導体が大量の水を消費するため、世界で勃発している「水の奪い合い」。日本の水資源は安全なのか?水の奪い合いによる戦争のリスクは?水ジャーナリストの橋本淳司氏に聞いた。 ▼プロフィール 橋本淳司|水ジャーナリスト アクアスフィア・水教育研究所 代表。武蔵野大学客員教授。学習院大学卒業後、出...
世界で起きる「水の戦争」:AIとデータセンターによる水の大量消費
気候変動が世界の水資源を脅かす中、私たちは今新たな「水の奪い合い」の時代に突入した。その火種は、意外にも身近なテクノロジーにある。AIの急速な普及とそれを支えるデータセンターの存在は、知らず知らずのうちに地球規模で膨大な水を消費し、既存の水需要との間に深刻な摩擦を生み出し始めている。かつて水資源が豊かと言われた日本も、この問題と無縁ではいられない現実が迫っている。
本記事では、AIやデータセンターがいかに水を消費し、それが世界や日本の水資源にどのような影響を与えているのか、その知られざる実態を掘り下げる。デジタル化の恩恵を受ける私たちの暮らしの裏側で進行する「水の奪い合い」は、既に世界各地で紛争の引き金となり、日本においても無視できない喫緊の課題として顕在化しつつあるのだ。

Q. 生成AIの普及は、水資源にどのような影響を与えるのか?
生成AIは驚異的な進化を遂げているが、その裏側で膨大な水を消費している事実はあまり知られていない。カリフォルニア大学の研究によると、生成AIを2週間訓練するだけで約70万リットルの淡水が使われる。これは人間の5000人分の一日あたりの生活用水に相当する量だ。Microsoftは過去3年間で水使用量が87%増加し、Googleも年間2400万立方メートルの水を使用していると公表した。

日常的なAIの利用でも、水は大量に消費されている。生成AIに20~30問質問するごとに、約500mlのペットボトル1本分の水がデータセンターの冷却に使われている計算になる。AI利用者の増加に伴い、この見えない水消費は加速度的に拡大しており、世界の水資源に多大な負荷をかけている。
Q. データセンターの急増が世界の水資源に与える具体的な影響は何があるのか?
データセンターは、その内部にあるサーバーや機器から発生する熱を冷却するために大量の水を必要とする。冷却に水が使われることで、その水は蒸気となって大気中に放出される。データセンターによっては朝夕に周囲に霧が立ち込めるほどで、仮想空間のデータを支える水が、現実世界で大量の蒸発として失われている状況である。
特に高密度のラックを多数擁するハイパースケール型データセンターの増加は著しく、このタイプの施設が新たに建設される地域では、水消費量が急激に上昇する。水資源が元々少ないチリやウルグアイでは、データセンターによる水奪取を巡って地域住民や農業従事者との間で訴訟問題に発展しており、水道事業者からデータセンター建設者を訴える事例も発生した。米国オレゴン州ではGoogleのデータセンターが市全体の水供給の29%を消費していたことがメディアの訴訟で明らかになり、大きな社会問題となった。
Q. なぜ「水が豊かな国」日本でも、水資源をめぐる問題が深刻化しているのか?
「日本は水資源が豊富」という認識は実は誤解だ。降水量自体は世界平均の約2倍と多いが、人口が1億人を超すため、一人当たりの利用可能水量に換算すると世界平均の約半分しかないのが現実だ。加えて、日本の国土は中央に山脈が走り、海までの距離が短いため、降った雨水はすぐに海へと流出しやすく、水を地中に保持しにくい地形的特徴がある。

これまで日本で水が安定的に利用できたのは、先人たちが築き上げたダムなどの水インフラや、水田が地下水を涵養してきたおかげである。しかし、近年は気候変動による豪雨の増加(一気に流出しやすい)や水田の減少により、そのバランスが崩れつつある。そのため、日本も水資源問題を他人事と捉えることはできないのだ。
Q. 日本国内では、データセンター建設と水資源に関する議論はどのように行われているのか?
日本では、特に千葉県でデータセンターの建設が「データセンター銀座」と呼ばれるほど活発であり、東京都昭島市のように地下水を唯一の水道水源としている地域でも建設計画が進む。しかし、国内ではまだデータセンターの水使用量に関する情報公開や、それに伴う水資源への影響を巡る議論は十分に成熟しているとは言えない。
自治体は産業誘致や雇用創出の面からデータセンターを歓迎する傾向にあるが、水使用量データの非公開が続けば、住民が懸念を抱くことは避けられない。水資源の専門家からは、適切な水マネジメントなしにデータセンターや半導体工場の誘致を進めれば、地域の地下水枯渇や地盤沈下といった深刻な問題を引き起こす可能性が指摘されている。
Q. 外国資本による日本の土地買収が、水資源とどのような関係があるのか?
日本の民法では「土地の所有権はその上下に及ぶ」と定められており、土地を購入すれば地下水を比較的自由に利用できる。このため、2000年代初頭から北海道などで外国資本による水源地取得が問題視されてきた。東日本大震災後の一時期は再生可能エネルギー事業での土地取得が容認されたが、近年ではその買収対象が農地や港湾といった生活圏に近い平地にも拡大している。
この背景には、後継者不足に悩む日本の農家が土地の売却をむしろ歓迎する傾向がある。外国資本は直接水を汲んで輸出するよりも、その水を用いて高付加価値な農産物や工業製品(半導体など)を生産し、それを海外に輸出するビジネスモデルを採用している。これは実質的に、日本の水資源を間接的な形で海外に流出させることに他ならない。
Q. 世界における水問題の現状と、現代の「水の戦争」とは具体的にどのようなものか?
世界の水問題はますます深刻化しており、例えばインドでは2050年までに国民の約4割が水へのアクセスが困難になると予測されている。水や食料不足が原因で、毎年2000万人もの人々が居住地を追われる難民問題も増加の一途をたどる。一方、先進国や一部地域ではAIが大量の水を消費する現実があり、世界全体での水の不平等が顕著になっている。

水利用の内訳も大きく変化した。かつて農業が主要な水消費源だったが、現在は工業(半導体製造、データセンター冷却)と発電(水力だけでなく火力・原子力発電もタービン冷却に水を要する)による水需要が爆発的に増加している。この水需要の変化は、地政学的リスクを生み出す。メコン川流域では、中国が上流に建設したダムが下流国々の水量を制御し、深刻な「水の戦争」を引き起こしているのだ。
Q. 企業や社会は、この新たな水資源問題にどう向き合うべきなのか?
「水の奪い合い」時代に突入した今、企業や社会全体は水資源問題への抜本的な対策が求められている。まず、テック企業は自社の水使用量を正確に開示し、その影響を地域社会と共有すべきだ。さらに、水資源の効率的な利用技術である「ウォーターテック」への投資や、使用済みの水の再生利用を義務化する動きを加速する必要がある。
また、政府は水資源に関する政策を再構築し、過度な水利用を規制する枠組みの構築が急務だ。地域住民は水資源の有限性とその価値を認識し、企業や政府に透明性と説明責任を求める必要があるだろう。私たち一人ひとりが、持続可能な水循環への貢献を考える時が来ている。