
食物アレルギーどう向き合っていくべきか
アレルギーの新常識:化粧品や職業が引き起こす食物アレルギーの実態と対策
私たちの体は日々、様々な物質に触れている。ある日突然、見慣れた化粧品や日常的に扱う食材が、体に異変をもたらす「アレルギー源」へと変わることがあるのをご存じだろうか?特に、これまで食物アレルギーとは無縁だった大人たちにも、知らず知らずのうちに潜むリスクが増えている。過去の常識が覆されつつある「大人の食物アレルギー」の知られざるメカニズムとその対策について、最新の知見に基づき徹底解説する。

Q. 化粧品が小麦アレルギーを引き起こすことがあるのか?
2010年、日本で大きな社会問題となった薬用石鹸による小麦アレルギー集団発生事件があった。この石鹸には加水分解コムギが配合されており、洗顔時に目や鼻の粘膜から小麦成分が侵入し、皮膚経由で感作されたことでアレルギーが発症したと判明した。それまで小麦を食べても問題なかった人が、この石鹸を使用し続けることで体内でアレルギー反応を起こす体質となり、パンなどを食べた後に運動するとアナフィラキシーを起こすまでに至った。
この事件は、口から食物を取り込むだけでなく、皮膚からアレルゲンが侵入することでアレルギーが発症するという「経皮感作」の危険性を示唆するものであった。2000人を超える患者が発生したこの事例は、それまで「大人の食物アレルギーは一度発症したら治らない」とされていた常識を覆す結果ももたらした。原因の石鹸使用を中止したところ、多くの患者でアレルギーの原因となるIgE抗体の数値が低下し、再び小麦が食べられるようになる人が現れたのである。このことは、アレルギーの原因を特定し除去できれば、大人の食物アレルギーも改善しうるという重要な知見となった。

Q. 化粧品以外にも注意すべきアレルゲンは潜んでいるのか?
今現在、日本製の化粧品では加水分解コムギによるアレルギーは非常に少なくなっているものの、別の成分がアレルギー源となるケースが増加している。その一つが、化粧品によく使われる赤い色素「カルミン(コチニール色素)」だ。この色素は、コチニールカイガラムシという昆虫をすり潰して作られており、虫由来の成分が残りやすいためアレルギーの原因となりやすい。
化粧品のアイシャドウや口紅で皮膚がカルミンに感作されると、同じ色素(食品添加物としてはコチニール色素と表記される)が使われている食品を食べた際にもアレルギー反応が起こることがある。具体的な食品としては、赤いマカロンやイチゴミルク、たらこなどが挙げられる。海外製の化粧品に起因するカルミンアレルギーの報告が増加傾向にあり、特に海外製品の使用には注意が必要である。
Q. 調理師の3人に1人が食物アレルギーを持っているのはなぜか?
特定の食材を頻繁に扱う職業、特に調理師は「職業性食物アレルギー」を発症するリスクが非常に高い。手荒れがひどい調理師を対象としたインターネット調査では、なんと32%が食物アレルギーを持っていると回答した。これは3人に1人という驚くべき数字である。
メカニズムはこうだ。皿洗いなどで手が荒れると、皮膚のバリア機能が低下する。その荒れた皮膚にアレルゲン(魚や甲殻類など)が直接触れると、そこからアレルゲンが侵入し、体がそれを異物と認識してアレルギーを獲得する「経皮感作」が起きる。こうして体内に侵入したアレルゲンがアレルギー反応を引き起こしやすくなるのである。
また、子供の頃に治っていたはずの食物アレルギーが、職業がきっかけで再燃することもある。例えば、卵アレルギーが治った人がアルバイトで卵を素手で頻繁に扱うと、再び皮膚から卵成分が侵入し、アレルギーが悪化するケースが報告されている。職場では毎日大量の食材を扱うため、家庭での調理とは異なり、免疫が常に刺激されやすい環境にあると言えるだろう。

Q. アレルギー対策で「食べていいが触るな」とはどういうことか?
食物アレルギー対策の常識が変わりつつある中、重要な新常識がある。それは、「アレルゲンを食べることは問題ない場合もあるが、肌で触ることは避けるべき」という点だ。アレルギー症状が出ない範囲であれば、むしろアレルゲンを食べることで免疫が慣れてくる(耐性獲得)効果が期待できる。しかし、素手、特に荒れた手でアレルゲンに触れることは、先に述べた経皮感作を招き、アレルギーの発症や悪化を引き起こす可能性が高い。これは一般的にはあまり知られていない事実であるため、特にアレルギーを持つ人々にとっては重要な注意点である。
職業性食物アレルギーの場合、職場環境からアレルゲンを除去することが最も効果的な対策だ。アレルゲンを含む食材に触れる作業から配置転換をする、または触れることを完全に避けられる環境への移行が望ましい。手袋だけでは完全に防げないことも多いため、原因となる業務そのものからの離脱が根本的な解決策となる可能性がある。

Q. アレルギーを誘発する「誘因」には何があるのか?
大人の食物アレルギーには、アレルゲンを食べただけでは軽い症状であるにもかかわらず、特定の「誘因」が加わることで症状が急激に悪化するケースが多い。主な誘因としては、以下のようなものが挙げられる。
食後の運動: アレルゲンの体内吸収を促進し、アナフィラキシーなどの重篤な症状を引き起こす。
アルコール摂取: 食後の運動と同様に、未消化のアレルゲンが体内に吸収されやすくなる。
過労(徹夜明けなど): 体の免疫状態が不安定になり、アレルギー反応が起きやすくなる。
生理のサイクル: 女性ホルモンの影響でアレルギー反応が出やすくなる時期がある。
痛み止め(NSAIDs)服用: 体内でのアレルゲン吸収経路に影響を与え、反応を増悪させることがある。
これら誘因は、体調が不安定な時に食事と重なると、重篤な症状を引き起こすリスクを高めるため、注意が必要だ。
Q. アレルギーの正しい診断と、自己判断が危険な理由は何だ?
アレルギー症状が出た場合、自己判断せずに専門医を受診することが最も重要だ。大人のアレルギーも、原因が特定され適切に対処すれば改善する可能性があるため、何がアレルゲンで、何がそうでないかを正確に突き止める必要がある。
アレルギー検査には主に血液検査と皮膚テストがある。一般的に広く行われるのは血液検査だが、血液検査の結果だけを鵜呑みにすることは危険である。陽性反応が出た食品でも症状が出ないケースや、逆に陰性でもアレルギー症状が出るケースが少なくない。これは、血液検査でアレルギー反応を起こす抗体が確認されても、実際の食事では量が少なかったり、加熱処理されていたりすることで症状が出ない場合があるためだ。専門医は、患者の問診内容と検査結果を総合的に判断して診断を行う。血液検査の結果を正しく評価できる医師による診断が不可欠であり、不必要な食事制限を避けるためにも重要となる。
また、まだアレルギーを発症していない段階で、過度に心配してあらゆるものを避ける必要はない。不安にかられて食生活を極端に制限することは、かえって精神的な負担となり生活の質を低下させる。軽い症状であれば様子を見るのも選択肢の一つだが、全身にわたるアナフィラキシーなどの重篤な症状が出た場合は、迷わず専門医を受診し、適切な診断と対処法を確認すべきだ。
