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地政学から見る「10年後の世界」
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2025年11月4日

地政学と歴史を踏まえると、「10年後の世界」をどう予測できるのか?米国、中国、欧州、日本はどう変わるか?通貨、株価、AIはどう動くのか?エコノミストのエミン・ユルマズ氏に予測してもらった。 <ゲスト> エミン・ユルマズ|エコノミスト トルコ・イスタンブール出身。16歳で国際生物学オリンピックの世界...
エコノミストが説く「帝国末期」のサイン:ドル危機、トランプ外交、そして日本の進む道
世界は今、地政学的・経済的に極めて不安定な時代を迎えている。かつてないペースで変遷する「お金」の形、揺らぐ米国の覇権、そして各国の思惑が交錯する中で、私たちは何を見据え、どのように行動すべきか。エコノミストのエミン・ユルマズ氏が、株価の裏側から大国の深層心理、日本の取るべき道筋まで、その鋭い視点で紐解いた。

Q. 日経平均の予測が前倒しで実現した背景には何があるか?
2020年に立てた「2025年に日経平均5万円」という予測が、想定よりも早く達成された。この背景には大きく二つの要因がある。一つはドナルド・トランプ元大統領の影響だ。彼がビジネスに友好的な政策(減税、規制緩和など)を推し進めたことで、選挙前から株価には追い風が吹くという見方があった。さらに、日本国内で積極財政かつビジネスフレンドリーな政権が成立したことも重なった。もう一つは、AI半導体関連株が「パラボリックフェーズ」、すなわちバブルの最終局面にみられる急騰(メルトアップフェーズ)に入ったことが挙げられる。
日本株はAI半導体への依存が米国ほど高くない。米国のナスダックが4割近く下落した2022年においても、日本株の下落は2割に留まったのはその証左だ。日本経済は「オールドエコノミー」の比率が高く、米国ほどAIバブル崩壊の影響を深刻には受けにくい構造を持つ。
Q. 現代において、なぜ金(ゴールド)への回帰が起きているのか?
お金は人類最大の発明であり、コイン、紙幣、クレジットカード、デジタルマネーへと、その進化の速度は加速している。現在の金(ゴールド)への回帰は、歴史的に繰り返されてきた「悪貨が良貨を駆逐する」(グレシャムの法則)現象に他ならない。例えば、古代ローマ末期には、財政悪化により金貨の金含有量が減少すると、人々は純度の高い旧貨を貯め込み、質の劣る新貨を流通させた。

現代においても、リーマンショック以降の過剰な金融緩和により、米ドルの価値は実質的に毀損され「悪貨」と化した。そのため、世界中の人々や中央銀行は、価値が目減りする前に金や株式といった「良貨」に資産を移そうと動いている。中央銀行による金の購入量は近年急増し、米国債の保有比率を下げている。これは長期的な「脱ドル化」の明確な始まりと見られる。
Q. 米ドルの国際的地位とアメリカの軍事力はどのように関係しているか?
米ドルの国際的信認と価値は、その強大な軍事力に裏打ちされている。米軍、特に米海軍が世界の貿易ルートの安全保障を担うことで、各国は安心してドルを使い、経済活動を行ってきた。ドルの「担保」は空母であり、トマホークミサイルであり、F-35戦闘機だと言われる所以だ。
世界各国は、この「世界の警察」たるアメリカの役割の対価として、米国債の購入を通じて実質的に「年貢」を納め、米ドルの基軸通貨体制を支えている。アメリカ国民は、この構造によって本来の実力以上の豊かな生活を享受できている。この相互依存関係を理解せずに「世界の警察」の役割を放棄することは、ドルの価値と米国の覇権の土台を自ら崩す行為に等しく、極めて危険である。
Q. トランプ政権の外交スタイルは米国の覇権と世界秩序にどのような影響を与えているか?
トランプ前大統領の脅迫的で高圧的な外交スタイルは、同盟国に多大な不満を与え、米国からの離反を招いている。彼が「世界の警察」としての役割を放棄することは、各国の「年貢」を減らし、最終的にはアメリカの覇権崩壊につながるだろう。
皮肉にも、このトランプ外交はコロナ禍で失われた中国のソフトパワー回復を助けている。他国を苛立たせる米国の言動は、中国に同盟国を引き寄せる機会を与えてしまうからだ。この「トランプ主義」は一時的なものではなく、今後もアメリカ政治に根強く残る可能性がある。このような世界情勢の中で、日本はもはや他国に頼るだけでなく、防衛力を強化し、他国が手出しできない「ドクリンゴ(毒林檎)」となる道以外に、生き残る選択肢はないだろう。
Q. 米国と中国が抱える国内問題が地政学リスクにどう影響するか?
米中両大国は、それぞれ深刻な国内問題を抱え、世界に不安定さをもたらしている。アメリカはトランプ政権下で富裕層優遇が続き、中間層を支える制度や国の競争力に関わる予算が削減され、国のファンダメンタルズを破壊しつつある。これは短期的な株価上昇と引き換えに、長期的な国力を蝕む行為である。

一方、中国は不動産バブルの崩壊、デフレ経済への突入、悪化する人口動態、そして高止まりする若年層の失業率に直面している。また、習近平国家主席への権力集中は共産党内部での不満を高め、潜在的な政治リスクも孕む。米中両大国が不安定な状態にある中で、特に「ディール」で動くトランプ政権は、中国が台湾有事の機会を伺う誘因となりかねない。最悪のシナリオでは、金銭的な見返りにより台湾や尖閣諸島、ひいては日本自体が取引材料とされる危険性すらあると、警鐘を鳴らす専門家もいる。
Q. トランプ政権下のアメリカに見られる腐敗とポピュリズムは、過去の帝国衰退とどう重なるか?
トランプ政権下のアメリカは、大統領一族が公然と利益相反行為(例:自身と妻の仮想通貨発行)を行うなど、深刻な倫理の崩壊を見せている。かつてウォーターゲート事件で大統領が辞任した国とは思えない現状であり、この状況はエルドアン政権下のトルコと酷似し「でっかいトルコ」と形容されることもある。トルコではエルドアン政権によって汚職がシステマティック化し、公的な事業から私的な利益を得る構造が常態化した。

加えて、ポピュリズムの横行はメディアのチェック機能を失わせ、大衆は都合の良い情報のみを信じ、権力者が批判を受けても支持を継続する。かつてメディアは権力を監視する重要な役割を担っていたが、SNSの影響力拡大や一部メディアの買収・支配により、この均衡が崩れつつある。これはローマ帝国の末期にも通じる、「帝国の末期」の兆候だと捉え得る。
Q. アメリカの回復力は依然として強いと言えるか?そして今後の米政治の方向性は?
このような状況にあっても、アメリカにはまだ強い復元力があると見られている。世界トップクラスの優秀な人材が集まり、アングロサクソン・プロテスタントに根ざす基礎的な道徳性も完全に失われたわけではない。国が一時的に道を外れても、それを修正する能力が備わっていると考えられる。
しかし、トランプのカリスマ性は天賦の才であり、他の誰にも真似できない特異なものであるため、彼が退けば、トランプ主義自体は残るが、強力な後継者不足から来る混乱が生じる可能性がある。また、プーチンやエルドアンのように、強力なポピュリストリーダーが憲法改正や非常事態宣言を口実に3期目を目指す可能性もゼロではない。歴史の教訓は、一度権力を握った強力なポピュリストが司法やメディアを掌握すると、その力を覆すことが極めて困難になることを示している。