
なぜ「海外大進学」が増えているのか
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2025年11月7日
今、学校選びのトレンドが大きく様変わりしている。これからの社会で求められる力と「理想の学校」とは?増加する「高大連携」や「海外大進学」の実態は?教育アナリストの井上修氏に聞いた。 ▼プロフィール 井上修|教育アナリスト 横浜国立大学卒業後、株式会社日能研に入社。中学受験、中高一貫校の教育、大学入試...
海外大学への進学はなぜ身近になったのか?SNSの影響力
日本の教育および大学入試は、かつてないほどの激変期にある。学力偏重の時代は終焉を告げ、生徒の主体性や探求心、そして自ら学ぶ力が重視される新たなフェーズに突入した。この変化は単なる入試制度の変更に留まらず、国内外の大学序列や学校選びの基準にまで及んでいる。親世代が経験した受験の常識はもはや通用しない今、教育の現状を理解し、将来を見据えた選択を行うことが不可欠である。
本稿では、動画内容を基に、この激動の時代における教育の最前線をQ&A形式で深掘りする。
Q. 大学入試のトレンドはどのように変化しているか?
大学入試は、これまでの一般選抜(学力試験中心)から「総合型選抜」が主流となる大きな転換期にある。総合型選抜では、受験生の主体的な学びの経験、つまり「何を学びたいか」「これまで何をしてきたか」といった具体的な活動実績と探求心が重視される。これは海外の大学入試の標準に合致するもので、日本もこの世界的な流れに追随したとみることができる。

学校推薦型選抜(指定校推薦含む)も存在するが、これは学校の推薦が必要な点を除けば総合型選抜と類似する。しかし、特に指定校推薦は内申点のみで入学するケースが多く、学生の学習意欲が伴わないために大学入学後の成績が振るわない問題があった。実際に、大学側から高校に警告がなされ、推薦枠が取り消される事例も報告されており、大学側は明確な学習意欲を持つ学生を求める傾向を強めている。
Q. なぜ探求学習は総合型選抜において重要なのか?
探求学習は総合型選抜で成功するための「礎」となる。自分が本当に学びたいことを見つけ、そのテーマについて大学との連携プログラムなどを活用し、主体的に研究を進める経験が求められる。これは大学に「何を学びたいか」をアピールするための説得力ある材料となる。例えば、神奈川の逗子開成高校では、ヒトデの再利用方法を研究し、最終的に大学の協力を得て除湿剤としての可能性を発見した生徒たちが、この探求活動によって北海道大学や東京海洋大学に合格した。このような事例が示すのは、自ら課題を見つけ、解決しようとする探求プロセスそのものが評価対象であるということだ。
質の高い高大連携プログラムは、生徒に学びの面白さを体験させ、知的好奇心を喚起する。これは特に理系分野で顕著であり、実験装置や研究施設を直接見ることで、具体的な研究内容への興味が高まる。このようなプログラムを通じて中高生が「どうすればいいか」と自力で学びのルートを切り拓く能力は、その後の学問生活だけでなく、社会に出てからも大きな財産となるだろう。探求学習は単なる知識習得に留まらず、論理的思考力、問題解決能力、コミュニケーション能力といった非認知スキルの育成に直結するといえる。
Q. 国内の大学序列はどのように変化しているか?
かつての「東大が頂点」という一強体制は終焉を迎えつつある。東京大学に加え、東京科学大学(旧東京工業大学・東京医科歯科大学)、そして国からの大規模な研究資金を獲得し、女子学生からの人気が非常に高い東北大学が国内トップクラスの大学として並び立つ構図が見られる。特に東北大学は、日本で初めて女子学生を受け入れた旧帝国大学であり、学部を最初から選べるという点で、入学後に学部・学科の選択(進振り)がある東京大学とは異なる魅力を持つ。

また、首都圏の私立理系大学も大きく躍進している。具体的には東京都市大学、芝浦工業大学、東京電機大学、工学院大学などが「東芝電工」と呼ばれ、地方の国立大学を予算面で凌駕している。多くの地方国立大学、特に医学部を持つ大学では、医学部に予算が集中し、他の学部への研究資金が不足しがちである。そのため、高大連携プログラムで大学を視察した生徒は、私立理系大学の充実した研究環境との差を実感し、首都圏の私立理系大学を選ぶ傾向を強めている。偏差値だけではない、各大学の研究体制や提供するプログラムが新たな大学選びの指標となっている。
Q. 海外大学への進学が身近になっているのはなぜか?
海外大学への進学は、かつてないほど身近な選択肢となった。その背景には主に二つの理由がある。第一に、保護者世代の職場がグローバル化し、同僚に外国人がいるのが当たり前となったことで、海外留学に対する心理的ハードルが低下した。世界を舞台にしたビジネスが日常化した結果、国際的な視野を持つ人材へのニーズが高まっているためだ。

第二に、SNSの普及が海外大学の情報を「見える化」した点は革命的である。現地の日本人留学生がInstagramやYouTubeで大学生活を発信したり、LINEを通じてリアルタイムで連絡が取れるようになったりすることで、留学が漠然とした「遠い夢」ではなく、具体的にイメージできる現実的な進路となった。これにより、情報格差が劇的に縮小し、国内大学と海外大学を同じ土俵で比較検討できる時代になった。また、多くの海外大学が優秀な学生を引きつけるために奨学金を充実させており、アメリカ以外のアジアやヨーロッパの大学は学費が比較的安価なケースも多い。
Q. 中学受験における新たな入試形式とはどのようなものか?
中学受験においても、従来の4科目入試から多様な選抜方式が台頭している。特に顕著なのが「英語資格」を優遇する学校の増加である。英検準2級や2級といった英語資格を持つ生徒に対し、試験免除や加点を行う学校が半数近くに達した。例えば、難関女子校である豊島岡女子学園や頌栄女子学院もこの制度を導入している。この傾向は、小学校での英語学習の重要性を一層高めるものとなるだろう。
さらに、中学受験版の「総合型選抜」ともいえる「自己アピール型入試」が注目されている。これは、自分の好きなことや得意なことをテーマに、受験生が自らプレゼンテーションを行うことで合否を判定する方式である。西武学園文理高校(中学)などがこの形式で多くの入学者を受け入れている。これは、明確な動機を持つ生徒は入学後の伸びしろが大きいという学校側の評価に基づいている。従来の学力だけでなく、幼い頃からの情熱を表現する非認知スキルが評価される時代が来ていることを示唆している。
Q. 国際バカロレア(IB)は国内大学進学にもメリットがあるのか?
国際バカロレア(IB)は、海外大学への進学に有利な資格として知られているが、近年は国内大学への進学、特に難関医学部への道も開いている。京都大学、東北大学、横浜市立大学などの医学部が、IBスコアを用いた選抜を導入しており、高スコアを取得した学生は、一般入試の過酷な競争を回避し、面接などを経て合格できるケースが増加している。

実際にIBで医学部に進学した学生は、その主体性、協調性、高い語学力などにより、大学側から高く評価されている。海外の医療機関との連携プログラムなどで推薦を得るなど、IBで培われた能力が発揮される場面も多いという。この「IBによる入試革命」は、日本の教育システム全体に波及し、従来の学力偏重型入試からの脱却をさらに加速させる可能性がある。IBを通じて国内外の多様な進路を自由に選択できる環境が、中高一貫校を中心に整備されつつある。
